2022 年 125 巻 7 号 p. 1087-1091
聴神経腫瘍の診断の遅れが問題視されている. 年間発症率が10万人に1人と低いことから, 一側性感音難聴の患者の診療において聴神経腫瘍へ疑いの目が向けられにくく, 初発症状から腫瘍の発見までに平均で数年かかることが報告されている. 診断の遅れに加担するもう一つの要素として, 一側性急性感音難聴が「突発性難聴」と診断され, 聴神経腫瘍が除外されないまま治療が終了するケースが非常に多いことが挙げられる.「突発性難聴」は腫瘍や感染・血管障害などの原因を除外してつけられる診断名であり, 突発的に発症する感音難聴の中に少なからず聴神経腫瘍が隠れているという事実は, 腫瘍の治療を担当する側で多くの症例で詳細な現病歴をとり続けてはじめて認識できることである. 一般的に「腫瘍が原因であれば難聴は徐々に生じたり進行する」と考えられがちであるが, 実際のところは, 筆者の聴神経腫瘍シリーズで半数以上において突発的な難聴や耳鳴のエピソードが見られている.「聴神経腫瘍はしばしば急性の難聴や耳鳴で発症する」ことは, すでに一部の耳鼻咽喉科医には既知の知識であるが, この事実を初診を担当する多くの耳鼻咽喉科医に啓発していかない限り, 診断の遅れが解消されることはない. 手術する側が持っている情報を開示し, 耳鼻咽喉科医の診療の参考に供したい.