日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報
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総説
耳鼻咽喉科頭頸部外科診療の新機軸―前庭リハビリテーション―
伏木 宏彰
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2024 年 127 巻 1 号 p. 1-9

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抄録

 一側の末梢前庭が障害されるとめまい・平衡障害が出現するが, 前庭代償によりめまい・平衡障害は次第に回復する. しかし, 前庭代償が遅延してめまい・平衡障害が持続する例も少なくない. こうした末梢前庭障害に対する薬物治療の効果は限定的である. 2015年のコクランレビューは, 一側末梢前庭障害患者に対する前庭リハビリテーションは中等度から強いエビデンスがあり, 安全かつ効果的な方法であることを報告した. 近年, 本邦からも前庭リハビリテーションの有効性を示す RCT の論文が発表されている. 2021年日本めまい平衡医学会は, 臨床現場で医師が前庭リハビリテーションを行えるように標準的な訓練方法を提案した. 前庭リハビリテーションは, 前庭障害に対する治療の新機軸として注目されている.

 われわれのグループは, 65~74歳のめまい患者の42.9%に転倒リスクがあること, 65歳以上の前庭障害患者の3人に1人は下半身の筋肉量低下と歩行速度低下を特徴とした前庭性サルコペニアを合併していることを明らかにした.

 前庭リハビリテーションは, めまい症状の改善や視線の安定化, バランスや歩行障害の改善, 転倒リスクの軽減に大きな効果をもたらす. 近年, 理学療法士と連携する機運も高まっている. 保険診療, リハビリテーション専門職と連携して行う診療体制, 教育環境の整備などの課題解決が質の高い前庭リハビリテーション普及の鍵となるであろう.

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