Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
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Application of Modified Optical Indentation Microscopy as New In Situ Indentation Method
Takahiro MinetaSeiji MiuraKazuhiko OkaTatsuya Miyajima
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2020 Volume 84 Issue 4 Pages 128-134

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Abstract

In the present study, a newly established in situ indentation technique by the use of an optically transparent indenter and an immersion liquid, so-called “modified optical indentation microscopy”, was applied for an investigation on the plastic deformation behavior of various samples during indentation. In this technique, the gap between the indenter and the specimen surface is filled with the immersion liquid such as silicone oil and kerosene to widely observe the specimen surface during indentation. In the in situ observations by this technique using polycrystalline pure Mg, the occurrence of various plastic deformation mechanisms and the increase of the anisotropic contact area during indentation can be recognized. Moreover, the increase and the decrease of the contact area which is corresponding to superelasticity during indentation were observed by this technique using the TiNi superelastic alloy. The results of the in situ observations were consistent with the analysis results based on the Hertz theory.

 

Mater. Trans. 60(2019) 1416-1422に掲載.Fig. 3のCaptionを一部修正.

1. 緒言

インデンテーション法は種々の材料特性を同時に測定することが可能であり,また試験片サイズの制限も少ないという利点を有する.インデンテーションから得られる材料特性をより正確に測定するためには,押し込み深さ,負荷荷重,及び圧子-試験片間の接触領域面積等のインデンテーションパラメータを正確に決定する必要がある.またインデンテーション中における材料の変形挙動を理解するためには,上記インデンテーションパラメータと様々な変形痕(すべり線,双晶,sink-in,pile-up等)の関係を明らかにすることが重要となる.しかしながら,汎用的なex situインデンテーション法を用いて上記関係を明らかとすることは困難である.それゆえ,インデンテーション中における上記インデンテーションパラメータと変形痕を同時にin situ観察することが可能なインデンテーション技術の開発が望まれてきた.

これまでに様々なin situインデンテーション法の開発が行われてきている1-14).それらのin situインデンテーション法は以下の3つのグループに分類される(Fig. 1).

(a)光学的に透明な試験片を用いたin situインデンテーション法(Fig. 1(a))1-4)

(b)試験片表面に対して角度を付けた方向から観察するin situインデンテーション法(Fig. 1(b))5-7)

(c)光学的に透明な圧子を用いたin situインデンテーション法(Fig. 1(c))8-14)

Fig. 1

Various previously proposed in situ indentation techniques.

in situインデンテーション法(a)では広範囲に渡る試験片の変形及び破壊挙動を観察可能である一方で,光学的に透明な試験片以外には適用ができないという問題点がある.in situインデンテーション法(b)では各種電子顕微鏡観察技術と組み合わせることで高分解能の観察が可能となるが,観察可能な視野範囲が限られているために接触領域面積の決定が困難となる.一方でin situインデンテーション法(c)は光学的に透明な試験片に限らず様々な試験片に適用が可能である.また手法(c)は圧子の接触領域周辺における変形挙動と押し込み深さ,負荷荷重及び圧子-試験片間の接触領域面積等のインデンテーションパラメータを同時に得ることが可能である.結果として,上記インデンテーションパラメータと接触領域周辺の変形痕の同時観察が可能であるという利点を有する.

光学的透明圧子を用いたin situインデンテーションでは,圧子/大気の界面において入射光の屈折や全反射が起こり得る.これは,一般的に光学的透明圧子と大気の屈折率が大きく異なることに起因する.入射光の屈折はin situ観察像の歪みを引き起こし,また全反射は観察像中における不可視領域が生じる原因となる.上記理由により,Miyajima等8,9)やFeng等10,11)により提案された光学的透明圧子を用いたin situインデンテーション法においては,圧子接触領域周辺での可視領域は限られたものとなっている.Maslenikov等は光の入射経路を制御するための新たな圧子形状を提案し,光の屈折に起因するin situ観察像の歪みを回避することに成功している12).しかしその技術では,圧子/大気の界面における光の全反射を回避することが困難となる.一方,我々は光の屈折と全反射の両方を低減することが可能なin situインデンテーション法である改良型顕微インデンテーション法を開発した14).改良型顕微インデンテーション法では,圧子と試験片表面間の空間を圧子に近い屈折率を有する液体(屈折率調整液)で満たすことにより,光の屈折と全反射の低減を可能としている.

本研究では,改良型顕微インデンテーション法により種々の材料における変形挙動のin situ観察を行った.また,上記試験から測定されるインデンテーションパラメータ及びヘルツの弾性接触理論に基づき変形挙動の考察を行った.本研究における改良型顕微インデンテーション法では,その対称性の高い圧子形状から半球状圧子(Brinellインデンテーション)を選択した.

2. 実験方法

2.1 改良型顕微インデンテーション法

Fig. 2に(a)改良型顕微インデンテーション装置の構成と(b)試験中における光路の模式図を示す.改良型顕微インデンテーション法における光学モデルの詳細は先行研究に記す14).光学的透明圧子を用いたin situインデンテーションでは,圧子表面で入射光の屈折及び全反射が生じ得る.スネルの法則より,入射角$\theta _i$,屈折角$\theta _r$,臨界角$\theta_0$,光学的透明圧子及び屈折率調整液の屈折率$n_i$及び$n_r$の関係は   

\[\sin \theta_i=\frac{n_r}{n_i}\times \sin \theta_r\](1)
  
\[\sin \theta_0=\frac{n_r}{n_i}\](2)
として表される.式(1)及び式(2)より,光学的透明圧子を用いたin situインデンテーションでは屈折率比$n_r/n_i$が1に近いほど入射角$\theta_i$と屈折角$\theta_r$の差が小さくなり且つ臨界角$\theta_0$が90°に近づくため,良好な観察像が得られると言える.本研究では,光学的透明圧子の材料としてサファイア($n_i=1.77$,Vickers硬度:2000 HV15,16))及び石英ガラス($n_i=1.46$,Vickers硬度:1200 HV17,18))を選択した.圧子用材料の選定に関する詳細は先行研究に記す14).また,屈折率調整液としてシリコーンオイル($n_r=1.51$)及びケロシン($n_r=1.43$)を選択した.改良型顕微インデンテーション試験中,屈折率調整液は圧子と試験片表面の間の空間に表面張力で保たれた.Table 1に本研究及び先行研究で用いた光学的透明圧子と屈折率調整液の組み合わせを示す9-12).本研究で用いた光学的透明圧子と屈折率調整液の組み合わせにおける屈折率比$n_r/n_i$は先行研究におけるそれら($n_r/n_i=0.66, 0.56, 0.41$)に比べて1に近い.したがって,改良型顕微インデンテーション法により圧子押し込み試験中における接触領域周辺の試験片表面をin situ観察することが可能となる.
Fig. 2

(a) Schematic illustration of modified optical indentation microscopy and (b) ray paths.

Table 1

Indenters, immersion liquids and their refractive indices used in the present work and previous work9-12).

2.2 試験材料及び試験条件

2.2.1 Pure Mg多結晶

本研究では,すべり変形及び双晶変形が共に生じ易いPure Mg多結晶を試験材料として選択した.高純度Mg(99.97%)をAr雰囲気にて高純度グラファイト坩堝内で高周波誘導溶解し,鉄製鋳型に鋳造した.厚さ4 mmに切断したPure Mg試験片にエメリー紙及びコロイダルシリカ(粒子径0.04 µm)を用いた機械研磨を施した後,C2H5OH-4%HClを用いたエッチングを行った.そのPure Mg試験片をガラス管へAr封入し,773 K,2 hの熱処理を施し水冷した.Pure Mg試験片の押し込み試験は,改良型顕微インデンテーション装置を用いて常温で実施した.変位速度は1 µm/s,最大押し込み荷重は9.8 Nとし,圧子-屈折率調整液の組み合わせとしてサファイア-シリコーンオイル($n_r/n_i=0.85$,圧子半径$R=500$ µm)を選択した.試験後に,FE-SEM(field emission scanning electron microscopy; 日本電子(株)JSM 6500F)及びEBSD(electron backscatter diffraction)法による試験片表面観察を行った.

2.2.2 TiNi超弾性合金

本研究における第2の試験材料として,TiNi超弾性合金を選択した.高純度Ti(99.99%)及び高純度Ni(99.99%)をAr雰囲気にて水冷Cuハース上でタングステン電極を用いてアーク溶解し,47.6 at%Ti-52.4 at%Niインゴットを作製した.合金組成は蛍光X線分析(日本電子(株)JSX-3220Z)を用いて測定した.厚さ4 mmに切断したTiNi超弾性合金試験片にエメリー紙及びアルミナスラリー(粒子径0.1 µm)を用いた機械研磨を施した.そのTiNi超弾性合金試験片をガラス管へAr封入し,673 K,1 hの熱処理を施した後に水冷した.TiNi超弾性合金試験片の押し込み試験は,改良型顕微インデンテーション装置を用いて常温で実施した.変位速度は1 µm/s,最大押し込み荷重は49 Nとし,圧子-屈折率調整液の組み合わせとして石英ガラス-ケロシン($n_r/n_i=0.98$,圧子半径$R=500$ µm)を選択した.本研究で用いたTiNi合金の超弾性特性を確認するために,4 × 4 × 8 mm3の試験片を用いた圧縮試験をひずみ速度$\dot{\varepsilon}=2.0\times10^{-4}$ s−1,常温の条件で行った.

3. 結果と考察

3.1 Pure Mg多結晶

Fig. 3にPure Mg多結晶における(a)-(f)in situ観察像,(g)-(i)画像処理ソフト(ImageJ ver. 1.45l)を用いた画像処理後のin situ観察像,(j)圧痕の光学顕微鏡観察像,(k)試験後のEBSD解析結果を示す.画像処理は圧子と試験片の接触領域を明確化するために行った.逆極点図マップ(Fig. 3(k))における黒太線で示される界面は$\{10\bar12\}$双晶界面を表す.押し込み荷重の増加に伴う接触領域の拡張が観察された.Fig. 3に示すとおり,接触領域及び圧痕の形状は円形とはならず歪んでいることが確認された.これはPure Mgにおける塑性異方性に起因するものであると考えられる13,14,19-21).また,圧子押し込み過程におけるすべり線及び双晶の導入が観察された.試験後の光学顕微鏡観察結果からも,同様の塑性変形機構の活動が確認された.試験後のEBSD解析より,すべり線は底面すべりの活動によるものであり,また発生した双晶は$\{10\bar12\}$双晶であることが確認された.導入された$\{10\bar12\}$双晶の多くは圧子と試験片の接触部から発生しているが,一部の$\{10\bar12\}$双晶は接触部から離れた位置で発生しているのも確認された(twin A in Fig. 3(b)).これは圧子押し込み時に生じた接触領域周辺の応力場に起因するものであると考えらえる.有限要素法等の計算機シミュレーションを用いることでこの現象をより詳細に理解できるものであると期待される.

Fig. 3

(a)-(f) In situ images, (g)-(i) processed in situ images, (j) an optical micrograph after testing, and (k) EBSD analysis results of polycrystalline pure Mg. The red circles in (b) indicate the twins.

Pure Mg多結晶における改良型顕微インデンテーション法により得られた荷重-変位曲線をFig. 4(a)に示す.ヘルツの弾性接触理論を考えると,平坦な試料表面と球状圧子が弾性接触した場合,荷重$P$と変位$h$の関係は以下の式で示される22).   

\[P=\frac{4}{3}R^{1/2}E^{*}h^{3/2}\](3)
ここで$E^{*}$は圧子と試料から成る系の合成ヤング率である.式(3)より,塑性変形が生じなければ$P\propto h^{3/2}$の関係が成り立つ.Fig. 4(b)の$P-h^{3/2}$曲線に示す通り,$P$が約0.9 N以下で$P$$h^{3/2}$に比例している.それゆえ,$P=0.9$ N程度で塑性変形が生じたと推測される.これは$P=1.0$ Nにおいて接触領域の端で$\{10\bar12\}$双晶の活動が確認された結果と矛盾しない(Fig. 3(b)).
Fig. 4

(a) A $P-h$ curve and (b) a $P-h^{3/2}$ curve obtained by modified OIM using polycrystalline pure Mg.

上記結果より,改良型顕微インデンテーション法により歪んだ接触領域の拡張過程と塑性変形機構の発生をin situ観察することが可能であることが明らかとなった.in situ観察像とヘルツの弾性接触理論に基づく$P-h^{3/2}$曲線の解析結果は矛盾せず,本手法によりインデンテーション中における塑性変形挙動の解析が可能であると言える.改良型顕微インデンテーション法と有限要素法等の数値解析手法を組み合わせることでインデンテーション中における塑性変形挙動の更なる理解が可能であると期待される.

3.2 TiNi超弾性合金

Fig. 5にTiNi合金の圧縮試験から得られた公称応力-ひずみ曲線を示す.公称ひずみは試験片の初期高さと試験機クロスヘッドの移動量から計算した.Fig. 5に示す通り,本TiNi合金は室温において超弾性特性を示すことが確認された.Fig. 6にTiNi超弾性合金を用いた改良型顕微インデンテーション法における(a)-(c)負荷過程及び(d)-(e)除荷過程でのin situ観察像を示す.負荷過程における接触領域の拡張及び除荷過程におけるその縮小が共に観察された.この結果は本合金における超弾性特性に対応する.除荷過程における圧痕消失のため,従来のex situインデンテーションでは超弾性合金の接触領域面積(圧痕面積)を計測することはできない.一方で,本研究における改良型顕微インデンテーション法では接触領域面積と負荷荷重$P$の関係をin situ観察から直接的に求めることが可能である.Fig. 7にTiNi超弾性合金における(a)$P-h$曲線及び(b)$P-h^{3/2}$曲線を示す.Fig. 7(a)に示す通り,$P-h$曲線では超弾性特性に起因するヒステリシスが確認された.これは超弾性合金における球状圧子を用いたインデンテーションで典型的な$P-h$曲線であり23)Fig. 6に示すin situ観察像とも矛盾しない.$P-h^{3/2}$曲線より,負荷過程での約15 N以下の負荷荷重において$P$$h^{3/2}$が比例関係にあることが確認された.したがって,超弾性変形は$P=15$ N程度で生じたと考えられる(式(3)).

Fig. 5

A nominal stress-indentation strain curve of TiNi superelastic alloy.

Fig. 6

(a)-(e) In situ images of TiNi superelastic alloy.

Fig. 7

(a) A $P-h$ curve and (b) a $P-h^{3/2}$ curve obtained by modified OIM using TiNi superelastic alloy.

改良型顕微インデンテーション法によるin situ観察像から接触領域面積を求めることが可能である.TiNi超弾性合金における接触領域の半径$r$を計測し,負荷荷重$P$との関係を求めた.球状圧子を用いたインデンテーションにおいて,インデンテーション応力$\sigma_i$及びインデンテーションひずみ$\varepsilon_i$は以下の式で示される22,24).   

\[\sigma_i=\frac{P}{\pi r^2}\](4)
  
\[\varepsilon_i=\frac{4}{3\pi}\frac{r}{R}\](5)
Fig. 8にTiNi超弾性合金におけるインデンテーション応力-ひずみ曲線を示す.インデンテーション応力-ひずみ曲線では明瞭なヒステリシスが確認された.Fig. 8より,合成ヤング率は$E^*{}={}21$ GPaを見積もられた.インデンターとTiNi合金のヤング率及びポアソン比を用いることで($E_i=76.4$ GPa,$\upsilon_i=0.17$$E_{\rm TiNi}$及び$\upsilon_{\rm TiNi}=0.30$18,25)),合成ヤング率は以下の式で求められる22,24).   
\[\frac{1}{E^*}=\frac{1-\upsilon_{\rm TiNi}^2}{E_{\rm TiNi}}+\frac{1-\upsilon_i^2}{E_i}\](6)
式(6)より,TiNi合金のヤング率は$E_{\rm TiNi}=26.1$ GPaと見積もられた.$E_i$$E_{\rm TiNi}$の約3倍大きく,インデンターの弾性変形による影響は無視できる程度に小さいと考えられる.インデンテーション(Fig. 8)及び圧縮試験(Fig. 5)から求められた0.2%耐力はそれぞれ1206 MPa及び648 MPaであった.ここで,Sakai等はインデンテーションから求めた0.2%耐力は圧子半径に依存し,またその値は圧縮試験から求めた0.2%耐力より高いことを指摘している26).上述の通り,超弾性変形は約$P=15$ Nにおいて生じていた.式(4)より,負荷荷重$P=15$ Nはインデンテーション応力$\sigma_i=1145$ MPaに対応し,その値はインデンテーションから求めた0.2%耐力と矛盾しない.Fig. 9にBrinell硬度HBと押し込み荷重$P$の関係を示す.ここでBrinell硬度の計算に用いた接触領域半径$r$in situ観察像から求めたものであり,それゆえFig. 9のBrinell硬度には弾性変形と超弾性変形の両方による寄与が含まれている.破線はヘルツの弾性接触理論($E^*{}={}21$ GPa)に基づき求めたBrinell硬度であり,その時の接触領域半径は以下の式より求めた9).   
\[2r=\left(\frac{6R}{E^*}\right)^{1/3}P^{1/3}.\](7)
超弾性変形に起因して,負荷過程及び除荷過程におけるHBは明瞭に異なることが明らかとなった.また,負荷荷重が15 N以下において負荷過程での曲線は破線で示されるヘルツの弾性接触理論とよく一致していた.したがって超弾性変形は約$P=15$ Nにおいて生じたと考えられ,この結果はFig. 7(b)に示す$P-h^{3/2}$曲線ともよく一致する.
Fig. 8

An indentation stress-indentation strain curve of TiNi superelastic alloy.

Fig. 9

A relationship between Brinell hardness and applied load $P$ of TiNi superelastic alloy.

TiNi超弾性合金のインデンテーション中における変形挙動を,in situ観察像及び改良型顕微インデンテーション法から求めた種々のインデンテーションパラメータを用いて考察する.in situ観察像の拡大図をFig. 10に示す.変形前($P=0$ N,Fig. 10(a))及び負荷過程初期($P=10$ N,Fig. 10(b))の段階では,試験片表面は平坦であった.一方で,Fig. 10中の黒矢印で示される表面起伏の発生が負荷過程後期($P=20$ N,Fig. 10(c))で確認された.また負荷荷重の増加に伴いこの表面起伏の拡張が確認された($P=49$ N,Fig. 10(d)).除荷過程においてこの表面起伏が消滅することが明らかとなった($P=10$ N,Fig. 10(e)).表面起伏が生じた負荷荷重は上述した$P-h^{3/2}$曲線(Fig. 7(b))及びHB$-P$曲線(Fig. 9)から得られる解析結果とよく一致する.以上より,応力誘起マルテンサイト変態に起因するせん断ひずみにより表面起伏が生じたものであると考えられる.

Fig. 10

Magnified in situ images of TiNi superelastic alloy. The black arrows show the surface relief caused stress-induced martensitic transformation.

上記の結果より,改良型顕微インデンテーション法は接触領域の拡大及び縮小過程をin situ観察することが可能であり,結果として超弾性材料におけるBrinell硬度の算出が可能となる.加えて,接触領域周辺における応力誘起マルテンサイト変態による表面起伏の導入が観察された.インデンテーション応力-ひずみ曲線において明瞭な超弾性特性が確認された.さらに,変形のin situ観察結果はヘルツの弾性接触理論に基づく解析結果と矛盾しないことが明らかとなった.したがって,本手法は超弾性材料における特性評価及び変形挙動の理解に効果的であると期待される.

4. 結論

改良型顕微インデンテーション装置を用いて,Pure Mg多結晶及びTiNi超弾性合金の押し込み変形挙動をin situ観察した.

(1) Pure Mg多結晶におけるすべり変形及び変形双晶の活動,並びに異方性接触領域の拡張過程が改良型顕微インデンテーション法により観察された.したがって,本手法により上記観察結果とインデンテーションパラメータの関係を明らかにすることができた.

(2) TiNi超弾性合金における接触領域の拡張及び縮小過程が改良型顕微インデンテーション法により観察された.インデンテーション応力-ひずみ曲線は明瞭な超弾性特性を示すことが明らかとなった.インデンテーション中における応力誘起マルテンサイト変態が観察され,その結果は各種インデンテーションパラメータ及びヘルツの弾性接触理論に基づく解析とよく一致するものであった.

本研究は,公益財団法人天田財団一般研究開発助成を受けて遂行されました.ここに謝意を表します.

文献
 
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