Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
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Development of Measurement System for pH Distribution on Metal Surface under Atmospheric Corrosion
Youhei HirohataKentaro NishidaTakumi HarunaKazuhiko Noda
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2017 Volume 81 Issue 11 Pages 495-501

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抄録

Thin water film is formed on metal surfaces that are exposed to the atmosphere. The conditions of this film change according to environmental factors, such as temperature, wind, and rainfall. Hence, it is difficult to investigate atmospheric corrosion on metal surfaces.

This paper aimed to develop a measurement system for the pH distribution on a metal surface in simulated atmospheric environment. The surface pH distribution was measured with agar film including pH indicators and MgCl2. The pH indicators used were a universal indicator and an MR-BTB indicator. Agar film of 0.5 mm thickness was placed on an iron specimen. The specimen was set in a chamber with a relative humidity of 100% to prevent the agar film from drying out. The surface pH distribution was determined from the color of the agar film with an RGB color model. The surface pH distribution on the iron showed that anodic reactions produced acidic regions and cathodic reactions produced basic regions. The observed phenomena were the same as that found under a water droplet which contained the pH indicator and MgCl2. Therefore, we conclude that the agar film could simulate thin water film in an atmospheric environment and allow measurement of the surface pH distribution on iron under atmospheric corrosion.

1. 緒言

大気環境に曝露された金属の表面には,極めて薄い液膜が付着している.この液膜の溶媒は大気中から供給される水であり,溶質は大気物質であるO2やCO2,汚染物質であるSOXやNOX,海塩粒子などである.大気環境下では気象の変化,すなわち雨や風,気温などの影響を受け,液膜厚さやpH,溶存酸素濃度,電解質濃度などに代表される液膜の性状が常に変化している.このように多くの因子が大気腐食に複雑に作用することから,大気腐食反応の解析は困難となる1,2,3,4.大気腐食反応に伴う腐食部近傍のpH変化により,金属表面に形成された液膜のpH分布は不均一となる.電位-pH図で表されるように,曝露された環境のpH変化は腐食に影響を与え,腐食速度などを変化させる5.このことから,大気腐食中の金属表面に形成された液膜のpH分布を正確に測定することは腐食評価において重要である.たとえば,母材鋼露出部をもつZn系めっき鋼板の表面pH測定を光走査型化学顕微鏡(Scanning chemical microscope: SCHEM)により行い,アノード場であるめっき部表面は酸性化,カソード場である母材鋼露出部は塩基性化することが報告されている6.また,Zn系めっき鋼板上に形成した溶液内のpH分布について,タングステン電極を走査させることで測定を行った報告もある7.しかし,大気環境下の金属表面に形成された液膜のpH分布測定は,液膜が極めて薄いことから,pHメーター等の一般的な測定技術を適用することが困難である.また,pHの測定方法として,SCHEMやアンチモン電極法などが開発されているが8,大気環境を模擬することが困難である.そのため,大気環境下において金属表面に形成された液膜のpH分布測定装置の開発が求められる.

本報告では,大気腐食過程における腐食機構および環境の変化を調査するために,大気腐食中における金属表面のpH分布測定装置の開発を行った.広範囲pH指示薬および電解質物質を含有した寒天膜を用いることで,大気環境下における液膜を模擬した.種々の濃度の溶質を含む液膜を模擬するとともに,液膜に生じるイオンや腐食生成物の急激な拡散を抑え,pH分布をその場で測定することを試みた.

2. 実験方法

2.1 試料

供試材として純度 99.5 mass%の純鉄を使用した.厚さ 2 mmの供試材をマイクロカッターを用いて 10 mm×10 mm×2 mmに加工した.その後,エメリー紙で#800まで乾式研磨を行い,表面をエタノール・純水で脱脂・洗浄し,試料とした.

2.2 広範囲pH指示薬の作製

広範囲pH指示薬として山田式指示薬9を適用した.山田式指示薬はFig. 1 に示したチモールブルー,メチルレッド,フェノールフタレイン,ブロモチモールブルーの4種類のpH指示薬を適切に混合することにより,Table 19,10に示すようにpH 0からpH 14までのpHが測定可能なpH指示薬である.チモールブルー粉末,メチルレッド粉末,フェノールフタレイン粉末,ブロモチモールブルー粉末をTable 29に示す濃度となるように調製し,エタノール10×10-6 m3に溶解させた.その後,0.05 kmol・m-3 NaOH水溶液にて,Table 1 に示すようにpH 7を示す緑色に調整し,純水を約10×10-6 m3加えた.

Fig. 1

Chemical structures of pH indicators. (a) Thymol blue, (b) Methyl red, (c) Phenolphthalein and (d) Bromothymol blue.

Table 1 Relation between pH and color of Yamada’s indicator and MR-BTB indicator9,10.
pHColor of Yamada’s indicatorColor of MR-BTB indicator
0dark redred
1dark redred
2redred
3redred
4orange-redred
5orangered
6yelloworange
7greenyellow
8blueyellow-green
9indigogreen
10indigo-purpleblue
11purpleblue
12purpleblue
13dark purpleblue
14dark purpleblue
Table 2 Chemical composition of Yamada’s indicator9.
IndicatorConcentration,c/kmol・m-3
Thymol blue5.4×10-5
Methyl red2.3×10-4
Phenolphthalein1.6×10-3
Bromothymol blue4.0×10-4
(Solvent: ethanol)

2.3 MR-BTB混合指示薬の作製

MR-BTB混合指示薬10はメチルレッドとブロモチモールブルーの2種類のpH指示薬を適切に混合することにより,Table 1 に示すようにpH 5からpH 10までのpHが測定可能なpH指示薬である.メチルレッド粉末およびブロモチモールブルー粉末をTable 310に示す濃度となるように調製し,エタノール20×10-6m3に溶解させた.その後,0.05 kmol・m-3 NaOH水溶液にて,Table 1 に示すようにpH 7を示す黄色に調整し,純水を約20×10-6 m3加えた.

Table 3 Chemical composition of MR-BTB indicator10.
IndicatorConcentration,c/kmol・m-3
Methyl red7.0×10-4
Bromothymol blue5.6×10-3
(Solvent: ethanol)

2.4 pH 0からpH 14の水溶液の作製

H2SO4水溶液およびNaOH水溶液を用いて,pH 0からpH 14までの水溶液を調製した.なお,pHの調整は測定範囲がpH 0-14のpHメーター(堀場製作所製,F-71)を用いて行った.

2.5 pH指示薬の色の変化

純水4.0×10-6 m3に寒天粉末 0.10 gを加え,加熱・溶解した.その後,約 323 Kになるまで冷却し,2.2節で作製した山田式指示薬0.5×10-6 m3または2.3節で作製したMR-BTB混合指示薬0.5×10-6 m3を加えた.さらに電解質物質として,ゲル化させる前の混合溶液のMgCl2濃度が 0.05 kmol・m-3となるようにMgCl2水溶液0.5×10-6 m3を加えた.厚さが均一な寒天膜(90 mm×65 mm×0.50 mm)を作製する装置の概略図をFig. 2 に示す.Fig. 2 に示すように,0.50 mmのポリスチレン板を挟んだアクリル板の隙間に,作製した混合溶液を流し込み,室温に冷却させることでゲル化させた.pH指示薬およびMgCl2を含有した寒天膜の色を測定する装置の概略図をFig. 3 に示す.Fig. 3 に示すように,作製した寒天膜から直径5 mmの円板状試験体を切り取った後,試料表面に設置し,2.4節で作製したpH 0からpH 14までの水溶液を滴下し,pH変化に伴う寒天膜の色の変化を調べた.なお,pHが既知の水溶液により呈色した寒天膜のRGB値(RGBカラーモデル)を測定することで,色をRGB値により定義した.ただし,測定の際にはカメラ(FUJIFILM製,JX420)により上部から撮影を行うが,腐食が発生しないように寒天膜を設置後,60 s以内に撮影を行った.また,試料表面にはカメラが映り込まず,垂直に設置した白色ポリスチレン板のみが映り込むように,試料台を 0.05π rad傾けて測定を行った.照明は白色ポリスチレン板に照射し,間接照明とすることで,試料表面を均一に照らした.また,白色蛍光灯下(色温度 4200 K)での白色ポリスチレン板の白色を基準とし,ホワイトバランスが一定となるように調整した11

Fig. 2

Schematic drawing of a template for agar film (mm).

Fig. 3

Schematic drawing of measurement system for color of pH indicators.

2.6 腐食に伴う純鉄表面のpH分布変化

大気腐食中における金属表面のpH分布測定装置の概略図をFig. 4 に示す.Fig. 4 に示すように,作製した寒天膜(90 mm×65 mm)から直径 5 mmの円板状試験体を切り取った後,試料表面に設置し,試料表面のpH分布変化に伴う色の経時変化を測定した.なお,測定時間は 1.8 ks毎に 5.4 ksまでとした.さらに,2.5節で得られた既知のpHに対応するRGB値から,未知のpHをRGB値を用いて決定した.ただし,寒天膜の乾燥を防ぐために,測定容器内のRHを100%とした.寒天やpH指示薬,MgCl2の存在が腐食挙動に与える影響を調査するために,同濃度のpH指示薬またはMgCl2のいずれかを含有した寒天膜,いずれも含有していない寒天膜,また,寒天を用いない,同濃度のpH指示薬およびMgCl2を含む同体積の液滴の場合についても同じ条件下においてpH測定を行った.

Fig. 4

Schematic drawing of measurement system for pH distribution.

3. 結果および考察

3.1 pH指示薬の色とpHの関係

3.1.1 pHを変化させたときのpH指示薬の色とRGB値の変化

純鉄表面に設置した山田式指示薬を含有した寒天膜に,pHが既知の水溶液を滴下したときの色およびRGB値とpHの関係をFig. 5 に示す.Fig. 5 には同じ試験を2回行った結果を示す.ただし,縦軸はRGB値の合計を1としたときのそれぞれの割合であり,R値は○,G値は△,B値は□によりそれぞれプロットした.pH 0の水溶液を滴下した場合では赤紫色を示したが,pHの上昇に伴い徐々に緑色を帯び,pH 5-10においては緑色を示した.さらにpHが上昇すると徐々に青色を帯び,pH 14では紫色を示した.一方,RGB値については,いずれの値もpH 0-5およびpH 10-13で大きく変化したが,pH 5-10およびpH 13-14においては小さな変化であった.そのため,pH 0-5およびpH 10-13においてはRGB値からpHを決定することは可能であるが,pH 5-10およびpH 13-14においてはRGB値からpHを決定することは困難と考えられる.そこで,山田式指示薬の代わりにMR-BTB混合指示薬を用いて同様の試験を行った.その結果をFig. 6 に示す.Fig. 6 には同じ試験を3回行った結果を示す.pH 0-5においては橙色を示したが,pH 6-8においては緑色,pH 9-14においては青色を示した.一方,RGB値については,pH 5-10において大きく変化したことから,pH 5-10においてはRGB値からpHを決定することが可能であると考えられる.

Fig. 5

Changes in color and RGB values of the agar film including Yamada’s indicator with pH.

Fig. 6

Changes in color and RGB values of the agar film including MR-BTB indicator with pH.

3.1.2 RGB値からpHの算出

RGB値からpHの算出において,RGB値の中で,pHの変化に対して直線的かつ大きく変化する値として,山田式指示薬およびMR-BTB混合指示薬のいずれについてもB値を採用した.Fig. 5 より,山田式指示薬のpH 10-13におけるB値について直線近似を行い,(1)式を得た.   

B=0.044   pH-0.16 (1)
ただし,pH 10-13の範囲のみ(1)式は適用される.またFig. 6 より,MR-BTB混合指示薬のpH 5-10におけるB値について直線近似を行い,(2)式を得た.   
B=0.068   pH-0.20 (2)
ただし,pH 5-10の範囲のみ(2)式は適用される.以下に示す試験については(1)(2)式を用いてB値からpHの算出を行った.

3.2 純鉄表面の腐食に伴うpH分布の経時変化

pH指示薬およびMgCl2を含有した寒天膜を作製し,純鉄表面に設置した.そのときの表面反応に伴う寒天膜の色およびpHの経時変化を,山田式指示薬を用いた場合にはFig. 7 に,MR-BTB混合指示薬を用いた場合にはFig. 8 に示す.なお,Fig. 7 の各部位におけるpHをB値から決定する際には,Fig. 5 に示した山田式指示薬の(1)式を,Fig. 8 の各部位におけるpHをB値から決定する際には,Fig. 6に示したMR-BTB混合指示薬の(2)式を用いた.Fig. 7 について,測定開始時では中性を示す緑色で全体が均一であったが,3.6 ks後では点線で囲まれた円形の部分が弱酸性を示す橙色に変化し,それを取り囲むように外側がpH 11.7を示す紫色となった.5.4 ks後では橙色に変化した円形の部分が拡大し,それを取り囲む外側がpH 13.1を示す紫色となった.また,Fig. 7(e)に示すように寒天膜を取り除いた後,橙色に変化した部分において腐食を確認した.一方Fig. 8 について,測定開始時ではpH 8.3を示す黄緑色で均一であったが,1.8 ks後では均一にpH 9.2を示す緑色に変化した.3.6 ks後では点線で囲まれた円形の部分がpH 7.2を示す黄緑色に変化し,それを取り囲むように外側がpH 10以上の塩基性を示す青色となった.5.4 ks後では黄色に変化した円形の部分の拡大が確認され,pH 6.7を示した.また,Fig. 8(e)に示すように寒天膜を取り除いた後,黄色に変化した部分において腐食を確認した.

Fig. 7

(a)-(d) Change in pH distribution on Fe surface with time by the agar film including Yamada’s indicator and MgCl2 and (e) Fe surface after measurement. Time : (a) 0, (b) 1.8, (c) 3.6 and (d) 5.4 ks.

Fig. 8

(a)-(d) Change in pH distribution on Fe surface with time by the agar film including MR-BTB indicator and MgCl2 and (e) Fe surface after measurement. Time : (a) 0, (b) 1.8, (c) 3.6 and (d) 5.4 ks.

純鉄表面に設置したpH指示薬およびMgCl2を含有した寒天膜はFig. 78 に示すように,3.6 ks後では異なる2色の部分に分離した.これらの部分について,カソード場では(3)式のように溶存酸素の還元反応により水酸化物イオンを生じるため,pHが上昇し塩基性を示したと考えられる.   

O 2 +2    H 2 O+4    e - 4   O H - (3)
また,アノード場では(4)式のように鉄が溶解し,鉄(II)イオンを生じる.   
FeF e 2+ +2    e - (4)
溶解した鉄(II)イオンの一部が(5)式で示されるように加水分解反応し,水素イオンを生じるため,アノード場ではpHが低下し酸性を示したと考えられる.   
F e 2+ + 2    H 2 OFe (OH) 2 +2    H + (5)
これらのことから,pHが低下する点線で囲まれた円形の部分がアノード場,それを取り囲むようにpHが上昇する外側の部分がカソード場に対応すると考えられる.

ここで,Fig. 78 の黒点で印した位置から得られたカソード場とアノード場に対応するpHの経時変化をFig. 9 に示す.なお,B値からpHを決定する際に,pH 10-13についてはFig. 5に示した山田式指示薬の(1)式を,pH 5-10についてはFig. 6 に示したMR-BTB混合指示薬の(2)式を用いた.Fig. 9 に示すように 1.8 ksまでpHの分離は確認されず,アノード場およびカソード場の分離は生じていないことがわかる.純鉄表面全体にわたってpHの上昇が確認された.これは腐食がわずかであり,(4)式のアノード反応により生じたごく少量の鉄(II)イオンのみしか,(5)式の加水分解反応による水素イオンを生じさせなかったためと考えられる.また,pHが上昇することで腐食生成物である酸化水酸化鉄(III)が熱力学的に安定化し,不働態皮膜を形成する.なお,塩化物イオン存在下の水溶液中においても,浸漬初期では炭素鋼が不働態化することが報告されている12.一方,純鉄において不働態皮膜が形成されるのは約pH 10とされているので13,3.6 ks後でpH 10に到達し,不動態皮膜が形成された後,塩化物イオンにより不働態皮膜は破壊され,アノード場とカソード場の分離が生じたと考えられる.このようにカソード場とアノード場が分離して腐食が進行する挙動は,薄い液膜下における炭素鋼表面について,ケルビン法によりカソード場とアノード場が分離して腐食が進行することを検出した報告と一致している14.また,カソード場のpH上昇とアノード場のpH低下は,SCHEMによりアノード場の酸性化およびカソード場の塩基性化を検出した報告と一致している6.純鉄における不働態皮膜はステンレス鋼のそれとは異なり,大気環境下では強い保護作用を示さないことから,腐食は表面に拡がるように進行する傾向にある15

Fig. 9

Changes in pH of the anodic and the cathodic sites on Fe surface with time.

本研究ではB値を用いてpHの算出を行ったが,その正当性を検証するためにR値およびG値も合わせて評価した.Fig. 9 における各時間のpHについて,Fig. 7 およびFig. 8 より得られたRGB値の測定値,Fig. 5 およびFig. 6 より得られたRGB値の基準値をTable 4 に示す.なお,基準値はFig. 5 およびFig. 6 において,各pHのRGB値についてそれぞれの平均値を算出し,その近似曲線から求めた.Table 4 に示すように,B値以外のR値およびG値についても,測定値は基準値とほぼ一致しているため,未知のpHをB値だけで判断することが可能であることが示された.

Table 4 Reference and measurement RGB values of the agar film including pH indicator in Fig. 9.
Time, t/kspHReference RGB values from Figs. 5, 6Measurement RGB values from Figs. 7, 8
08.3(0.215, 0.426, 0.371)(0.242, 0.387, 0.371)
1.89.2(0.184, 0.374, 0.430)(0.181, 0.388, 0.430)
3.6Cathode11.7(0.274, 0.455, 0.293)(0.312, 0.396, 0.293)
Anode7.2(0.317, 0.318, 0.359)(0.300, 0.342, 0.359)
5.4Cathode13.1(0.319, 0.441, 0.257)(0.381, 0.362, 0.257)
Anode6.7(0.316, 0.255, 0.419)(0.306, 0.275, 0.419)
(R, G, B)

3.3 pH指示薬・MgCl2・寒天の影響

山田式指示薬またはMR-BTB混合指示薬のみを含有した寒天膜を純鉄表面に設置すると,測定時間内である 5.4 ksまで色の変化は確認されず,山田式指示薬の場合では中性を示す緑色,MR-BTB混合指示薬の場合では黄緑色で均一であった.また,腐食は認められなかった.pH指示薬もMgCl2も含有しない寒天膜を設置すると,測定時間内である 5.4 ksまで色の変化は確認されず,無色透明で均一であった.また,腐食は認められなかった.このことから,山田式指示薬およびMR-BTB混合指示薬,寒天は,測定時間内において純鉄に腐食を誘発しないことが示された.

純鉄表面に設置したMgCl2含有寒天膜の色の経時変化をFig. 10 に示す.Fig. 10 に示すように,MgCl2含有寒天膜の色は,測定開始時では無色透明で均一であったが,3.6 ks後では点線で囲まれた円形の部分が赤褐色に変化した.5.4 ks後では赤褐色に変化した円形の部分の拡大が確認された.また,赤褐色に変化した部分において腐食を確認した.これは腐食生成物である赤褐色の酸化水酸化鉄(III)に起因するものと考えられる.ここでFig. 10 の点線で囲まれた赤褐色部分におけるRGB値は(R, G, B)=(0.33,0.33,0.34)であり,B値を用いて判断すると(2)式よりpH 7.9となる.一方,赤褐色以外の無色透明の部分のRGB値は(R, G, B)=(0.30, 0.32, 0.38)であり,B値を用いて判断すると(2)式よりpH 8.5となる.このことから,B値からのpHの算出において,アノード場では腐食生成物である酸化水酸化鉄(III)による誤差が生じることに注意が必要である.

Fig. 10

Change in color of the agar film including MgCl2 on Fe surface with time. Time : (a) 0, (b) 1.8, (c) 3.6 and (d) 5.4 ks.

純鉄表面に滴下した山田式指示薬およびMgCl2を含有した液滴の色の経時変化をFig. 11 に示す.Fig. 11 に示すように,この液滴の色は,測定開始時では中性を示す緑色で均一であったが,3.6 ks後では点線で囲まれた円形の部分が弱酸性を示す橙色に変化し,それを取り囲むように外側が塩基性を示す青色となった.5.4 ks後では橙色に変化した円形の部分が拡大し,その位置も変化していることを確認した.なお,橙色に変化した部分において腐食を確認した.また,純鉄表面に滴下したMR-BTB混合指示薬およびMgCl2を含有した液滴の色の経時変化をFig. 12 に示す.Fig. 12 に示すように,この液滴の色は,測定開始時では中性を示す黄緑色で均一であったが,3.6 ks後では点線で囲まれた円形の部分が弱酸性を示す橙色に変化し,それを取り囲むように外側が塩基性を示す青色となった.5.4 ks後では橙色に変化した円形の部分が拡大し,その位置も変化していることを確認した.なお,橙色に変化した部分において腐食を確認した.今回使用した液滴の場合についても,Fig. 78 に示した寒天を用いた場合と同様に,3.6 ksでは異なる2色の部分すなわちアノード場とカソード場に分離した.なお,液滴の場合よりも寒天を用いた場合の方が分離するまでに時間を要する傾向が確認された.時間の経過に伴い点線で囲まれたアノード部分が拡大する挙動が確認されたが,液滴内に生じた水素イオンや鉄イオンが比較的速く拡散することにより,アノード場とカソード場の境界を明瞭に確認することは困難であった.

Fig. 11

Change in pH distribution of a droplet including Yamada’s indicator and MgCl2 on Fe surface with time. Time : (a) 0, (b) 1.8, (c) 3.6 and (d) 5.4 ks.

Fig. 12

Change in pH distribution of a droplet including MR-BTB indicator and MgCl2 on Fe surface with time. Time : (a) 0, (b) 1.8, (c) 3.6 and (d) 5.4 ks.

以上のことから,寒天膜を用いることで,大気環境下における液滴下の腐食すなわち大気腐食を模擬できることが示された.また,寒天膜を用いることで,液膜に生じる水素イオンや鉄イオンの急激な拡散を抑え,純鉄表面のpH分布をその場で測定できることが示された.

4. 結言

pH指示薬およびMgCl2を含有した寒天膜を純鉄表面に設置し,相対湿度が100%の容器内にて保持した.そのときの寒天膜の色の変化より,大気腐食中における金属表面のpH分布の経時変化を調査した結果,以下の知見を得た.

(1) 寒天膜を用いることで,大気腐食環境下における純鉄表面に付着する液膜を模擬できることが示された.

(2) pH指示薬およびMgCl2を含有した寒天膜を用いることで,液膜に生じる水素イオンや鉄イオンの急激な拡散を抑え,純鉄表面のpH分布をその場で測定できることが示された.

(3) pH指示薬およびMgCl2を含有した寒天膜を設置した純鉄表面では,pHが低下するアノード場とpHが上昇するカソード場を生じることが確認された.

(4) pH指示薬およびMgCl2を含有した寒天膜の色をRGB値により数値化し,pHとの相関関係を求めることにより,RGB値からpHを決定できることが示された.

(5) 大気腐食中における金属表面のpH分布測定に対して,pH指示薬およびMgCl2を含有した寒天膜によるpH分布測定装置の有用性が示された.

引用文献
 
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