Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
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Densification Behavior and Microstructures of the Al-10%Si-0.35% Mg Alloy Fabricated by Selective Laser Melting: from Experimental Observation to Machine Learning
Yuta YanaseHajime MiyauchiHiroaki MatsumotoKozo Yokota
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2020 Volume 84 Issue 12 Pages 365-373

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Abstract

This work examined the behaviors of densification and microstructural formation of the Al-10 mass% Si- 0.35 mass% Mg alloy fabricated by Selective Laser Melting (SLM) method on the basis of experimental work and machine learning. Additionally, the effect of scanning repeated twice in each layer (double scanning) in the SLM process was also investigated. The SLM- Al-10 mass% Si- 0.35 mass% Mg alloy exhibited the columnar grained microstructure with an (α-Al-Si) eutectic cell structure. Refined microstructures were produced at an increasing scanning speed with a decreasing the energy density (J/mm3). Relative density tended to increase with an increasing of energy density for scan pitch conditions of 0.1 mm and 0.05 mm. And a scattering was obviously exhibited at a higher relative density more than 95%. The analysis based on machine learning revealed that a scanning pitch of 0.2 mm was just a condition to achieve a high relative density. Except for the condition at a scanning pitch of 0.2 mm, a scan speed was the most important factor in affecting the relative density. Thus, a machine learning approach enabled to identify the important processing factor for affecting the behavior quantitatively. Additionally, compared to a conventional single scanning process, it was found in this work that the double scanning resulted in a higher relative density with keeping the fine microstructural formation.

1. 緒言

3Dプリンタ(Additive Manufacturing(AM); 付加製造)は材料を任意の形状に結合・接合することで3次元物体を作製する方法で,その基本概念は1980年にKodamaにより特許出願され,1981年に論文発表された1).以降,1990年代に本格的に研究開発が進み,金属3Dプリンタ(金属積層造形)においても装置技術の進展に伴い2010年以降で世界的また日本国内においても活発に研究開発が推進されている2-5).金属積層造形においては主にパウダーベッド方式とデポジション方式があり,前者では電子ビーム3)もしくはレーザ4)を熱源としており,個々に優れた特徴を有している.金属粉末レーザ積層(Selective Laser Melting: SLM以降SLMと呼称)造形法は,金属粉末を1層ずつレーザ照射により溶融・積層するプロセスを繰り返すことで,複雑な3次元の構造体を比較的短時間で造形できる技術である.レーザ照射に伴う高エネルギー入力により金属粉末は急速に溶融・凝固され,造形体は特徴的な組織形態を呈することが知られ,従来の製造方法である鋳造などと比較しても,微細な組織が形成され高強度化に寄与する特徴を有す.近年では,ファイバーレーザを搭載した造形装置の開発・実用化によりアルミニウム(Al)合金粉末の選択的な焼結もしくは溶融による良質な造形体の製造が可能になった6-18).軽量金属合金であるAl合金の中でAl-10Si-Mg(in mass%)合金は代表的なダイカスト材として自動車などの輸送用途で広く使用される合金であり,2010年以降でSLM造形により製造されたAl-10Si-Mg合金造形体の基礎特性の報告が多くされている7-18)

このAl合金(Al-Si-Mg系合金)のSLM造形体について国内ではKimuraとNakamotoより先駆的に基礎特性について報告があり7,8),最近ではTakadaらから組織・機械的特性について詳細な報告がある9,10).またこの金属積層造形において緻密化された良質な造形体の製造のみならず,優れた機械的特性を発現するためにいかに組織制御させるかとの観点で,ビーム走査パターンなどの様々なプロセス因子を制御したいわゆる“スキャンストラテジー”の概念が注目されている19).この概念でAl合金(Al-10Si-Mg合金)の走査パターンの制御において,例えばPeiらは各層間で走査する角度をランダムに設定することで,より緻密な造形体が得られ,一方で90°で交差する走査条件では相対密度が最も低く,この両条件での相対密度の差は6%以上にもなることを報告している12).そのため,市販の造形装置によってはデフォルトで各層毎における走査角度が規定されている場合もある(例えば(株)EOS-EOSINT M280:67°).

これまでにAl-Si系合金のSLM造形体の緻密化挙動においてはエネルギー密度で一元的に整理され7,20),緻密化挙動はある程度はよく説明できている.一方で,より詳細に相対密度が高い領域(例えば95%以上)ではバラツキも観察され,単純にはエネルギー密度で一元的に説明できない.そのため,とりわけ相対密度が高い領域ではプロセス因子(レーザ出力,走査速度,走査ピッチなど)が複雑に連関し,緻密化挙動に影響していることが推察できる.

本研究では,Al-10%Si-Mg合金のSLM造形においてプロセス条件を多様に変化した際の緻密化挙動,組織形成および機械的特性(ビッカース硬さ)を体系的に評価し,これらの支配因子を明らかとすることを目的とする.ここでは,実験的な評価のみならず機械学習(ニューラルネットワーク,サポートベクターマシン,主成分分析,階層型クラスタリング)を援用しながら,とりわけ緻密化挙動を支配するプロセス因子とその関係性を明らかにした.さらに本研究ではスキャンストラテジーの観点で,微細な組織形成を維持して良質な表面性状と緻密化を図る意図から粉末充填後の1回のレーザ照射後に同一の層にて再度レーザ照射を行う造形も実施した.それにより同一の層において2回走査した際の特性および優位性を明らかとした.

2. 実験方法

2.1 原料粉末

供試粉末はLPWテクノロジー社製のガスアトマイズ法で製造された球状形態のAl-10%Si-0.35%Mg(-0.11%Fe-0.05%Cu-0.1%O)(mass%)合金粉末(融点850-869 K,密度2.67 × 103 kg/m3,平均粒径41 µm(標準偏差14.2 µm))を使用した.以後,このAl-10%Si-0.35%Mg合金はAl-10Si-0.35Mg合金と呼称する.

2.2 SLMプロセス

SLM造形装置は赤澤機械(株)製の積層造形装置を用いた.搭載したQCWファイバレーザ((株)IPG製)は最大出力500 W,波長約1070 µm,焦点径約0.1 mmであり,造形装置の最大造形エリアは100 mm × 100 mm × 50 mmである.SLM造形は溶融部の酸化を防止するためにアルゴンガス雰囲気中で行い,造形中におけるチャンバ内の酸素濃度を0.1%以下に保持した.造形した試料は10 mm × 10 mm × 10 mmの直方体サンプルであり,レーザ照射面に対し1層毎に90°回転させて交互に走査させる走査パターンで造形を行った.Peiらの指摘12)より,Al合金のSLM造形において1層毎の走査を90°回転する方式では相対密度が低下する傾向にはあるものの,他のプロセス条件の緻密化特性に及ぼす影響をより明確とするために本研究では90°回転させる方式を採用している.造形条件は,積層厚さを0.03 mmで固定し,Table 1に示す条件でレーザ出力,走査速度,および走査ピッチを変化させて造形体を製造した.また,下記 式(1)のエネルギー密度Edを導出して各種特性との関係を整理した.   

\[E_{\rm d} = P/v \cdot s \cdot t\](1)
Pはレーザ出力(W),vはレーザ走査速度(mm/s),sは走査ピッチ(mm),tは積層厚さ(mm)である.
Table 1

Laser scanning parameter used to build specimens in this work.

また,本研究では同層におけるレーザ走査回数の増加が造形体の特性に及ぼす影響を調査するため,1度金属粉末にレーザ照射し溶融凝固させた後に,再度レーザ照射を実施したSLM造形も行った.以後,通常通り1度レーザ照射を行い溶融凝固させただけの造形体をSingle Scan(SS)材と呼称し,1度溶融凝固した後で再度レーザを照射し製造した造形体をDouble Scan(DS)材と呼称する.本研究のSLM造形においてSS材では計39条件で,DS材では計11条件の組合せで造形条件を変化させて試料を作製した.

ここで,DS材においてはレーザを同一層で2度照射することにより粉末に投入されるエネルギー量は見掛け上増加することが予測される.一方で,後述(3.2.2項)するようにDS材では1度レーザ照射をされた後に一旦凝固が完了して,2度目のレーザが照射されていることが実験結果より示唆されている.そのため,本実験におけるDS材の2度の照射の影響について,溶融した際での投入されるエネルギー量は1度の照射の場合と同様であることが推察され,DS材においてもSS材同様に式(1)を用いてエネルギー密度を導出した.しかしながらより厳密には,同一層で2度もしくは複数回照射する場合において,実際のエネルギー密度が式(1)の値からどの程度変化するかは未だ不明である.そのため本研究ではDS材においても参考として式(1)を採用してエネルギー密度を導出して,緻密化挙動を議論していることを付記しておく.

造形体をファインカッターにて切り出し,表面を耐水研磨紙で#400,#800,#1000,#1500の順に湿式研磨を施した後,密度の測定を行った.造形体の密度の評価ではアルキメデス法により相対密度(%)を導出して評価した.密度測定を行った後に試料を切断し,積層造形方向に対して垂直な水平断面および平行な鉛直断面についてそれぞれを湿式研磨した後,1.0 µm,0.3 µmのAl2O3懸濁液でバフ研磨を施し,仕上げとして回転研磨機で1 h程度,研磨液(OPS:H2O2:H2O:KOH = 200:100:30:0.7)を用いて湿式研磨で表面を鏡面に仕上げた.

2.3 組織評価およびビッカース硬さ試験

組織評価は光学顕微鏡(Optical microscope:OM)(オリンパス(株)- BX51-33MU)および日本電子(株)(JEOL)製JSM-7001F型の電界放射型電子顕微鏡(FE-SEM)で観察し,また電子線後方散乱回折(EBSD)法を用いることで,結晶方位解析を行った.

機械的特性の評価では,マイクロビッカース硬度測定((株)島津製作所島津微小硬度計HMV-G20)を実施し,Vickers hardness(HV)を評価した.ここで試験力は9.8 N,荷重印加時間は10 s,試験点数は10点とし平均値を算出した.

2.4 機械学習アルゴリズム

SLM造形におけるAl-10Si-0.35Mg造形体の緻密化挙動に影響するプロセスの支配因子を明確にするため,種々のアルゴリズムを用いた機械学習を実施した.ここでは,ニューラルネットワーク(Neural Network; NN)による回帰,主成分分析(Principal Component Analysis; PCA)による次元削減,および階層型クラスター分析によるクラスタリング,さらにはサポートベクターマシン(Support Vector Machine; SVM)による分類を実施した.NNおよびSVMは教師あり学習で,階層型クラスター分析は教師無し学習に分類される.最近では,機械学習について多くの解説があり,詳細は例えば21),22)などの文献を参照されたい.本研究での機械学習はオープンソース・ライブラリであるPython-Scikit-learn(v. 0.21.3)を使用した.詳細は3.3節にて記述する.

3. 結果および考察

3.1 SLM造形条件と緻密化挙動の関係

Fig. 1は各種造形体(SS材)の相対密度を,エネルギー密度(Ed)に対して整理した結果を示している.全体的な傾向として,エネルギー密度が低い条件で相対密度が著しく低下する傾向があり,エネルギー密度が30 J/mm3から上昇するに伴い相対密度は増加し,50-100 J/mm3の範囲で相対密度は最大(極大)となる.さらにエネルギー密度が上昇(> 150 J/mm3)すると,相対密度は若干低下し,造形条件によってはほぼ一定となる.また各走査条件において,相対密度が極大を示す最適なエネルギー密度があり,エネルギー密度を適切に制御することで高密度な造形体を得られることが分かる.ここで,走査ピッチが0.05 mmの結果に着目すると,エネルギー密度が50-100 J/mm3の範囲においても相対密度は最高で96%であり,緻密な造形体が得られていない.これは本研究で用いた装置のレーザの焦点径が0.1 mmであり,レーザ照射により形成される溶融池(メルトプール)が重複して形成され,過剰に溶融されることによる雰囲気ガスの巻き込みや積層面の乱れを生じ相対密度が減少したと推測される.これは一般にオーバーラップ率(焦点径と走査ピッチの関係比)で定義され,焦点径との関係で積層ピッチが緻密化に強く影響を及ぼすことを示している.またFig. 1にて,レーザ出力を300 Wから400 Wに増加させた影響に着眼すると,相対密度の最大値はほぼ同等であったが,同一のエネルギー密度においてはレーザ出力が高い方がより緻密化される傾向にあることが分かり,特に高エネルギー密度域ではその傾向がより顕著である.この相対密度が高くなるエネルギー密度の条件についてはKimuraらの報告7)と概ね同様である.Fig. 1の結果より,造形体の緻密化挙動は広域での相対密度においては,エネルギー密度で概ね一元的に整理することはできる.一方で95%以上の相対密度が高い領域ではバラツキも大きい.

Fig. 1

Relative density of SLM products (of the SS specimens) as a function of energy density.

Fig. 2(a)-Fig. 2(c)に走査ピッチ0.1 mmで製造された造形体(SS材)の積層造形に対して垂直な水平断面(z面)のSEM像を示す.またFig. 2(d)には併せて製造した造形体のレーザ走査方式と方向を示した模式図も示している.これらのSEM像はFig. 1のa-cの条件に対応している.それぞれエネルギー密度35 J/mm3(a),83 J/mm3(b),および300 J/mm3(c)の造形体であり,低エネルギー密度(Fig. 2(a))で造形した試験片では,幅100-250 µmの比較的大きく不規則な空隙,いわゆるkeyhole-poreが確認された.これは,低エネルギー密度の条件,もしくは走査速度が高速(約2900 mm/s)で造形した際に金属粉末が充分に溶融されず,未溶融・接合不良により形成される欠陥であると考えられる23).一方,高エネルギー密度の条件(Fig. 2(c))で造形した試験片では径20-100 µmの球状の欠陥が観察される.これはSLMプロセス中における水素およびアルゴンガスがトラップされ形成されるガス欠陥であると考えられる23).これらのエネルギー密度に対する欠陥形成の挙動については定性的に理解されているが,複雑にプロセス因子(走査速度,レーザ出力,走査ピッチ,エネルギー密度)が連関した支配因子は明確ではない.そのため後述するように機械学習も援用して,SLM過程の緻密化挙動におけるプロセス因子の影響・支配因子を明らかとしている.

Fig. 2

SEM images showing the configuration of defect and pore formed under SLM process in conditions a, b and c shown in Fig. 1, and the schematic illustration (d) of the SLM product for showing the laser scanning pattern and beam direction.

次に1度のレーザ照射後に同一の層において再度レーザ照射を行って造形した際の緻密化に及ぼす影響について報告する.Fig. 3はレーザ出力300 W,走査ピッチ0.1 mmの条件で造形したDS材およびSS材の相対密度を比較した結果である.DS材の密度はSS材と比較して,いずれのエネルギー密度においても相対密度は向上し,とりわけエネルギー密度が低い条件で著しく相対密度が増加する傾向にあることがわかった.これは1度目のレーザ照射で完全に溶融されなかった金属粉末が再度レーザ照射されることにより溶融し,未溶融・接合不良が改善されたためと推察される.また,金属粉末が溶融凝固する際に,液体となった金属の表面張力に起因して生じる表面性状の凹凸が,2度目の照射で再度溶融され,凹凸が平坦化されたことも確認されており,これら2つの理由により緻密化挙動が改善されたと推察される.一方で,この同一層でのレーザの走査回数の緻密化挙動に及ぼす作用機構は不明な点も多く,今後において詳細に評価・解明する予定である.

Fig. 3

Relative density as a function of energy density of the SS specimens and DS specimens.

3.2 SLM造形体の組織および機械的特性

3.2.1 組織形態および凝固速度

Fig. 4はSS材(P = 300 W,s = 0.1 mm,v = 1200 mm/s,Ed = 83.3 J/mm3)の水平断面(z面)および鉛直断面(x/y面)より観察した(a) OM像,(b) EBSD方位像(積層方向と平行な方位),(c) FE-SEM像を示している.Fig. 4(b)では{100}極点図も示している.これより組織形態は,レーザ走査パターンに沿って形成された溶融池が凝固した跡(Fig. 4(a))の内部に,積層方向に伸長した幅約10-15 µmの柱状晶が放射状に形成(Fig. 4(b))されていることが分かる.積層方向(z方向)に形成される優先的な結晶配向は,Al合金で観察される凝固の優先成長方位で24),また他のSLM-Al合金の造形体9,14,15)でも同様に観察される<001>配向を呈していることが分かる.x-y方向に対してはz方向での<001>軸を中心軸に回転した結晶配向を呈していることが分かる.本研究ではレーザ走査方向を1層毎に90°回転する方式ではあるが,67°回転する方式でも同様に積層方向に<001>配向した柱状晶が生成しており9,14),走査における回転角度で違いはないことが確認できる.また,より高倍なFig. 4(c)から柱状晶内部ではサブミクロンオーダーの微細なセル組織が観察され,本論文では図示していないがSEM-EDS分析やXRD分析から,このセル組織はα-Al相+Si系晶出相で構成される共晶組織であることが確認された.Fig. 5は本原料粉末の組成におけるSi量に対する疑2元系の計算状態図(Thermo-Calc)を示している.計算状態図上では室温での平衡相は(α-Al相+Si系晶出相+Mg2Si)である.一方でSLM造形体ではMg2Siの生成は観察されず,造形後の急冷による過冷の影響で準安定に(α-Al相+Si系晶出相)の共晶組織を示していることが分かる.

Fig. 4

Microstructures at a top view and cross sections (longitudinal and transverse sections) from (a) optical microscopy, (b) SEM-EBSD and (c) SEM-backscattered image. In (b), the pole figure showing <100> orientation at z-cross section is also shown.

Fig. 5

Pseudo binary phase diagram of the present alloy as a function of Si content calculated by Thermo-Calc.

このAl-10Si-0.35Mg-SLM造形体における溶融池の形成と内部での凝固・組織形成過程について,Qinらは溶融池中で温度勾配G(K/m)の差異は無視できるほど小さいことを指摘しており14),そのために溶融池中の凝固・組織形成はとりわけ凝固速度Rに強く依存することが理解できる.Huntの報告25)より溶融池内部のセルの成長は,式(2)で示される温度勾配Gと凝固速度Rの関係から表される.   

\[\lambda _1 = [2.83{(k \Delta T_0D \Gamma )}^{0.25}R^{-0.25}G^{-0.5}\](2)
式(2)中の括弧内は合金の熱的物性値に相当し,kはAl中におけるSiの分配係数,$\Delta T_0$は凝固範囲の温度,Dは固溶元素(本研究ではSi)の拡散係数,$\Gamma $はGibbs-Thomson係数である.先述したように,Qinらは溶融池中においてGはいずれの部位でも一定であることを指摘しており14),ChouらはAl-10Si-0.35Mg造形体の同様なプロセス条件でG = 106 K/m程度であることを見積もっている11)

ここで凝固速度Rはレーザ走査速度vとの関係から,近似的に$R = v \cos \theta $で表され($\theta $: 溶融池境界部の法線方向とレーザ走査方向の間の角度)26),凝固速度はレーザ走査速度と比例関係で示されることが理解できる.そのため,式(2)と併せるとセル組織の幅径はレーザ走査速度vに強く依存することが理解できる.

本研究において,同じ造形条件(P = 300 W,s = 0.1 mm,v = 1500 mm/s,Ed = 64 J/mm3)で製造されたSS材およびDS材のセル組織のα-Al晶の幅径を比較したところ,それぞれSS材が0.51 ± 0.11 µm,DS材が0.45 ± 0.15 µmであり,同等な幅径を呈していた.この結果は,同一層におけるレーザの走査回数の違いは凝固速度Rおよび温度勾配Gに影響しないことを示唆している.このSS材とDS材を比較した凝固現象ついては次節で議論する.

3.2.2 柱状晶の組織形成

Fig. 6に,造形条件をレーザ出力300 W,走査ピッチ0.1 mmとして,走査速度のみを変化させて造形を行ったSS材の各試料のEBSD-IPFマップ(z面:ND,x/y面:RD)と柱状晶の幅径を測定した結果を示す.これよりいずれの造形条件においても先述したように,<001>配向を凝固優先方位として結晶成長していることが理解できる.また,走査速度が低速なほどにこの<001>配向の形成が先鋭化され,結晶粒径(柱状晶の幅径(デンドライトの1次アーム間隔に相当))が粗大化していることが分かる.これは冷却速度(= GR(K/s))との兼ね合いであり,エネルギー密度の増加に伴い凝固速度が低くなるためである.

Fig. 6

EBSD-orientation images (parallel to build direction) of the SS specimens with various process conditions.

次に,1層辺りのレーザ走査回数が柱状晶幅径に及ぼす影響(SS材とDS材の比較)について示し,DS材の凝固現象について考察する.Fig. 7にSS材およびDS材(P = 300 W,s = 0.1 mm,t = 30 µm)の走査速度と柱状晶幅径の関係とFig. 7中の①②の条件でのSS材およびDS材のEBSD組織を示す.両造形体ともに走査速度が高速になるに伴い柱状晶が微細化されていることが確認でき,2度の走査(DS材)においてSS材と比較した組織形態・粒度および結晶配向性に違いは観察されなかった.またDelahayaらにより報告されているAl-10Si-0.35Mg合金-SLM造形体の冷却速度の経験式13)より見積もった本研究でのSLM造形体の冷却速度は4 × 105 K/s~2.95 × 106 K/sであった.これらを鑑みると,DS材では1度目の照射時に溶融された部分は2度目の照射がなされる前に充分に凝固範囲に達し,2度目の照射で再度,SS材と同等のエネルギー量で溶融され,そのためにDS材の凝固過程はSS材とほぼ同様であることが推察できる.同一層で2度走査する影響として,見掛け上,溶融時間が長くなることからエネルギー密度の式(1)では走査速度vの低速化と相関することが考えらる.そのためDS材のエネルギー密度はSS材と比較して見掛け上,反比例的に増加することが予想される.その場合,凝固速度が低下するため柱状晶幅やα-Al相のセル幅が粗大化することが考えられるが,先述したように本研究においてDS材とSS材で組織形成に差異はない.そのため本研究のDS材ではSS材と同様に式(1)でエネルギー密度を導出することは妥当ではあると考えられる.

Fig. 7

Relationship between an average columnar size in width and a scan speed of the SS and DS specimens. EBSD orientation images at a transverse cross section for the specimens corresponding to the process conditions of ①②. Herein, inverse pole figures showing the orientation parallel to z-axis (beam direction) are also shown.

以上より,SS材とDS材を比較すると,DS材では造形体表面の凹凸も平坦化され,相対密度も増加し,さらに組織形態もSS材と同様に微細な組織を呈するため,スキャンストラテジーの観点で1層辺りのレーザの走査回数を適切に制御することでも,良質な造形体が製造できる可能性が示された.

3.2.3 ビッカース硬さ

Fig. 8に,レーザ出力300 W,走査ピッチ0.1 mmの条件の下で造形したSS材およびDS材のビッカース硬さの結果を示す.時効熱処理を施していないにもかかわらず,1度の照射で製造した造形体(SS材)は最高で134 ± 5(HV),2度の照射で製造した造形体(DS材)は137 ± 4(HV)であり,高圧ダイカスト材の硬さ(95-105 HV)と比較しても高い硬度を示した.また,特筆すべき点としてDS材はSS材と比較して,いずれの造形条件においても高硬度であることが分かった.先述したようにレーザの走査回数は造形過程における組織形成に影響を及ぼさないために,これは造形体の緻密化に伴う結果と推察される.また図示はしていないが,SLM材の硬さと柱状晶の幅径もしくはセル径の間には,径の-1/2乗に対し概ね良い線形関係が確認されており,緻密化された試料において硬さはHall-Petch則で説明できることが確認された.

Fig. 8

Comparison of the Vickers hardness of the SS and DS specimens as a function of scan speed.

3.3 機械学習を援用した相対密度における支配因子の推定

先述したようにSLM造形されたAl-10Si-0.35Mg合金において組織形成および硬さは様々なプロセス因子に影響される.先述した通り,これらの特性はエネルギー密度との関係から一元的に整理されてきたが,詳細にはバラツキも大きく各種プロセス因子との因果関係およびそれらの連関性を明らかにする必要がある.これら多様なプロセス因子での複雑な関係性を紐解くには機械学習の援用が不可欠であり,本節では種々の機械学習のアルゴリズムを駆使してAl-10Si-0.35Mg合金造形体における密度(緻密化)に影響するプロセスの支配因子を明らかとする.ここではSS材の結果のみに着眼する.

本研究では,機械学習のアルゴリズムとしてニューラルネットワーク(NN)による回帰,主成分分析(PCA)による次元削減,および階層型クラスター分析によるクラスタリング,さらにはサポートベクターマシン(SVM)による分類を実施した.

Fig. 9はNNのアーキテクチャーを示している.入力層として本研究におけるプロセス条件(Table 1に示すSS材の各造形条件である走査速度,走査ピッチ,レーザ出力およびエネルギー密度)を入力因子として,中間層(隠れ層)は1層でプロセス因子と同一の数(4つ)のユニットを配置した.また相対密度,もしくはビッカース硬さを出力因子として確率的勾配降下法により重み因子の最適化を行い,回帰計算を行った.ここでユニット間を結ぶ活性化関数はシグモイド関数を使用している.また入力因子は下記の式(3)より規格化してZiとして代入して,回帰している.   

\[Z_i = 0.1 + 0.8 \left( \frac{Z - Z_{min}}{Z_{max} - Z_{min}} \right)\](3)
中間層は多層化すること(深層学習)も可能ではあるが,本研究ではデータマイニングの概念と比較した場合,入力・出力因子数やデータセット数も少ないために,ユニット間の連関を単純化するため,また学習過程の正答率も鑑みながら単純に1層のみを配置している.実験結果で示したように,相対密度はエネルギー密度で一元的に整理できるが,95%以上の高密度領域においてはバラツキも観察され,とりわけ高密度域では単純にエネルギー密度のみで説明できず他のプロセス因子も複雑に関係することが推察できる.そのため,本実験での全プロセス条件(4変数)(走査速度,走査ピッチ,レーザ出力,エネルギー密度)にて次元削減で2変数に整理するためにPCAを行い,その後にプロセス条件の階層型クラスター分析およびSVMを行った.ここでクラスター分析はWard法27)を適用して分析している.Fig. 10(a)はPCAで得られた2成分(Fact 1,Fact 2)でプロセス条件をクラスタリングした結果である.PCAより得られた2成分(Fact 1,Fact 2)はそれぞれ下記式(4)(5)の1次式で表される.   
\[ \begin{split} {\rm Fact \ 1} & = (-0.953) \cdot N_v +0.666 \cdot N_{E_{\rm d}} +0.615 \cdot N_s \\[-1mm] & \quad + (-0.311) \cdot N_P \end{split} \](4)
  
\[ \begin{split} {\rm Fact \ 2} & = (-0.058) \cdot N_v +(-0.478) \cdot N_{E_{\rm d}} +0.719 \cdot N_s \\[-1mm] & \quad +0.574 \cdot N_P \end{split} \](5)
Nxxvは走査速度(mm/s),Edはエネルギー密度(J/mm3),sは走査ピッチ(mm),Pはレーザ出力(W)である)はそれぞれのプロセス因子の値Zの最大値Zmaxおよび最小値Zminから規格化されたものである[Nx = (ZZmin)/(Zmax − Zmin)].これよりプロセス因子のみから得られた教師なし学習よりGr.1,Gr.2,Gr.3の3つのプロセス群に分類され,特徴としてGr.2では走査速度が低速域である傾向のクラスターで,Gr. 3では走査ピッチが0.2 mmと特定化されたクラスターに相当する.またGr.1ではそれ以外のプロセス群で,走査ピッチも0.2 mm以外の0.05 mm,0.1 mmのプロセス群に相当する.Fig. 10(b)はPCAで得られた2成分(Fact 1,Fact 2)を変数として実際の相対密度(実験値)との関係をまとめており,Fact 2が中程度な領域ではFact 1が小さい値の方までに高密度な領域が拡がっていることが観察できる.この結果はFig. 10(a)のクラスタリングの挙動と類似しており,Gr.1のプロセス群にて高密度領域の拡がりが観察されている.つまりFig. 10(a)のクラスタリングの結果は概ね実験結果をよく反映できていることを示唆している.さらにFig. 11は相対密度の挙動に対して“教師あり学習”でのSVM(カーネル法)のアルゴリズムにより分類を実施した結果を示す.ここではクラスタリングと同様にPCAで次元削減したFact 1およびFact 2の2変数で表現している.プロット点は実験で得られた相対密度であり,98%以下は四角,98%以上は三角のプロットで示している.Fig. 11中の決定境界はSVMで得られた分類曲線であり,概ね実験結果をよく反映していることが理解できる.これより,相対密度を支配する複雑なプロセス因子について精緻にクラスタリング・分類できたことが理解できる.
Fig. 9

Architecture of the neural network regression process in this work.

Fig. 10

(a) Result of hierarchical clustering of processing factors as functions of Fact 1 and Fact 2 which are estimated from principal component analysis (PCA). (b) Relative density (experimental result) as functions of Fact 1 and Fact 2.

Fig. 11

Classification of relative density by support vector machine (SVM, kernel method) (shown by decision boundary) as functions of Fact 1 and Fact 2.

次に,階層型クラスター分析で得られたそれぞれのGrにて特徴を整理した.Fig. 12(a)はFig. 1で示したエネルギー密度と相対密度の関係において各Gr別で表した結果を示している.先述した通りGr.2では走査速度が低速の領域でエネルギー密度が高い領域に相当し,Gr.2中での傾向としては走査ピッチに強く依存して同一のエネルギー密度(Ed ≈ 250 J/mm3)においてもFig. 12中の矢印の方向に示すように走査ピッチの増加(0.05 mm → 0.2 mm)に伴い,緻密化されることが分かる.これはGr.2の走査速度が低速なプロセス条件において相対密度は走査ピッチに強く依存することを示している.一方で,走査ピッチが0.2 mmで特定化された低エネルギー密度の領域にあるGr.3では相対密度が高いプロセス条件に相当する.Gr.1はFig. 10(a)でFact 2が中程度な値の領域で,多数のプロセス条件が属しているために,Gr.1のプロセス条件にて改めてNNによる回帰を行った.Fig. 12(b-1)はGr.1中でNNを行った相対密度の実験値と計算値の関係,またFig. 12(b-2)はGr.1でのNNより得られた感度解析の結果である.ここでの感度(重要度)は各プロセス因子の平均値を基準に1種類のプロセス因子だけを変化させ,出力因子の変化量を各プロセス因子毎で相対的に表した数値・割合である.そのためこの値が高い程,出力因子に対するそのプロセス因子の影響度が大きいことを意味する.またFig. 12(b-1)中のR2は相関性を示す決定係数である.これより,相対密度において実験値と計算値は極めて良い相関が観察され,走査速度が最も重要な(影響度の高い)プロセス因子であることが判定されている.これよりGr.1のプロセス条件において緻密化は走査速度が最も重要なプロセス因子であり,エネルギー密度も2番目に重要なプロセス因子であることが理解できた.一方でこのNNの判定はTable 1の条件下における結果であり,より広範囲なプロセス条件では影響度の判定も任意に変化することは留意されたい.

Fig. 12

(a) Relative density vs energy density for process conditions of Gr. 1-3. (b-1) Correlation between the experimental result and NN result of the relative density for process condition of Gr. 1, and (b-2) sensitivity showing the predictor variables' importance on the relative density according to NN analysis.

以上をまとめると,本研究におけるSLMの全プロセス条件(Table 1)をクラスタリングした場合(3グループにクラスタリング)にて,高エネルギー密度域での高い相対密度(95%以上)を示すプロセス域(Gr.2)では,とりわけ走査ピッチ(s)が影響度の高いプロセス因子であることが明らかとなった.また,低エネルギー密度域(約120 J/mm3以下)でのGr.1のプロセス条件(s = 0.05 mm,0.1 mm,vPが広く変化)では,エネルギー密度の影響もあるものの走査速度が最も重要なプロセス因子であることが判定された.さらにこの低エネルギー密度域においても走査ピッチが0.2 mmで特定化されたGr.3の条件ではGr.1のプロセス条件の結果と比べても高い相対密度を示す傾向にある.先述したように走査ピッチの影響は焦点径との兼ね合いであり,オーバーラップ率(焦点径と走査ピッチの関係比)が最適化される条件,つまりはs = 0.2 mmにおいては他のプロセス条件の如何に関わらず高い相対密度を示す傾向にあり,特に高密度領域(95%以上)での緻密化において走査ピッチの最適化が極めて重要な設計条件であることが示された.今後はより詳細に,機械学習より得られた結果を物理現象にフィードバックさせて真にその作用機構の解明に繋げることを目標とする.

4. 結言

本研究では造形条件を多く変化しSLM造形されたAl-10Si-0.35Mg合金の緻密化特性,組織およびビッカース硬さを体系的に評価して,機械学習も援用して特に緻密化挙動に及ぼすプロセスの影響因子を明らかとした.またスキャンストラテジーの観点から,レーザ走査過程にて各層で1度走査するだけでなく,2度走査した際の影響も評価した.

(1) 走査ピッチが0.05 mmの造形条件ではエネルギー密度が高い条件でも,相対密度は96%が最高値であり,緻密化されていなかった.これはレーザ照射の焦点径(0.1 mm)との兼ね合いに起因し,それ以外(走査ピッチ:0.1 mm,0.2 mm)の条件では相対密度はエネルギー密度で概ね整理でき,エネルギー密度の増加に伴い緻密化される傾向にある.

(2) いずれの造形条件においても組織は微視的に準安定なα-Al+Si系晶出相の共晶組織を呈し,造形方向に平行にFCC特有の<001>配向を呈した柱状組織を呈した.セル径および柱状晶径はエネルギー密度の増加に伴い粗大化し,また<001>配向が先鋭化された.

(3) 1層あたり2度照射したDS材では1度照射したSS材と比較して緻密であり,組織も同様な微細組織形態を呈す特徴を有す.SLM造形体の見積もられた冷却速度は4 × 105 K/s~2.95 × 106 K/sであり,走査速度との兼ね合いで1度目の照射時に溶融された部分は2度目の照射がなされる前に充分に凝固範囲に達し,再度に溶融凝固される効果のために,両者の組織形態で大きな違いが観察されなかったと推察される.

(4) 機械学習を援用して緻密化特性に及ぼすプロセスの影響因子を評価した.緻密化特性においてプロセス条件により階層型クラスタリングによりグループ分けされ,走査ピッチが0.2 mmに特化した条件ではいずれの条件も高い相対密度を呈し,一方で走査ピッチが0.2 mm以外の条件では走査速度が極めて重要なプロセス因子であることが判定された.これよりプロセス条件に依存して緻密化に及ぼす影響因子が変化することが明らかとなった.

本研究は「かがわ次世代ものづくり研究会3D積層造形技術分科会」の研究開発の成果であり,ここに謝意を表する.

文献
 
© 2020 The Japan Institute of Metals and Materials
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