糖尿病患者の聴覚検査成績の不一致, ヒト側頭骨組織所見での難聴を証明するに足る証拠不足, 特に実験的糖尿病動物における難聴発症に関する同様の事実不足, などから糖尿病性難聴の存在に関しては臨床経験的でしかなかった. 今回, マウスを用いて, 実験的アロキサン糖尿病を作り, 総合的に聴覚障害の有無を研究し, 以下の結果を得た.
(1) 生化学的研究: ヒト側頭骨病理所見や実験的糖尿病内耳において, PAS陽性物質の蓄積, 沈着が報告されていることに着目し, 結合組織基質の重要物質である酸性ムコ多糖を経時的に定性定量した. その結果, 内耳, 脳, 肝臓, 腎臓, 膵臓において増加することが証明され, これが microangiopathy を起こす原因の一つと考えられた.
(2) 形態学的研究: セロイジン切片のH-E染色, surface preparation のSDH染色およびアルカリ・フォスファターゼ染色により総合的に検索した結果, アロキサン糖尿7ヵ月以後において蝸牛有毛細胞の障害 (特に基底回転の外有毛細胞) および放射状細動脈領域の血管の microangiopathy が証明された.
(3) ABRなどによる他覚的聴力検査: アロキサン糖尿7ヵ月以後において用手プライエル耳介反射の消失, ABRによる域値上昇が証明され, 糖尿病性難聴が明らかに発現していることを証明した.
以上, 今まで実験的糖尿病における難聴の証明が不確実であったが, マウスを用いたアロキサン糖尿病で成功した. これによって臨床的な糖尿病性難聴の存在もより確実にすることができたが, 個体差の多いことも示唆された.