Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
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Effect of Polyethylene Glycol on Electrodeposition of Zn Active Metal Oxide Composites from a Particle-Free Solution
Daiki UedaSatoshi OueTomio TakasuHiroaki Nakano
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2020 Volume 84 Issue 2 Pages 50-57

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Abstract

Electrodeposition of Zn–Zr oxide and Zn–V oxide composites was performed under galvanostatic conditions from an unagitated sulfate solution containing Zn2+, Zr4+, or VO2+ ions and an additive such as polyethylene glycol (PEG). The sulfate solution had a pH of 2 and the electrodeposition was performed at 313 K. The effects of PEG on the co-deposition of the Zr oxides and V oxides and their polarization behavior were investigated. Additionally, the effects of PEG on the microstructure of the deposits were investigated. Although the Zr content in the deposits obtained from the Zn–Zr solution without PEG was approximately zero, it increased significantly at a current density above 1000 A m−2 following the addition of PEG. In the Zn–V solution, the V content in the deposits obtained from 100 A m−2 to 2000 A m−2 was higher with PEG than that without PEG. In the presence of PEG, the cathode potential polarized, the rate of hydrogen evolution increased, and the hydrolysis reaction of Zr4+ and VO2+ ions occurred easily. This resulted in the Zr content and V content increasing in the deposits. Additionally, the crystal platelets of Zn in the Zn–Zr oxide film and the Zn–V oxide film became fine, and the surface coverage of the spongiform Zr oxide and the film-like V oxide increased. Furthermore, the corrosion current densities of the Zn–Zr oxide film and the Zn–V oxide film obtained from the solution with PEG were lower than those from the solution without PEG. The reduction reaction of dissolved oxygen decreased in the films with PEG, thereby decreasing the corrosion current density.

1. 緒言

電析時に微粒子をマトリックス金属と共析させる複合電析は,素材に耐摩耗性1-4),潤滑性5-10),および耐食性11-16)などの機能を付与することができるため,以前から多数の研究開発が行われている.従来の複合電析では,難溶性の固形微粒子を電解液に添加した懸濁溶液から粒子を電析膜に共析させる.しかし,微粒子は電解液中で凝集し易いため,電析膜に均一に分散した状態で微粒子を共析させることは困難であり,また,凝集した粒子は沈降するため電解プロセス上の問題点も多い17)

一方,Znの様な平衡電位が卑な金属の水溶液からの電析においては,副反応としてH+イオンの還元反応が生じ,陰極界面のpHが上昇する.そのため,低pHで加水分解する金属イオンを第2元素として添加すれば,その金属イオンが加水分解反応により酸化物となりZn電析膜に共析させることが可能となる18,19).この様に電析時に生じる加水分解反応を利用すれば,難溶性の固形微粒子を電解液に添加しなくても,複合電析を行うことが可能となる.これまでに,低pHで加水分解するAl3+,Zr4+およびVO2+イオンをZn電解液中に添加して,その金属イオンの酸化物をZnと共析させる研究が行われている18-26).しかし,Al3+とZr4+イオンは酸化物としてほとんどZnと共析せず20,23,24),VO2+イオンについては酸化物として共析するものの,微粒子の分散状態が不均一であることが報告されている18,19,21,22).そこで本研究では,Zn電解液にZr4+およびVO2+イオンを添加し,これらの加水分解反応を促進させるため,更にポリエチレングリコール(PEG)を添加した.PEGはZn電析の分極効果によるH+イオン還元増加によりZn電析時の陰極界面のpHを上昇させ,Zr酸化物の共析量を増加させることが報告されているが25,26),PEGの作用については不明な点が多い.本研究では,Zn-Zr酸化物およびZn-V酸化物複合電析における酸化物の共析量,電析膜の微細構造および分極特性に及ぼすPEG添加の影響について調べた.

2. 実験方法

電解液組成および電解条件をTable 1に示す.Zn電解液のZnSO4・7H2Oの濃度は0.52 mol・dm−3とし,Zr(SO4)2・4H2OおよびVOSO4・5H2Oの濃度は0.1 mol・dm−3とした.Zn-ZrおよびZn-V系ともに添加剤としてPEG(分子量6000)1 g・dm−3を添加し,pHは硫酸または水酸化ナトリウム水溶液により2に調整した.電析は,定電流電解法により電流密度10-5000 A・m−2,通電量105 C・m−2,浴温313 Kにおいて無撹拌で行なった.陰極にはCu板(2 cm × 1 cm),陽極にはPt板(2 cm × 1 cm)を用いた.得られた電析膜は硝酸で溶解し,ICP発光分光分析法((株)島津製作所,ICPS-1000IV)によりZn,Zr,Vを定量し,電析膜組成,Zn電析の電流効率およびZn析出の部分電流密度を求めた.分極曲線を測定する際は定電流で電解を行い,通電量が105 C・m−2になった時の電位を測定した.電位測定の際,参照電極としてAg/AgCl電極(0.199 V vs. NHE,298 K)を使用したが,電位は標準水素電極基準に換算して表示した.

Table 1

Electrolysis conditions.

電析膜表面の形態と元素分布を低加速電圧SEM(Zeiss社,ULTRA55,加速電圧2-10 kV)の二次電子像とEDXにより解析し,電析膜断面の構造と元素分布をTEM(日本電子(株),JEM-ARM200F,加速電圧200 kV)-EDXにより調べた.TEMの観察試料は次の手順にて作製した.先ず,真空表面コーティング装置(日本電子(株),JFC 1600)を用いて,保護膜として表面にAuを蒸着させた後,FIB(FEI社,Quanta 3D 200i)により試料中央部をWにて被覆した.次に,Wで被覆した周辺をGa+イオンビームにて加工し,厚さ約100 nmの薄膜を作製した.電析膜の耐食性を評価するための分極曲線は,酸素を飽和させた313 Kの3 mass% NaCl水溶液中において,電位掃引法により1.0 mV・s−1の速度で卑な電位から貴な電位に移行させ測定した.

3. 結果および考察

3.1 複合電析挙動に及ぼすPEG添加の影響

Fig. 1にZn-ZrおよびZn-V溶液から電流密度を変化させて得られた電析膜のZrおよびV含有率に及ぼすPEG添加の影響を示す.なお,本論文における電析膜のZrとV含有率(mass%)は,電析膜のZr,VおよびZn濃度より[Zr/(Zn+Zr)] × 100,[V/(Zn+V)] × 100により算出したものである.Zn-Zr溶液からの電析(Fig. 1(a))では,Zr含有率はPEG無添加の場合に全電流密度域でほぼゼロであったが,PEGを添加すると増加した.特に1000 A・m−2以上の電流密度においてZr含有率の増加の程度は大きくなった.一方,Zn-V溶液からの電析(Fig. 1(b))では,100-2000 A・m−2の電流密度域において,V含有率はPEGを添加すると増加した.なお,PEGを添加しない場合においても,V含有率はPEGを添加した場合と同様に電流密度が高くなるほど増加した.この結果については後に考察する.

Fig. 1

Zr and V content in deposits obtained at various current densities in (a)Zn-Zr and (b)Zn-V solutions with and without PEG [◯ Without PEG, ● With PEG].

Fig. 2にZn-ZrおよびZn-V溶液からの複合電析におけるZn析出の電流効率に及ぼす電流密度とPEG添加の影響を示す.Zn-Zr溶液からの電析(Fig. 2(a))では,Zn析出の電流効率は,PEGを添加しないと純Znの場合とほぼ同一であったが,PEGを添加すると大きく低下した.1000 A・m−2以上の電流密度域では,PEG添加の有無に関わらず電流効率が低下したが,これは,Zn2+イオンの拡散限界電流密度に近づいているためと考えられる.一方,Zn-V溶液からの電析(Fig. 2(b))では,Zn析出の電流効率は,PEG添加の有無に関わらず純Znの場合に比べ全電流密度域において大きく低下した.低下の程度は500 A・m−2以下の電流密度域で顕著であった.PEGを添加すると,500-2000 A・m−2の領域で,Zn析出の電流効率は更に低下した.以上の様に,Zn電析の電流効率は,Zr4+イオンが共存した場合に比べ,VO2+イオンが共存した方が低くなった.また,PEGを添加するとZn-ZrおよびZn-V溶液からのZn電析の電流効率は更に低下した.

Fig. 2

Current efficiency for Zn deposition at various current densities in (a)Zn-Zr and (b)Zn-V solutions with and without PEG [● Pure Zn without PEG, ▲ Zn-Zr without PEG, ■ Zn-Zr with PEG, △ Zn-V without PEG, □ Zn-V with PEG].

Fig. 3にZn-ZrおよびZn-V溶液からのZn析出の部分分極曲線に及ぼすPEG添加の影響を示す.Zn-Zr溶液からのZn析出の部分分極曲線(Fig. 3(a))は,純Zn溶液からのものとほぼ同一であったが,PEGを添加するとZn析出の立ち上がりの部分から大きく分極した.Zn析出の部分電流密度500 A・m−2以下の領域ではターフェルの直線関係が成立しており,電荷移動過程が律速となっていることが分る.PEGを添加すると,この領域での分極曲線が卑な領域にシフトすると共に分極抵抗dE/diが若干大きくなっており,PEGは電荷移動過程での反応抑制効果が大きいことを示している.また,Znの部分電流密度1000 A・m−2以上の領域では,PEGの有無に関わらず分極曲線の傾斜が大きく変化しておりZn2+イオンの拡散が律速となっている.この領域では,PEGを添加すると陰極電位が−1.2 Vより卑な領域まで分極した.一方,Zn-V溶液からのZn析出の部分分極曲線(Fig. 3(b))は,Znの部分電流密度200 A・m−2以上の領域では純Znからのものより分極しており,PEGを添加すると低電流密度域から分極が顕著となった.PEG添加の影響は,Zn-Zr溶液からの場合(Fig. 3(a))とほぼ同様であり,Zn析出の分極曲線が卑な領域にシフトすると共に分極抵抗dE/diが大きくなった.

Fig. 3

Partial polarization curves for Zn deposition in (a)Zn-Zr and (b)Zn-V solutions with and without PEG [● Pure Zn without PEG, ▲ Zn-Zr without PEG, ■ Zn-Zr with PEG, △ Zn-V without PEG, □ Zn-V with PEG].

溶液中のZr4+とVO2+イオンの濃度が0.1 mol・dm−3の時の活量係数を1と仮定すると,Zr-H2O系およびV-H2O系の電位−pH図27)よりZr4+イオンはpHが1.74より高くなると,またVO2+イオンはpHが2.95より高くなると,それぞれ加水分解反応を起こして,ZrO2・H2OおよびV2O4が安定となることが分かる.ただし,本研究ではpH 2のZn-Zr電解液においても沈殿物は認められなかった.その要因としては,電解液の電解質濃度が高いためZr4+イオンの活量係数が1より小さくなり,Zr4+イオンが加水分解反応を起こす臨界pHが2より高くなっていることが考えられる.本研究の水溶液からのZn電析では,陰極においてH+イオンがH2に還元されるため,陰極界面のpHが上昇する.このpHがZr4+およびVO2+イオンが加水分解反応を起こす臨界値を越えると陰極界面では加水分解反応によりZrO2・H2OおよびV2O4として安定に存在することが推察される.pH2の水溶液からのH2発生反応は,陰極電位が−1.2 Vより卑になると,下記式(1)より式(2)の反応が主になることが報告されている28).   

\[{\rm 2H}^++{\rm 2e}^-\to{\rm H}_2\](1)
  
\[{\rm 2H}_2{\rm O}+{\rm 2e}^-\to{\rm H}_2+{\rm 2OH}^-\](2)
溶液中のH2Oの濃度はH+の濃度に比べると遥かに高いため,式(2)の反応が主になると陰極界面のpHは,上昇し易いと考えられる.PEGを添加すると陰極電位が卑に移行しH2発生速度が増加するため,Zr4+およびVO2+イオンの加水分解反応が起こり易くなり,電析膜のZrとV含有率が増加したと考えられる.電流密度が高くなるほど,電析膜のZrとV含有率が増加した(Fig. 1)のは,H2の発生速度が増加しpHが上昇し易いためと考えられる.なお,100 A・m−2以下の低電流密度域でのV含有率の増加(Fig. 1(b))は,Znの析出量が低下したためである.

次に,ZrとV酸化物の共析挙動を比較すると,PEGの添加がない場合,Znの部分分極曲線は,VO2+イオンが共存した方が純Znの部分分極曲線からの分極が大きい(Fig. 3).Zn-ZrおよびZn-V溶液からの電析時には陰極界面にZr酸化物とV酸化物が形成されるが,V酸化物の方がZnの析出をより抑制していることを意味している.このため,Zr4+イオンが共存するよりもVO2+イオンが共存した方がZn析出の電流効率が低下した(Fig. 2)と考えられる.先に述べたように,溶液中のZr4+とVO2+イオンの濃度が等しい場合,Zr-H2O系およびV-H2O系の電位−pH図27)よりZr4+イオンの方がより低いpHにおいて加水分解反応を起こすことが予想される.実際,著者らは,Zn-ZrとZn-V溶液においてpH滴定曲線を測定し,Zr4+イオンの方がより低いpHにおいて加水分解することを報告している19,20,22,23).すなわち,電析時,陰極界面ではZrO2・H2Oの方がV2O4より形成され易いと考えられる.それにも関わらずVO2+イオンを添加した方がZn析出の電流効率はより低くなった(Fig. 2).PEGを添加しない場合,Zrはほとんど共析しなかったのに対して,Vは共析したことについては(Fig. 1),VO2+イオンを添加した方が水素発生が増加して,加水分解によるV2O4の形成が増加したためと考えられる.

3.2 複合電析膜の微細構造に及ぼすPEG添加の影響

Fig. 4にPEGの添加有りと無しの溶液から得られたZn-Zr酸化物複合電析膜表面のSEM像およびEDXによる点分析結果を示す.PEGを含まない溶液から得られた電析膜(Fig. 4(a))は,大きく成長したZnの板状結晶が積層しており,板状結晶の隙間(Fig. 4(a)の②の箇所)に微細なスポンジ状の析出物が見られた.この微細なスポンジ状析出物の箇所からは,ZrとOが検出されたことから(Fig. 4(d)),Zr酸化物が析出していると考えられる.PEGを添加した溶液から得られた電析膜(Fig. 4(b))は,Znの板状結晶が消失し網状の形態(③)とスポンジ状の形態(④)を示した.網状析出物の箇所(Fig. 4(e))からはZnが,スポンジ状析出物の箇所(Fig. 4(f))からはZrとOが検出された.PEGを添加した方がZr酸化物の表面被覆率が増加した(Fig. 4(a),(b)).Zrの共析率は,PEG添加により増加しており(Fig. 1(a)),このため,表面の被覆率も増加したと考えられる.

Fig. 4

SEM images and EDX spectra of surface of deposits obtained at 2000 A・m−2 in Zn–Zr solutions with and without PEG [(a) SEM without PEG, (b) SEM with PEG, (c) EDX of ①, (d) EDX of ②, (e) EDX of ③, (f) EDX of ④].

Fig. 5にPEGの添加有りと無しの溶液から得られたZn-V酸化物複合電析膜表面のSEM像およびEDXによる点分析結果を示す.PEGを含まない溶液から得られた電析膜(Fig. 5(a))は,板状のZn結晶が積層して塊状の大きな粒子を構成しており,板状結晶が明瞭な箇所(①)と不明瞭な箇所(②)が見られた.板状結晶が明瞭な箇所ではZn(Fig. 5(c))が,不明瞭な箇所ではVとO(Fig. 5(d))が検出され,不明瞭な箇所にV酸化物が析出していると考えられる.一方,PEGを添加した溶液から得られた電析膜(Fig. 5(b))には,明瞭なZnの板状結晶は見られず,表層は薄い膜で被覆され多数のクラックが発生した.表層の薄膜(④)からはVとO(Fig. 5(f))が,クラックの内部(③)からはZn(Fig. 5(e))が検出され,表層の薄膜はV酸化物から構成されていると考えられる.純Znの溶液にPEGを添加すると電析Znは,Fig. 6に示す様にZnの板状結晶が基板に対して直立したような形態となる.Fig. 5(b)とFig. 6を比較すると,V酸化物薄膜にみられるクラックは,基板に対して直立したZn板状結晶のエッジであり,V酸化物薄膜は,直立したZn板状結晶の隙間を被覆していることが分る.

Fig. 5

SEM images and EDX spectra of surface of deposits obtained at 1000 A・m−2 in Zn–V solutions with and without PEG [(a) SEM without PEG, (b) SEM with PEG, (c) EDX of ①, (d) EDX of ②, (e) EDX of ③, (f) EDX of ④].

Fig. 6

SEM image of surface of the deposit obtained at 1000 A・m−2 in Zn solution with PEG.

Fig. 7にPEGを添加した溶液から得られたZn-Zr酸化物複合電析膜断面のTEM像およびEDXによる分析結果を示す.電析膜の断面観察部においてZrは検出されなかった(Fig. 7(d)).Zr酸化物の分散状態が均一ではなく,Zr酸化物が存在しない箇所を観察した可能性がある.なお,電析膜の表層外部にZrが検出されたが,これは試料表面の損傷を防ぐために施したAuの保護膜に由来するものである.同様に電析膜の表層外部にOが検出されたが,これはTi製の試料ホルダーに由来するものである.

Fig. 7

(a, b)TEM image and (b-d)EDX mapping images of cross section of the deposit obtained at 2000 A・m−2 in Zn–Zr solution with PEG [(a) TEM bright field image, (b) TEM dark field image, (c) Zn-Kα image, (d) Zr-Lα image, (e) O-Kα image].

Fig. 8にPEGを添加した溶液から得られたZn-V酸化物複合電析膜断面のTEM像およびEDXによる分析結果を示す.TEM像(Fig. 8(a),(b))より,酸化物複合電析膜では,Znの板状結晶が基板に対して直立していることが分る.EDX像(Fig. 8(d),(e))より,VとOは,電析膜の表層に凝集しており,電析膜の内部においても直立したZn板状結晶と板状結晶の間に存在していることが分る.Vの共析率は,PEG添加により増加しているが,PEGを含まない溶液においても,Vは一定量共析している(Fig. 1(b)).表層におけるV酸化物の被覆率がPEG添加により増加した原因としては,Znの結晶形態の変化,すなわちZnの板状結晶が基板に対して平行な状態から直立したような状態への変化により,V酸化物の析出サイトが増加することが考えられる.

Fig. 8

(a, b)TEM image and (c-e)EDX mapping images of cross section of the deposit obtained at 1000 A・m−2 in Zn–V solution with PEG [(a) TEM bright field image, (b) TEM dark field image, (c) Zn-Kα image, (d) V-Kα image, (e) O-Kα image].

電析膜の膜厚方向でのZrとV酸化物の分散状態を推察するため通電量を増加させてZn-ZrおよびZn-V酸化物複合電析を行い,各通電量毎に電析膜のZrとVの定量分析を行った.その結果をFig. 9Fig. 10にそれぞれ示す.電析膜のZrの含有量は,通電量にほぼ比例しており,Zr酸化物は,膜厚方向に対してほぼ均一に共析していることが推測される(Fig. 9).それに対して,電析膜のVの含有量は,10 C・cm−2以上では通電量を増加させても変化量が小さく,通電量に比例していない(Fig. 10).これは,Fig. 8の断面TEM像に示したように,V酸化物が電析膜の表層に凝集したためである.

Fig. 9

Relationship between Zr content in deposits and the amount of charge at 2000 A・m−2 in Zn-Zr solution with PEG.

Fig. 10

Relationship between V content in deposits and the amount of charge at 1000 A・m−2 in Zn-V solution with PEG.

3.3 複合電析膜の耐食性に及ぼすPEG添加の影響

Fig. 11に3 mass% NaCl水溶液中におけるZn-Zr酸化物複合電析膜および純Zn電析膜の分極曲線を示す.PEGを含まない溶液から得られたZn-Zr酸化物複合電析膜(Fig. 11(b))の腐食電位は純Zn電析膜(Fig. 11(a))のそれに比べ貴に移行したが,腐食電流密度は若干増加した.それに対して,PEGを添加した溶液から得られたZn-Zr酸化物複合電析膜(Fig. 11(c))の腐食電位は純Zn電析膜(Fig. 11(a))のそれより卑に移行したが,腐食電流密度は低下した.PEGを添加すると腐食反応のカソード反応である溶存酸素の還元反応が減少しており,その結果,腐食電流密度が低下した.

Fig. 11

Polarization curves in 3 mass% NaCl solution for deposits obtained at 2000 A・m−2 in Zn and Zn-Zr solutions with and without PEG [(a) Zn without PEG, (b) Zn-Zr without PEG, (c) Zn-Zr with PEG].

Fig. 12に3 mass% NaCl水溶液中におけるZn-V酸化物複合電析膜および純Zn電析膜の分極曲線を示す.Zn-V酸化物複合電析膜(Fig. 12(b),(c))の腐食電位は,純Zn電析膜(Fig. 12(a))に比べるとPEG添加の有無に関わらず貴な方向に移行し,V酸化物の共析によりZnの酸化反応が大きく抑制された.Zn-V酸化物複合電析膜の腐食電流密度は,PEG添加無しの場合(Fig. 12(b)),純Zn電析膜(Fig. 12(a))とほぼ同等であったが,PEGを添加すると(Fig. 12(c))低下した.先に述べたZn-Zr酸化物複合電析膜の場合と同様に,PEGを添加すると腐食反応のカソード反応である溶存酸素の還元反応が減少しており,その結果,腐食電流密度が低下した.Zn-ZrおよびZn-V酸化物複合電析膜共に表層におけるZr酸化物とV酸化物の被覆率がPEG添加により増加しており,腐食電流密度低下の要因になっていると考えられる.PEGを添加した溶液から得られたZn-Zr酸化物複合電析膜の腐食電位は,純Zn電析膜のそれに比べて卑になるのに対して,Zn-V酸化物複合電析膜の腐食電位は,貴になっており異なる傾向を示した.Zn-V酸化物複合電析膜では,酸化反応の分極曲線が大きく分極しており,それに伴い腐食電位が貴に移行した.Zn-V酸化物複合電析膜では,V酸化物の皮膜が表層を被覆しており,Znの酸化反応を抑制していると考えられる.以上のように,Zn-ZrおよびZn-V酸化物複合電析膜の耐食性は,PEGを添加すると,ZrとVの含有率,被覆率が増加することにより向上した.

Fig. 12

Polarization curves in 3 mass% NaCl solution for deposits obtained at 1000 A・m−2 in Zn and Zn-V solutions with and without PEG [(a) Zn without PEG, (b) Zn-V without PEG, (c) Zn-V with PEG].

4. 結言

Zn-Zr酸化物およびZn-V酸化物複合電析におけるZr,Vの共析量,電析膜の微細構造,分極特性に及ぼすPEG添加の影響について調べた結果,以下のことが分った.

Zn-ZrおよびZn-V酸化物複合電析において,電解液にPEGを添加するとZnの析出電位が卑に移行してH2発生速度が増加した.これによりZr4+およびVO2+イオンの加水分解反応が起こり易くなり,Zr酸化物の析出量は1000 A・m−2以上の電流密度で顕著に増加し,V酸化物の析出量は100-2000 A・m−2の電流密度域において増加した.これらの酸化物複合電析膜ではZnの板状結晶が微細になり,その上にZr酸化物はスポンジ状,V酸化物は薄膜状となって析出し,それぞれの表面被覆率が増加した.これらの酸化物複合電析膜では溶存酸素の還元反応が減少し,Zn電析膜およびPEGを添加しない酸化物複合電析膜よりも腐食電流密度は低下した.

本研究は,JSPS科研費JP18H01753により行なわれました.ここに謝意を表します.

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