中耳真珠腫は病態が極めて多様であること, 進行性に種々の合併症を引き起こし得ることなどから制御するのが困難な疾患である. 治療方針の決定に際しては, 患者の年齢, 聴力, 真珠腫の型, 進展範囲, 乳突腔の発育や含気の状況, 鼓室含気の状況, 鼓膜の状態, 耳小骨, 半規管, 頭蓋窩, 顔面神経管などの骨破壊の有無, 感染の状況など, 多くの要素を総合的に評価することがまず必要となる. 鼓室形成術の術式は, 乳突非削開, 外耳道保存型, 外耳道後壁削除・乳突非開放型, 外耳道後壁削除・乳突開放型に分類されるが, 各術式の特性と適応とされる病態をよく理解する必要がある. しばしば骨破壊性病変を伴うこと, 真珠腫上皮の取り残しや術後の鼓膜・外耳道上皮の再陥凹により遺残性再発や再形成性再発を高率に来すことなどから, 中耳真珠腫の手術はほかの中耳炎症性疾患に対する手術とは一線を画す. 真珠腫手術には完全に病変を摘出する手技と, 破壊された, もしくは摘出のため削除した構造物を適切に再建する手技が必要となる. また各症例の病態を分析し, 根拠に基づいた再形成防止策を講じることが求められる. 真珠腫の摘出には真珠腫上皮―上皮下組織―中耳粘膜―骨膜の layer を意識することが重要となる. 再発防止策としては, 上鼓室側壁, 外耳道後壁の段差のない再建がポイントとなる.また乳突腔充填症例では上鼓室の密な充填が成功の鍵となる.