腸内細菌学雑誌
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総説
腸管粘膜表面の免疫監視におけるM細胞の重要性の解明
長谷 耕二
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2012 年 26 巻 1 号 p. 11-17

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抄録

腸管粘膜は,食餌とともに摂取される病原菌やウイルス,さらには100兆個にも及ぶとされる腸内常在細菌に曝されており,常に感染の危険と隣り合わせにある.こうした危険性に対処するため,上皮細胞は堅牢なタイトジャンクションを形成し,体の内と外を隔てる物理的障壁となるのみならず,ムチンバリアの形成や抗菌ペプチドの分泌などを介して,積極的な宿主防御の役割を果たしている.さらに腸管には全末梢リンパ球の60-70%が集積しており,恒常的に大量の分泌型IgAを産生している.このような免疫応答が正常に機能するためには,粘膜上のマクロ抗原や微生物が,パイエル板や孤立リンパ小節などの消化管関連リンパ組織(GALT)へと,効率的に輸送される必要がある.そのため腸管上皮層は,物理的バリアとしての機能を損なうことなく,腸管内腔に存在する抗原をGALTへ供給し,適切な免疫応答を保証しなければならない.GALTにはリンパ球が集積して濾胞を形成しており,その表面は濾胞関連上皮層(follicle-associated epithelium; FAE)と呼ばれるドーム状の上皮細胞層に覆われている.FAEにはM細胞が存在しており,粘膜上のマクロ抗原を認識しリンパ濾胞へ受け渡す役割を果たしている.その分子機構は長い間不明であったが,私達の研究から,M細胞に発現するGlycoprotein 2(GP2)や細胞性プリンオン蛋白(PrPC)などのGPI-アンカー型膜蛋白質が,特定の細菌を認識し,パイエル板への取り込みを促進することが明らかとなった.また本研究の過程で,離れたM細胞同士が膜ナノチューブと呼ばれる特殊な膜構造物によって細胞間ネットワークを構築することで,抗原捕捉の効率を高めているという全く予想外の現象が見出された.これまで膜ナノチューブの形成機構についてはほとんど分かっていなかったが,M細胞に高発現するM-Secと名付けた分子が,膜ナノチューブの形成因子であることを明らかにした.以上より,M細胞の機能の一端が分子レベルで明らかになるとともに,腸管粘膜表面の免疫監視におけるM細胞の重要性が実証された.

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© 2012 (公財)日本ビフィズス菌センター
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