Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
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Special Issue on Hydrogen and Materials Characteristic in Solids IV
Effects of Surface Treatment on Fatigue Property of A5052-H14 and A2017-T4 Aluminum Alloys
Ryota KidoRyoichi KuwanoMakoto HinoKeisuke MurayamaSeigo KurosakaYukinori OdaKeitaro HorikawaTeruto Kanadani
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2020 Volume 84 Issue 3 Pages 74-79

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Abstract

In this study, the effect of anodization and electroless Ni-P plating on the fatigue strength of commercial A5052-H14 and A2017-T4 aluminum alloys was investigated. The coated aluminum alloys were tested using a rotary bending fatigue testing machine. Anodization led to a slight increase in the fatigue strength of the A2017-T4 alloy of approximately 10% because of the suppression of the generation of fatigue crack, and anodization with a 5-µm thickness for A5052-H14 also led to a slight increase in the fatigue strength. However, anodization with a 20-µm thickness for A5052-H14 led to reduced fatigue strength because of the pits that formed in the film. In addition, electroless Ni-P plating drastically improved the fatigue strength of the A5052-H14 alloy by suppressing the generation of fatigue crack.It also improved the fatigue strength of the A2017-T4 alloy in the high-stress region. However, the fatigue strength in the low-stress region was the same as that of the non-coated specimens.This fatigue strength should have originated from the hydrogen embrittlement by the hydrogen introduced into the specimen during the plating.

1. 緒言

自動車などの輸送機器分野では,CO2排出量削減・低燃費化への対策として,各種部材に対する軽量化が要求されており,この差し迫った問題に対応するため,軽量材料であるアルミニウム合金の適用が拡大している1).さらにアルミニウム部材の表面に装飾性,耐食性,耐摩耗性などの様々な機能を付与することによってその適用範囲を拡大することができる.現在,アルミニウム部材に対して表面機能の向上を目的とした様々な表面処理が適用されているが,その中でも陽極酸化処理およびめっきが良好な耐食性や耐摩耗性を有する表面処理として多用されている2).一方,アルミニウム合金への陽極酸化処理が疲労強度の低下を招くこと3),また,ミクロンサイズの析出物を含むAl-Si系アルミニウム合金への無電解Ni-Pめっきがめっきにおいて材料中に吸蔵された水素によって疲労強度に悪影響を及ぼすことが報告されている4).アルミニウム合金を構造部材に適用するにあたり,疲労強度を含む機械特性は重要であり,機械特性に及ぼす表面処理の影響を明らかにすることは有用である.

本研究では,アルミニウム合金の中で非熱処理型および熱処理型として代表的な5000系および2000系合金について,疲労特性に及ぼす陽極酸化処理ならびに無電解Ni-Pめっきの影響を調べるとともに,各表面処理が疲労特性に対する水素脆性の関与を明らかにすることを目的とした.

2. 実験方法

実験には,市販のA5052-H14アルミニウム合金(10 mmφ棒材,以下,A5052合金と記す)およびA2017-T4アルミニウム合金(10 mmφ棒材,以下,A2017合金と記す)を使用した.Table 1に各合金の化学組成を示す.既報5)に示した形状に機械加工を行った後,試験に供した.各試料に対してTable 2に示した条件に従い,硫酸アルマイトならびに無電解Ni-Pめっきを施した.なお,無電解Ni-Pは,市販のめっき液(KTB-HK上村工業(株)製:皮膜リン量8-9 mass%)を用いた.硫酸アルマイトおよび無電解Ni-Pめっきの前処理は標準的な手順に従い,無電解Ni-Pでは,皮膜の密着性の観点からダブルジンケート処理を行った6).表面処理前後の試料について,各試験片R部における表面および断面観察を行うとともに,既報5)に示した回転曲げ疲労試験(回転数3150 rpm(52.5 Hz))を行い,S-N曲線を求めた.さらに無電解Ni-Pによる水素脆性の影響を明らかにするため,既報7)に従い,高強度に熱処理したSK85鋼(70 mm × 4 mm × 0.5 mm)を用い,三点曲げ試験を行った.

Table 1

Chemical composition of A5052-H14 and A2017-T4 aluminum alloys (mass%).

Table 2

Conditions for surface treatment.

3. 実験結果および考察

3.1 引張特性

A5052合金およびA2017合金の引張特性をTable 3に示す.非熱処理型であるA5052合金の0.2%耐力および引張強さは,熱処理型であるA2017合金のそれらと比較し,1/2程度と低いが,伸びはほぼ同じ値であった.A2017合金は,高強度・高靱性を有しているが,これは溶体化処理+自然時効によるAl2Cu,Al2CuMgに対応するG.P. ゾーンの析出に起因する.

Table 3

Mechanical properties of A5052 and A2017 aluminum alloys.

3.2 R部の表面状態

回転曲げ疲労試験では,外周での曲げ応力が最大となるため,通常,亀裂は外周部を起点とし,中心部に向かって進行する.そのためR部の表面形態が疲労特性に大きく影響を及ぼすことから,試験片形状に加工後のR部表面をSEMによって観察した.Fig. 1に観察結果を示したが,A5052合金およびA2017合金はともに切削加工に基づくツールマークのみ観察され,その他の傷やむしれ等はほとんどみられなかった.なお,A5052合金およびA2017合金の表面粗さRaは,それぞれ1.30 µmおよび1.25 µmであり,合金の違いによる表面状態の大きな差異は認められない.

Fig. 1

SEM images of each specimen surface at R part.

Fig. 2には,硫酸アルマイト(膜厚5 µm)後のR部表面のSEM写真を示す.A5052合金およびA2017合金ともに硫酸アルマイト後にも切削加工に基づくツールマークが観察された.陽極酸化皮膜にはそれぞれ微細なピットが生じており,いずれの合金も膜厚の増加に伴い,ピットは拡大した.A5052合金でのピットのサイズはA2017合金でのそれよりも大きく,発生数もA5052合金の方が多い.

Fig. 2

SEM images of anodized specimen surface at R part. (a) A5052 alloy (b) A2017 alloy.

皮膜に生じたピットは応力集中を招き,破壊の起点となる可能性があるため,FIB-SEMによってピット部を断面方向から観察した.Fig. 3には,A2017合金への膜厚5 µmの陽極酸化皮膜の観察結果を示す.皮膜はピット部にも形成されていることから,ピットは前処理あるいは硫酸アルマイトでの電解中に素材中のAl3Feなどの金属間化合物が脱落することによって生じたものと推測される.なお,A5052合金についてもA2017合金と同様,ピット部に皮膜が形成されていた.

Fig. 3

Cross-sectional SEM images of anodized layer for A2017 alloy.

Fig. 4には,無電解Ni-Pめっき後のR部表面のSEM写真を示す.A5052合金およびA2017合金ともにめっき後にも切削加工に基づくツールマークが観察され,表面粗さRaは,A5052合金の膜厚3 µmおよび13 µmが,それぞれ1.80 µm,2.03 µm,A2017合金の膜厚3 µmおよび13 µmが,それぞれ1.73 µm,2.02 µmであった.各合金ともにめっき後の表面粗さRaは,未処理のそれらよりも増加したが,これはアルカリ脱脂,酸洗,ダブルジンケート処理と3段階のめっき前処理が施されているため,母材がエッチングされ,表面粗さが増加したものと推測される.いずれの合金ともに膜厚の増加によって表面粗さは僅かに増加し,硫酸アルマイト皮膜で認められたピットは観察されなかった.

Fig. 4

SEM images of electroless Ni-P plated specimen surface at R part. (a) A5052 alloy (b) A2017 alloy.

Fig. 5には,A5052合金に対して無電解Ni-Pめっきを13 µm施した試料の断面観察結果を示す.膜厚は均一でA5052合金基材とめっき皮膜の界面に隙間は認められず,完全に密着しているが,これはめっき前処理にダブルジンケート処理を適用しているためである6).なお,A2017合金へのめっきもA5052合金と同様であった.

Fig. 5

Cross-sectional SEM images of electroless Ni-P plating for A5052 alloy.

3.3 疲労特性

Fig. 6には,A5052合金およびA2017合金について,膜厚の異なる硫酸アルマイトを行った試料の回転曲げ疲労試験によって得られたS-N曲線を示す.低荷重領域では回転数が107回に達しても破断に至らなかったため,その時点で試験を終了し,その時の疲労強度(Fig. 6中の矢印)を用いて評価した.未処理のA5052合金およびA2017合金の疲労強度は,それぞれ90 MPaおよび170 MPaであり,A2017合金の疲労強度はA5052合金のそれよりも2倍近く高い.また,Table 3に示した引張強さにおいても疲労強度と同様にA2017合金がA5052合金よりも2倍程度高く,A2017合金はA5052合金よりも機械特性に優れた合金である.

Fig. 6

Relation between stress (σ) and number of cycles to failure (N) for anodized specimens.

A5052合金への硫酸アルマイトでは,膜厚によって疲労強度への影響が異なった.膜厚5 µmの疲労強度は未処理のそれと比較し,高荷重領域では破断に至るまでのサイクル数が低下したが,低荷重領域では逆に向上し,疲労強度は20%程度向上した.これは低荷重領域において,母材のA5052合金よりも硬質な陽極酸化皮膜が,表面での疲労亀裂の発生を抑制することによって向上したと推測される.膜厚20 µmでの疲労強度は,未処理のそれよりも僅かに低下しており,特に高荷重領域でその傾向が顕著に認められ,ばらつきも大きくなった.これはFig. 2に示す皮膜に生じたピットが膜厚の増加とともに拡大し,疲労破壊の起点となり,皮膜割れが生じた結果,疲労強度が低下したと推測される.

一方,A2017合金への硫酸アルマイトは,ばらつきはあるものの,膜厚5 µmおよび膜厚20 µmともに疲労強度を向上させた.A2017合金の皮膜に生じたピットはA5052合金のそれよりも小さくかつ少ないため,A5052合金の膜厚20 µmでの皮膜割れによる疲労強度の低下が抑制されたためと推察される.

Fig. 7には,A5052合金およびA2017合金について,膜厚の異なる無電解Ni-Pめっきを行った試料の回転曲げ疲労試験によって得られたS-N曲線を示す.A5052合金への無電解Ni-Pめっきについて,膜厚5 µmでの疲労強度は140 MPaであり,未処理のそれよりも1.5倍向上した.また,膜厚13 µmの疲労強度は170 MPaであり,未処理のそれと比べ,約1.9倍向上し,この値は未処理のA2017合金のそれと同じであり,A5052合金への無電解Ni-Pめっきが疲労特性に対して極めて効果的であることを示している.なお,これらの疲労強度の向上は,Ni-Pめっき皮膜が580 HVと硬質で,かつ高靱性であるため,めっき皮膜が表面での疲労亀裂の発生を抑制することに基づくものと思われる.

Fig. 7

Relation between stress (σ) and number of cycles to failure (N) for electroless Ni-P plated specimens.

一方,A2017合金への無電解Ni-Pめっきの疲労強度は,A5052合金のそれとは大きく異なった.高荷重領域での破断に至るまでのサイクル数は未処理のそれよりも向上し,その傾向は膜厚13 µmの方が膜厚3 µmよりも顕著であった.しかし,107回での疲労強度は,未処理のそれと同程度まで低下し,全て170 MPa付近であった.このように同じめっき膜を施しても合金のタイプによって疲労強度への効果が大きく異なることが明らかになった.なお,A2017合金への無電解Ni-Pめっきの疲労強度が未処理のそれとほぼ同じ値になった要因として,Al-1.2 mass%Si合金への無電解Ni-Pの疲労強度の低下3)と同様,めっきによってアルミニウム基材中に吸蔵された水素が脆化を誘引するためと推測される.

3.4 三点曲げ試験による水素脆性評価

これまで無電解Ni-Pめっきの水素脆性について,デルタゲージ法による高田の報告8)によると水素脆化率は1.5%以下であり,各種めっき皮膜の中では水素脆性が生じにくいめっきに分類されている.また,A2017合金と同じAl-Cu系であるAA2618-T61合金に無電解Ni-Pを行うことにより,疲労強度が1.5倍向上することが報告されている9).本実験で得られたA2017合金の疲労強度の変化が本当に無電解Ni-Pめっきによる吸蔵水素に起因するかを確認するため,三点曲げ試験による水素脆性の評価を行った.なお,一般に金属材料に対する水素脆性感受性は応力集中および低ひずみ速度で高まることが知られており10),これまで著者らは亜鉛系めっきによる高強度鋼の水素脆性をSSRT三点曲げ試験によって評価し,その有用性を明らかにしている7).高強度鋼(SK85,硬さ640 HV)に対して本実験に用いた無電解Ni-Pめっきを膜厚5 µm施し,SSRT三点曲げ試験を行った.水素脆化の特徴として,ひずみ速度依存性があり,低ひずみ速度において脆化が促進される10)Fig. 8に変位速度と破断応力の関係を示すが,破断応力は変位速度の低下とともに減少しており,この結果は無電解Ni-Pめっきが水素脆性を誘引することを示している.なお,変位速度が0.01 mm/minよりも低下すると破断応力は僅かに増加したが,これはZn-Ni合金めっき7,11)と同様,試験中に水素脆性を誘引する拡散性水素が無電解Ni-Pめっき皮膜を透過し,基材から放出されたためと思われる.このようにA2017合金への無電解Ni-Pめっきにおいて,疲労強度の向上が妨げられた要因として水素脆性の関与が示唆された.特に高荷重領域での破断に至るまでのサイクル数が未処理のそれよりも向上する一方,低荷重領域では破断に至るまでのサイクル数が未処理のそれと同程度まで低下する結果は,水素脆性の特徴である低ひずみ速度ほど脆化するひずみ速度依存性とも一致している.さらにA2017合金への硫酸アルマイトでは疲労強度が未処理のそれよりも10%程度向上しているが,これも水素が関与しない陽極での電解に基づいており,A2017合金への無電解Ni-Pめっきの疲労強度の低下が水素による脆化であることを支持している.

Fig. 8

Effect of the displacement rate on the breaking stress of SK85 steel substrate with electroless Ni-P coating.

これまでミクロンサイズの析出物を含むAl-Si合金への無電解Ni-Pめっきにおいて,めっきによって吸蔵された水素が疲労強度を低下させることが判明したが4),2000系熱処理型合金のようにさらに微細な析出物に対してもめっきによる水素吸蔵が疲労強度に悪影響を及ぼすことが示唆された.一方,5000系非熱処理型合金では同じめっきを行っても水素脆性が生じないことから,今後は,めっきによる水素吸蔵に基づく疲労特性を含む機械特性と熱処理のよる微細組織の関連を詳細に検討する予定である.

4. 結言

市販のA5052およびA2017アルミニウム合金について,疲労特性に及ぼす陽極酸化処理および無電解Ni-Pめっきの影響を検討した結果,以下の結論を得た.

(1) A5052合金に対する硫酸アルマイトは,膜厚が薄い場合には疲労亀裂の発生を抑制し,疲労強度を向上させるが,膜厚が厚い場合には皮膜に生じるピットが皮膜割れを生じ,疲労強度は低下した.一方,A2017合金への硫酸アルマイトは,疲労亀裂の発生を抑制し,疲労強度を向上させた.これはA2017合金に生じるピットがA5052合金のそれよりも抑制されることに起因する.

(2) A5052合金に対する無電解Ni-Pめっきは,疲労亀裂の発生を抑制し,疲労強度を大幅に向上させ,膜厚13 µmの疲労強度はめっきを行っていないA2017合金と同程度まで向上した.一方,A2017合金への無電解Ni-Pめっきでは,高荷重領域において破断に至るサイクル数を向上させたが,低荷重領域では未処理のそれと同程度の値であり,これはめっきの際に吸蔵された水素による水素脆化に起因すると推測された.

本研究は,公益財団法人軽金属奨学会の研究助成事業2019年度統合的先端研究より研究資金の一部を援助頂いており,紙面をお借りし,謝意を申し上げる.

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