Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
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Martensitic Transformation Induced at Low and High Temperatures on Ti-15V-7Al Alloy
Yoshito TakemotoMiyu TsunekawaYuji ManabeSoushi ItanoYuji Muraoka
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2018 Volume 82 Issue 8 Pages 307-313

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抄録

Martensitic transformation behavior during cooling and heating of Ti-15V-7Al was investigated. The alloy was heated at 1050°C under a vacuum and quenched into an iced water. The structure of the quenched specimen consist of most β-phase and a small quantity of α” martensite at near grain boundaries. The elastic bent strip using a jig exhibited spontaneous shape change into the bending direction with heating. By sub zero treatment using LN2, some martensites were newly formed at around prior martensites formed by quench, but no martensite was formed at the single β region. The martensite formation by the sub zero treatment exhibited a time dependence. Even tempering at 550°C for a few second dramatically induced coarse martensites all over the specimen. All martensites, formed by the quenching, the sub zero treatment, or the tempering, disappeared completely by the heat treatment at 200°C for 300 s, and turned into a single β phase. However, the coarse martensites were regenerated again from the single β phase by the tempering at 550°C for a short time, which means the martensite behavior in the range of 200~550°C is reversible. Continuous isothermal aging at 550°C led to a remarkable hardening through the process of β→coarse α”→fine α”→β+fine α. Both the Ms curve and the free energy model with a spinodal decomposition of α, which can explain the martensite formation at low and high temperatures, were proposed.

1. 緒言

β型Ti合金の焼入れで形成される準安定相には,低組成側からα’相(hcp),α”相(ortho.),ω相(trig.)が知られており1,2,前の2つはマルテンサイトとして光顕でも観察できるが,ω相は非常に微細であるためTEMを用いないと観察できない.これらの準安定相は機械的性質に大きな影響を及ぼすとともに,TWIP(双晶誘起塑性)3,4,低ヤング率5,形状記憶6など機能性発現においても重要である.一般にMo,V,Nbといったβ安定化元素を添加したβ型Ti合金の特性は,Mo当量7や分子軌道法によるBo-Md値8,原子価電子濃度Δe/a9などによって整理されるが,α安定化元素であるAlを多量に添加した合金では,これらの手法で特性が予測できないことが分かってきた10,11,12,13.特にβ下限組成に 7 mass%のAlを添加した合金では,溶体化焼入れ(STQ)でβが安定化し,これを400~500°Cで焼戻すと,ごく短時間でα”マルテンサイトが形成され,急速に硬化する.さらにSTQ材をわずかにひずませて加熱すると,ひずみ方向に自発的に形状が進展する機能も発現する.また合金組成によってはU字曲げしたSTQ材を加熱すると,形状回復が起こった後,U字方向に進展するものもある.著者らはこれまで主にTi-(4Fe, 10Mo, 35Nb)-7Alでこの特異現象の発現を報告した10,11,12,13.しかしながら,現象の本質であるβα”変態および逆変態について不明な点が多く残されている.たとえば,焼入れで残留した高温β相は,サブゼロ処理でα”に変態するのか?焼入れα”が200°C付近の焼戻しでβに逆変態するにもかかわらず,さらに高温で再びα”が形成されるのはなぜか?などの疑問がある.本研究では既報10,11,12,13と同じ組成条件を満たすTi-15V-7Al合金を用い,マルテンサイト変態の全容を明らかにする目的で,サブゼロ処理に伴うα”変態と550°C焼戻しによるα”変態,および200°Cにおけるα”→β逆変態について調査を行った.

2. 実験方法

実験に用いたTi-15V-7Al合金(以後15VAと呼称)の化学組成をTable 1 に示す.酸素は 0.083 mass%であり,Ti合金としては多少低い方である.厚み 3.5 mmの15VA合金板材から小片を切り出し,機械研磨および脱脂後,真空中(5×10-4 Pa以下)1050°Cで 1.8 ksの溶体化処理(ST)の後,氷水中に焼入れ(STQ)を行った.最初に15VAでも他の合金と同様な特異現象が出現するかどうかを確認するため,STQ材を約 35×2×0.2 mmの薄板形状に仕上げ,U字曲げあるいは弾性曲げを負荷した状態でホットプレートにて420°Cまで加熱し,その形状変化を10°C毎に観察した.ホットプレートによる加熱速度は約0.4°C/sであった.

Table 1

Chemical composition of 15VA alloy.

焼戻し処理は塩浴を用い,サブゼロ処理には液体窒素LN2を用いた.硬さ試験はVickers硬度計を用い,2.94 Nの荷重で15点測定し最大と最小を除いた平均値を採用した.光顕組織観察には熱処理後,機械研磨および電解研磨により鏡面仕上げを行い腐食した.電解研磨は過塩素酸,n-ブチルアルコール,メタノール(体積比=1:6:10),液温-40°C,電圧 20 Vの条件で行い,腐食はフッ酸,硝酸,水(体積比=1:1:10~2)の腐食液を用いた.なお,熱処理に伴う組織変化を明確にするため,各熱処理前後で同一箇所の観察を行った.ただし各熱処理後の光顕観察には,わずかに機械研磨と電解研磨および腐食を行っている.光顕観察後,XRD(エックス線回折CuKα:50 kV-250 mA)測定,STEM(透過型走査電子顕微鏡)観察を行った.STEM試料作製には上記の電解研磨あるいはFIB(集束イオンビーム)法を用いた.STEM観察にはJEM-2100Fを用い,加速電圧 200 kVにて観察を行った.

3. 実験結果および考察

3.1 加熱に伴う形状変化と時効硬化挙動

Fig. 1 はSTQ薄板材を治具を使って弾性曲げをかけたまま加熱したときの形状変化を示す.200°Cを越えたところで湾曲形状が変化し,240°Cで治具から離れ,曲げ方向へと形状が進展した.図には示さないがU字曲げ材については70°Cからわずかに形状回復を示し,280°Cから曲げ方向に形状進展した.このことより15VAでも他の合金11,12,13と同様の特異現象が発現することが分かった.

Fig. 1

Shape evolution with heating of the elastic bent strip of 15VA.

Fig. 2 は各温度での時効硬化曲線を示す.STQ材の硬さは約 280 Hvであった.硬化開始までの潜伏期間は450°Cが最も長く,硬化量も最大であった.また450°C以上の時効温度ではいずれも時効時間 10 s以内で多少の軟化を示した.

Fig. 2

Hardness change with isothermal aging at 250-550°C.

3.2 冷却に伴うマルテンサイト変態

Fig. 3 はSTQとサブゼロ処理後の光顕組織を示す.(a)に示すようにSTQ材の大部分はβ相であり,粒界近傍に多少α”が観察された.しかし観察場所によっては粒界にも全くα”が形成されていないβ単相のところもあった.これをLN2に 900 s浸漬後の組織が(b)である.明らかにα”(サブゼロ処理で形成されたα”をサブゼロα”と呼称する)が増加しており,低温ではα相が安定であることが分かった.しかし,STQで焼入れα”が存在していないβ単相領域では,サブゼロα”は形成されなかった.つまりサブゼロα”が形成されるためには,優先形成サイト(焼入れα”)が必要であると思われる.また(a)と(b)を比べると,冷却で焼入れα”は成長せず,新しいα”が形成されている.

Fig. 3

Optical micrographs before (a)/after (b) sub zero treatment.

サブゼロ処理のどのタイミングでα”が形成されるのかを調査するため,サブゼロ処理に伴う電気抵抗変化を測定した.試料は約 6×3×0.2 mm3のストリップ両端に4端子,試料中央部に熱電対をスポット溶接し,室温から試料を直接LN2に浸漬し保持した.その結果をFig. 4 に示す.約 2 sでLN2温度に到達し,その後,電気抵抗が上昇を始め,約 4 s後に急激に低下し一定となった.LN2には 352 s保持したが,その間の抵抗変化はみられなかった.この結果は,α”マルテンサイトの形成が等温マルテンサイト(熱活性型ともいう)のように時間依存性をもつことを示している.抵抗の上昇過程は非熱的ω相やα”のエンブリオが成長14する段階で,ミクロンオーダーのα”が形成されると同時に抵抗が減少したと考えられる.

Fig. 4

Change in electro resistivity with the sub zero treatment.

3.3 加熱に伴うマルテンサイト変態と逆変態

Fig. 5 は(a)STQ材と(b)550°C-3 s焼戻し材の同一箇所を観察した光顕組織を示す.ごく短時間の焼戻しによって肉眼でも分かるほど粗大な針状組織が全面に形成された.写真には示していないが550°C-1 sの焼戻しでも,(b)ほど多くはないが部分的に針状組織が形成された.前述のサブゼロ処理では焼入れα”の存在しないところにはα”は形成されなかったが,550°Cの焼戻しでは,全ての箇所でこのような組織が形成された.針状組織の構造を明らかにするためXRD測定を行った結果をFig. 6 に示す.STQではほとんどβ相で構成されており,わずかにα”のピークも認められるが,焼戻し後はα”のピークが非常に強くなった.したがって針状組織はβα”であることが分かった.

Fig. 5

Optical micrographs before (a)/after (b) tempering at 550°C for 3 s.

Fig. 6

XRD profiles before (a)/after (b) tempering at 550°C for 3 s.

Fig. 7 は(f)に示す熱履歴の各時点において同一箇所の組織変化を示す.(a)は550°C-3 sの焼戻し後の組織で全面にα”針状組織が形成された.(b)はサブゼロ処理後で変化はほとんど認められなかった(たとえβ→サブゼロα”があったとしても,光顕では識別困難である).(c)は200°C-300 s時効した組織で,完全にβ逆変態した.(d)は再びサブゼロ処理した組織である.200°Cで完全にβ逆変態し,優先サイトが失われたため,サブゼロα”は形成されなかった.しかし,(e)もう一度550°C-3 s処理を行うと,α”は再び形成された.このことからごく短時間の550°C処理と200°Cとの間ではマルテンサイトの形成と消滅が可逆的に起こることが分かった.

Fig. 7

Microstructure evolution with various thermal history. Each photograph is corresponding to the letters indicated in thermal history (f).

3.4 550°C時効に伴う組織変化

ごく短時間の550°C処理で粗大なα”が形成されることが分かったが,550°Cで累積時効に伴う組織変化をFig. 8 に示す.60 s付近までは粗大な針状組織が観察できるが,硬さが増加し始める 120 s付近から粗大な針状組織は消滅し,粒内が黒ずんだ組織になった.Fig. 9 は550°C時効に伴うXRDプロファイル変化を示す.180 s時効材では黒ずんだ光顕組織で,硬さは増加したが,構造はβα”のままであった.しかし 900 sになるとα”は消滅しβα(あるいはα’)に変化した.Fig. 10 は550°C時効材のSTEM像とEDSによるV(バナジウム)の組成マップを示す.なお,3 sと 60 s時効材の粗大なα”組織は,電解研磨でTEM試料を作製するとβ単相に変態13したため,FIBで試料を作製した.60 sまでの時効材ではVの組成分配は認められなかったが,180 s時効材には,微細な針状組織が観察され,その内部でVが希薄になっていることが分かる.つまり構造は斜方晶を保持したままV組成が低下したα”である.さらに 900 s材でも針状生成物はVが希薄になっており時効とともに拡散変態が進行していることが分かった.したがって15VAの550°C時効に伴う組織変化は,ごく短時間で粗大なα”が無拡散で形成されるが,その後,原子拡散を伴い,微細なα”,さらにはβ+微細αへと2相分離する.

Fig. 8

Microstructure evolution with isothermal aging at 550°C.

Fig. 9

Change in XRD profile with isothermal aging at 550°C.

Fig. 10

STEM images and V element maps with isothermal aging at 550°C. (a)-(d) are aging for 7 s, 60 s, 180 s and 900 s, respectively.

3.5 低温と高温で形成されるマルテンサイト

Ti-xNb-7Alの高温焼戻しで形成されるマルテンサイトのMSが弓なりに湾曲しているモデルを既報12で提唱した.しかし本研究の15VAでサブゼロ処理でもマルテンサイトが形成されたことは,既報のMSモデルでは説明できない.そこで,低温でもマルテンサイトが形成できるよう修正したMS曲線をFig. 11 に示す.点線はαβの自由エネルギーが等しくなるT0を表している.STQでは粒界近傍でα”がわずかに形成されるので,焼入れ途中でMS曲線内に入る組成と考えられる.ただしα”の形成は時間依存性をもつため,MS曲線内を瞬時に通過する間には十分に成長できず,不均一核形成サイトである粒界近傍でのみ形成される.実際に,1050°Cから氷水中への焼入れ速度を測定したところ,0.2 sで0°Cまで到達した.このSTQ材をサブゼロ処理すると新たなα”は形成されたが,焼入れα”が存在するところに限定されていた.このことは低温ほど化学的駆動力が増加し,マルテンサイト変態が起こりやすくなるものの,bcc構造に特有のCRSS(臨界分解せん断応力)の温度依存性15と同様に,βα”変態に必要なせん断応力も増大するため,変態が困難になることと関係している.このとき予め焼入れα”が存在すれば,そこを優先形成サイトとして比較的容易にマルテンサイトが形成されるが,そのような優先サイトがなければ,核生成のためのエネルギーが必要となる.完全β組織(Fig. 7(c))をサブゼロ処理してもα”が形成されなかったのはこのためであろう.一方,550°Cの焼戻しはMS曲線内に入っており,ごく短時間とはいえ 3 sもの時間は,焼入れで通過する時間に比べれば十分長い.このため本来のマルテンサイト組織が形成されると考えられる.また高温ではβ格子が軟化し変態のせん断応力も低くなるため,容易にマルテンサイトが結晶粒を横断するほど成長できると考えられる.

Fig. 11

Schematic drawing of MS (solid) and T0 (dashed) curves to explain the martensite transformation generated at low and high temperatures.

しかしながら低温および高温で形成したマルテンサイトはいずれも200°Cの時効によりβに逆変態する点が難解である.実験結果より相の安定性は,高温からβ(1050°C)→α(550°C)→β(200°C)→α(LN2)の順に推移することになる.これと類似した変態挙動に純鉄の同素変態(δ鉄(bcc)→γ鉄(fcc)→α鉄(bcc))があるが,これは常磁性→強磁性転移によってα鉄が安定化されると考えられている16.しかし15VAをはじめ10MoAや35NbAは強磁性転移をもたない.

Fig. 12αの自由エネルギーGαが,2相域(αβ)でスピノーダル分解(SD)型の曲線を持つと仮定したαβの自由エネルギー変化を模式的に表す.温度が2相域まで低下すると,Gαは相対的に減少するとともに極大を持つようになる.さらに温度が低下するとGαの極大位置は高組成側に移行する.15VAの組成を図中のc0とすると,両相のエネルギー関係はGβGα(1050°C),GαGβ(550°C),GβGα(200°C),GαGβ(LN2)となり,前述の特異な相安定性が説明できる.SD型のGαは,具体的にはα’とα”への分解に相当すると考えられる.なお,仮想的に描いたバイノーダル線が高組成側にすそ野をもつ非対称なのは,α’の組成はほぼ一定であるが,α”は低組成から高組成のものまで存在できるためである.これは斜方晶α”の軸比b/aが組成によって変化することにも対応する.β型Ti合金のSDについてはDavisら1が1970年代に提唱し,最近,佐伯ら17もその詳細を明らかにしている.

Fig. 12

Schematic diagram showing free energy (G) relation between α and β. The curve of Gα in the dual phase (αβ) field shows a spinodal decomposition type. With decreasing temperature, the phase stability at the c0 composition alternatively changes. The conceivable binodal (solid) and spinodal (dashed) lines are also shown.

4. 結論

15VA合金の熱処理に伴うマルテンサイト変態・逆変態について以下の結論を得た.

(1) 15VAのSTQ組織は大部分がβ相で,粒界にわずかにα”が存在する.また焼戻しによって特異な形状変化が発現した.

(2) 焼入れα”の存在する領域ではサブゼロ処理で新たなα”が形成されたが,β単相領域では形成されなかった.またサブゼロα”の形成は時間依存性を示した.

(3) 時効硬化開始までの潜伏期間は450°Cが最も長いが,硬化量は最大であった.また450°C以上の時効温度では時効初期に多少の軟化を示した.

(4) 550°Cで焼戻しを数秒行うと粗大なα”が形成されたが,200°Cの時効でβに逆変態した.この温度域・ごく短時間でのマルテンサイト変態は可逆的であった.

(5) 550°Cで時効すると,β→粗大α”→微細α”→β+微細αの過程をたどり著しく硬化する.

(6) 低温と高温でマルテンサイトが形成され,200°Cでβ逆変態するMS曲線と,αが2相域でスピノーダル分解をもつ自由エネルギーモデルを提唱した.

謝辞

本研究は科研費・基盤研究C(17K06773)および軽金属奨学会助成金によって補助を受けた.

引用文献
 
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