Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
Online ISSN : 1880-6880
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ISSN-L : 0021-4876
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Identical-Location Scanning Electron Microscopy Observation of Surface Morphological Changes of Pt-Cu Nanoparticles
Azusa OoiYuichi ShigiharaEiji TadaAtsushi Nishikata
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2020 Volume 84 Issue 7 Pages 244-252

Details
Abstract

The surface morphological change of electro-deposited Pt–75 at% Cu (Pt–75Cu) nanoparticles under potential cycling were investigated by identical-location scanning electron microscopy. Electro-deposited nanoparticles consisted of numerous nuclei (~3 nm in diameter) that agglomerated to form larger secondary particles (30-50 nm). In the initial immersion in the sulfuric acid, Pt-shell formed on the surface due to the selective dissolution of Cu from Pt-75Cu. Although around 40% of Cu dissolved, noticeable surface morphological change does not appear. Then Pt-75Cu was subjected to potential cycling between 0.05-1.0 V, surface smoothing of the nanoparticles slightly progressed due to surface diffusion of Pt. On the other hand, when Pt-75Cu was potential-cycled between 0.05-1.4 V, a particle diameter of the nanoparticles drastically decreased, and the nucleus on the surface completely disappeared owing to Pt dissolution and re-deposition. The heat-treated nanoparticles formed numerous pores on the surface during the immersion and the initial stage of the potential cycle. However, the final morphology was similar to the non-heated one. The formation of pores can be explained by the coarsening of nuclei by heat treatment.

1. 緒言

自動車・定置用燃料電池として広く普及が見込まれる固体高分子形燃料電池(PEFC)は,低温稼働を実現するために,正極の酸素還元反応(ORR)触媒に白金(Pt)が使用される.しかし,Pt価格がPEFCセル製造コストの大部分を占めるため,Pt使用量の低減がPEFCの低価格化・普及のために必要不可欠である.その方策の1つとして,Ptをより安価な元素(M:コバルト(Co),鉄(Fe),ニッケル(Ni),銅(Cu)など)で一部代替した,Pt-M合金触媒の開発が挙げられる.Pt-M合金触媒は,Pt触媒より高いORR活性を示すことが報告されており1-4),コスト低減に加えて大きな利点がある.また,コスト低減の別の方策として,電析法を用いた触媒作製がある.電析法では,正極の集電体であるカーボン(C)上にのみPtを担持できるため,Ptの利用効率が高いと報告されている5).近年では,電析法による様々なPt2元系合金(Pt-Co5-8),Pt-Fe9),Pt-Ni10),Pt-Cu11)触媒の作製法が提案されており,その粒径制御やめっき浴の管理が容易なため,電析法が新たな触媒作製手法として期待されている.このように,ORR活性・利用効率に優れたPt-M合金触媒の開発が進められているが,PEFC普及のためには,その耐久性も重要である.Ptより卑な金属であるMを含むPt-M合金触媒は,PEFC作動環境で容易にMが溶解し,触媒の劣化が進行することが予想される12,13).したがって,Pt-M合金触媒の溶解挙動を調査することは,極めて重要である.

我々のグループでは,PEFCの作動環境を模擬した電位サイクル試験をバルク材Pt–M合金に対して行い,誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)で溶解量を評価し,その溶解挙動を検討した14-17).その結果,電位サイクル下でPt–M合金からPtとMの双方が溶解することを明らかにし,その量はMが極めて多いことを報告した.すなわち,Pt–M合金からMが選択溶解することを示し,選択溶解挙動に及ぼすMの種類14),電位サイクル範囲15),及びCo組成16,17)の影響について報告した.また,より詳細なPt–M合金の溶解挙動を調査するために,チャンネルフローマルチ電極法を開発し,Pt–Fe合金からPt及びFeが溶解する電位範囲や,溶解価数の解析を可能にした18,19).一方で,高い検出感度を有し,分析対象となる元素にほぼ制限がないICP-MSを利用した,オンラインICP-MS測定システムの構築が精力的に行われている.Mayrhoferら20,21)は,V字型の流路を有する独自開発のセルとICP-MSを接続し,電位サイクル下におけるPt–Cu合金の詳細な溶解メカニズムを提案した.近年,この測定技術は様々な研究者によって発展されており,Pt–Co22,23),Pt–Ni24),及びPt–Cu23,25)ナノ粒子への応用も始まっている.

Pt–M合金の溶解挙動を調査する別の手段として,透過型電子顕微鏡(TEM)観察がある.これは,PEFCの正極触媒として使用されるPt-M合金触媒が,その比表面積を向上するために,数nm程度のナノ粒子として合成されるからである.Newmanら26)は,バルク材2元系合金の溶解挙動は卑金属元素の組成に依存し,その組成が50–60 at%に溶解挙動が変化する閾値が存在することを報告している.Pt-M合金の場合,Mが50 at%含まれていればMの選択溶解により,合金の表面に厚さが1–1.5 nmのPtの濃縮層が形成する27).一方で,Mの組成が57 at%以上になるとMの選択溶解により,多孔質なPt濃縮層を形成する21,28,29).ところが,Pt-M合金ナノ粒子になると,Mを70%以上含んでも表面は多孔質にならず,表面に緻密なPtシェルを形成することが,TEM観察と電子エネルギー損失分光(EELS)法で明らかにされている30).また,選択溶解に伴うPt-M合金ナノ粒子の構造変化には粒径依存性が存在し,粒径が30 nmを超えるとバルク材と同様にふるまい,その構造が多孔質化することも報告されている31).このように,TEM観察を行うことで,バルク材とナノ粒子間の溶解挙動の違いを議論することが可能になった.

近年では,ナノ粒子の溶解挙動をより詳細に調査するために,TEMによる同一視野観察技術の発展も目覚ましいものがある.PEFC作動環境の負荷を付加する前後で,同一のPt-M合金ナノ粒子を観察して,ナノ粒子の粒径減少や表面構造の変化を捉えることに成功している32).これらの変化は,PEFC作動環境における触媒活性の低下を説明する妥当な理由として利用される33).しかし,そもそもナノ粒子の構造変化の起源はPtやMの溶解であるにもかかわらず,構造変化と溶解量を関連付けた報告は見られない.ところで,試料の内部情報調査にTEMは優れたツールであるが,最表面情報を調査する場合は,分解能ではTEMに劣るものの走査型電子顕微鏡(SEM)が有効である.Gaberščekら34)は,SEMによりPt-NiやPt-Cuナノ粒子の表面に多孔質構造が形成する過程の同一視野観察に成功した.しかし,この観察ではTEMグリッド上に担持されたナノ粒子を使用しており,グリッドのC支持膜は極めて薄く容易に破損する恐れがある.そこで我々は,扱いが容易であるグラッシーカーボン(GC)にPt-Cuナノ粒子を電析法で作製し,SEMにより同一視野観察を行う方法を提案した11)

そこで本研究では,電析法で作製したCuリッチなPt-Cuナノ粒子に対し,既報で提案したSEMによる同一視野観察技術を適用し,PEFCの作動環境を模擬した電位サイクル下における,ナノ粒子の表面構造の変化を捉える.また,ICP-MSを用いたPt及びCuの溶解量分析を併用し,電析法で作製したPt-Cuナノ粒子の溶解挙動を検討する.

2. 実験方法

2.1 パルス電析法によるPt-Cuナノ粒子の作製

電析用の基板にはGCを用い,GCをSiC紙で#2,000まで研磨した後に,アセトン及びMilli-Q(18 MΩ cm)で超音波洗浄して電極表面の汚れを除去した.その後,400 Kに加熱した炉内で基板を12 h以上乾燥させ,実験直前に取り出して室温(298 K)まで冷却して実験に用いた.電析浴は,K2PtCl4(> 99%,純正化学(株))及びCuSO4·6H2O(> 99.5%,関東化学(株))の濃度がそれぞれ6 mMと400 mMになるように,0.5 M Na2SO4(> 99.0%,関東化学(株))で希釈して作製した.なお,H2SO4(> 96.0%,関東化学(株))を電析浴に添加し,pHを約2に調整した.また,Ptナノ粒子を作製するために,6 mM K2PtCl4の電析浴も準備した.

パルス電析は,三電極式の電気化学セルを用いて実施した.作用電極(WE)となるGCは,試験面積を一定にするため絶縁テープで被覆した.なお,電位サイクル試験及びSEM同一視野観察用の試料は,電析部面積がそれぞれφ = 8 mmの円,3 mm × 8 mmの長方形となるようにした.WEと同形状のGC製の対極(CE)を準備し,セル内で2 cm離して対向するように配置した.参照電極(RE)には,銀/塩化銀電極(SSE)を用いた.本論文では,電位は全て標準水素電極(SHE)基準に換算して示してある.既報11)の結果を参考に,パルス電析を実施する電位は,核生成及び成長電位(Eon)を-0.05 V(vs. SHE)とし,拡散層の回復電位(Eoff)を0.2 Vとした.Eon及びEoffの時間はそれぞれ3 ms,30 msであり,EonEoffを交互に10回繰り返し印加した.作製したPt-Cuナノ粒子の組成は,試料を363 Kに加熱した王水に12 h以上浸漬して完全に溶解させ,その溶液をICP-MS(Agilent Technologies社,7700x)で分析して,溶解量の比から決定した.

2.2 電位サイクル試験

静止系の三電極式電気化学セルを用いて,作製したナノ粒子に対して電位サイクル試験を行った.試験溶液は0.5 M H2SO4(298 K)を用い,REとCEはそれぞれSSEとCロッドを用いた.なお,ナノ粒子から溶解したPtやCuがCE上へ再析出することを防ぐために,CEがWEと別室にあるセルを用いた14).まず,ナノ粒子を0.5 M H2SO4に600 s浸漬し,自然電位(OCP)の変化を測定した.その後,PEFCの起動/停止を模擬した0.05–1.4 V(走査速度:100 mV s−1),及び負荷応答を模擬した0.05–1.0 V(走査速度:100 mV s−1)の電位範囲で,電位サイクル試験を5,000 cycle行った.600 sの浸漬試験,及び電位サイクル試験の50 cycle,200 cycle,500 cycleと,その後500 cycle毎に試験を中断し,試験溶液を採取して,新たな溶液と交換した.採取した溶液をICP-MSにより分析し,試験中に溶解したPt及びCu量を評価した.

2.3 SEMによるPt-Cuナノ粒子の同一視野観察

電位サイクルに伴うPt及びCuの溶解とナノ粒子の構造変化の関係を調査するために,電界放出型(FE)-SEM((株)日立ハイテク,SU9000)によりナノ粒子の表面形態観察を行った.まず,電析後のPt及びCuの分布を確認するために,加速電圧:6 kV,倍率:50,000倍として,FE-SEMに附属するエネルギー分散型X線分光器(EDS,AMETEK Inc.)で元素マッピングを行った.ナノ粒子の高分解能観察は,加速電圧:30 kV,倍率:1,000,000倍で行い,電位サイクル前後のナノ粒子を同一視野観察した.

3. 結果と考察

3.1 パルス電析法で作製したPt-Cuナノ粒子の特性

Fig. 1(a)–(c)は,6 mM K2PtCl4 + 400 mM CuSO4の電析浴中でパルス電析により作製したPt-Cuナノ粒子の2次電子像,及びEDSマッピングの結果を示している.これらの図から明らかなように,合金化されたナノ粒子が形成し,GC表面全体に分布していることがわかる.また,形成したPt及びPt-Cuナノ粒子を高倍で観察すると,1次粒子(直径3 nm以下)が凝集して大きな2次粒子を形成した,特徴的な構造をしていた.これは,電析中において,GC上でのPt(Pt-Cu)核形成の過電圧が,Pt(Pt-Cu)1次粒子上での過電圧よりも高いため,先行して形成したPt(Pt-Cu)核上で優先的に次の核形成が起こり,結果として凝集した形態になったと推察される35).なお,Pt-Cuナノ粒子の直径は,Ptナノ粒子と比較して粒度分布にバラつきが多く見られたが,主に約30–50 nmであった.

Fig. 1

FE-SEM images of electrodeposited nanoparticles: (a) Pt-Cu, (b) Pt-map (EDS), (c) Cu map (EDS), and (d) Pt. (e) and (f) are higher magnification images of (d) and (a), respectively.

Table 1は,GC上に電析されたPt及びPt-Cuナノ粒子を王水に浸漬して完全に溶解させた時の,Pt及びCuの溶解量(m(Init))を示している.これらの値から,6 mM K2PtCl4 + 400 mM CuSO4の電析浴中でパルス電析した時に形成するPt-Cuナノ粒子の組成を求めると,Pt-75 at% Cu(Pt-75Cu)であった.既報11)では,6 mM K2PtCl4 + 6 mM CuSO4の電析浴中でパルス電析すると,Pt-35Cuの組成を有するナノ粒子が得られた.したがって,電析浴濃度を調整することで,Cuに富むPt-Cuナノ粒子を作製できることがわかった.

Table 1

Amounts of Pt and Pt-Cu nanoparticles electrodeposited and chemical compositions evaluated using ICP-MS.

電位サイクル試験前に実施された,浸漬試験中における典型的なOCPの変化をFig. 2に示す.電析をしていないGC基板のOCPは,約0.55–0.60 Vであった.PtのOCPは浸漬時間の増加とともにわずかに貴化するが,およそ0.89 Vで安定した.一方,Pt-75CuのOCPはPtとは異なり,浸漬初期(< 20 s)に急激に貴化することがわかる.浸漬直後の電位は約0.37 Vであり,Cuの標準電極電位(0.337 V)に非常に近いことから,パルス電析直後のナノ粒子表面には多量のCuが存在していることが推察される.浸漬と同時に,Ptより卑なCuの選択溶解が始まり,表面にPt濃縮層(Ptシェル)を形成するため,電位が貴化したと考えられる.最終的なOCPは約0.93 Vであり,PtのOCPよりわずかに高い値を示した.すなわち,Pt-75CuはPtと比較して高いORR活性を有している.これは,Ptシェルの内側に残存するCuがもたらす,リガンド効果によるものと考えられる4).この浸漬試験中に,Pt-75Cuから溶解したPt及びCu量(Δm(Imm))は,それぞれ2.0,760 ng cm−2であった.なお,これらの値はPt及びCuの初期電析量の0.1及び38%に相当する.したがって,電位サイクル試験前に0.5 M H2SO4に浸漬するだけで,多量のCuが選択的に溶解しており,これはOCPが急激に変化することともよく一致する(Fig. 2).

Fig. 2

Typical changes in potentials of Pt and Pt-75Cu in 0.5 M H2SO4 during immersion test.

3.2 電位サイクル試験におけるPt及びCuの溶解量

600 sの浸漬試験の後に,0.5 M H2SO4中で上限電位(Eu)を1.0 V及び1.4 Vとする電位サイクル試験を実施した.この時に得られた,Pt-75Cuのサイクリックボルタモグラム(CV)をFig. 3に示す.上限電位によらず,酸性溶液中のPtで見られる典型的な水素(H)吸脱着ピーク(0.05–0.35 V)や,電気二重層領域(0.35–0.6 V)が,Pt-75CuのCVに現れた.また,アノード掃引の0.7 Vを超えるとPt酸化物の形成に伴う電流増加が見られ,カソード掃引時にはその還元ピーク(0.8–0.6 V)が観察された.初期のCVにこれらの挙動が現れていることは,浸漬試験の間にCuが選択溶解し,Pt-75Cuナノ粒子表面にPtシェルが形成していることを示している.

Fig. 3

CV profiles of Pt-75Cu in 0.5 M H2SO4 at 100 mV s−1 with different upper potential limits: (a) Eu = 1.0 V, and (b) Eu = 1.4 V.

Eu = 1.0 Vの時,サイクルの増加とともにH吸脱着ピークは,鋭い2つのピークに分離した.0.3 V及び0.15 Vのピークは,それぞれ{110}及び{100}へのH吸脱着に対応する36).このように,徐々にCVの形状が変化していくことは,電位サイクルに伴い,Pt-75Cuナノ粒子表面の再構成が進んでいくことに対応していると推察される.Eu = 1.4 Vの時も,同様にH吸脱着ピークは観察されるが,その大きさはサイクルとともに減少した.また,Eu = 1.0 Vとは異なり,サイクルの増加に伴い電気二重層領域が広がり続けた.さらに,1,000 cycle目には,アノード掃引の0.6 V付近にキノン/ハイドロキノンのピークが明確に現れており37),サイクルに伴いそのピークは大きくなった.一方,カソード掃引では,キノン/ハイドロキノンピークがPtの酸化物還元ピークと重畳してしまう.しかし,50 cycleと5,000 cycleのCVを比較するとピーク位置が約100 mV卑にシフトしていることから,CVにはキノン/ハイドロキノンのピークが主で現れていると考えられる.このピークの出現は,1.4 Vまでの電位サイクルにより,電析後に露出しているGCの腐食劣化が進行することに対応している.PEFC起動/停止環境を模擬した過酷な電位サイクル(0.4–1.4 V)に触媒が曝されると,担持担体であるCの腐食が発生することが報告されている24,38,39).すなわち,Cが腐食することにより表面の幾何学面積が増大し,結果として電気二重層領域の広がりや,キノン/ハイドロキノンピークの出現につながった.

Fig. 3のCVには表面に露出するGCの情報も含まれるため,カソード掃引に現れるH吸着ピークの電気量(QH)を利用し,Ptの電気化学活性面積(ECSA,SPt)を式(1)を用いて計算した40).   

\[S_{\rm Pt} = \frac{Q_{\rm H}}{Q_{\rm Poly}}\](1)
ここで,QPolyは多結晶Ptの1原子に水素原子1個が吸着した時の電気量(210 µC cm−2)を表している.

Fig. 4は,Eu = 1.0 V及び1.4 VにおけるECSAのサイクルに伴う変化を同時に示している.なお,縦軸のECSAは,PtのCVの特長が明確に現れた10 cycle目(Eu = 1.4 V),及び100 cycle目(Eu = 1.0 V)のECSA(SPt(Init))で規格化されている.Eu = 1.0 Vの時,ECSAはサイクルとともにわずかに減少しており,5,000 cycle目では初期の約90%となった.Eu = 1.4 Vの時もECSAは減少していく傾向を示しているが,その減少速度はEu = 1.0 Vの時よりも大きく,最終的にECSAは初期の約67%となった.

Fig. 4

Changes in normalized ECSA of Pt-75Cu during potential cycling with different upper potential limits.

電位サイクル試験中に,Pt-75Cuナノ粒子から溶解したPt及びCu量を,ICP-MSで測定した結果をFig. 5に示す.ここで,電析後もGCが表面に露出していること,及びECSAはサイクルの増加に伴うPtの溶解で変化することから,単位面積当たりの溶解量を評価することは適切ではないと考えられる.したがって,Fig. 5ではPt及びCu溶解量の積算値(Δm(Int))をプロットした.また,これらの値は初期電析量(Table 1)で規格化することで,電位サイクルに伴いナノ粒子からどの程度のPt及びCuが溶解したかを,パーセントで示してある(式(2)).   

\[\varDelta m_{\rm (Int)} = \frac{\varDelta m_{\rm (Imm)} + \Sigma \varDelta m_{\rm (P.C.)}}{m_{\rm (Init)}} \times 100\](2)
なお,ΣΔm(P.C.)は,電位サイクル試験中の任意サイクルまでのPtまたはCuの溶解量の積算値を表している.
Fig. 5

ICP-MS analyses of both (a) Pt and (b) Cu dissolved from Pt-75Cu during potential cycling with different upper potential limits. The inset is magnified view of amount of dissolved Pt (Eu = 1.0 V).

まず,Ptの溶解量に注目すると,Eu = 1.0 Vの時はサイクルに伴いPtが徐々に溶解している(Fig. 5(a)挿入図).ただし,5,000 cycle終了時の溶解量は,初期担持量の0.5%未満であり,実質的にほぼ溶解していないと言える.したがって,Fig. 4で見られたECSAの変化は,Ptの溶解ではなく,ナノ粒子表面の再構成による影響が大きいと推察される.一方で,Eu = 1.4 Vの時は,Eu = 1.0 Vの時と比較して多量のPtが溶解していることがわかる.このグラフの傾きは溶解速度に対応するため,サイクル初期と後期でその速度を比べると,初期の方がPtの溶解速度が大きいことがわかる.これは,電析後のナノ粒子表面に存在する低配位数のPt原子の溶解に対応していると考えられる.この急速な溶解が,ECSAの急激な減少につながったと示唆される(Fig. 4).1,000 cycle以降では,その傾きに変化がほぼ見られないことから,Ptは一定速度で溶解しているものと考えられる.最終的に,5,000 cycleの電位サイクル試験により,初期担持量の約65%のPtが溶解した.

Ptとは異なり,Cuは0 cycle(600 sの浸漬試験)の時点で初期担持量の約40%が溶解した.Ptと比較して極めて多量のCuが溶解しており,浸漬終了時にはPt-75Cuナノ粒子表面はPtシェルに覆われていると考えられる.Eu = 1.0 Vの時,浸漬試験終了後も表面近傍にわずかに残存するCu,及びナノ粒子の表面再構成に伴い最表面に露出したCuの溶解により,サイクル初期のCu溶解量はわずかに増加したと考えられる.サイクルの後期では,形成したPtシェルの溶解がこの電位範囲ではほぼ起こらないため(Fig. 5(a)),Cuの溶解が極めて抑制されたことが示唆される.一方,Eu = 1.4 Vの時は,Cuの溶解が5,000 cycleの時点でも抑制されず,連続的に発生している.電位サイクル中のCu溶解の傾向がPtと類似していることから,電位サイクルに伴うPtシェルの溶解により,Cuが表面に露出・溶解していると考えられる.

3.3 電位サイクルに伴うナノ粒子の表面形態変化

3.3.1 上限電位が表面形態変化に及ぼす影響

Fig. 6は,Ptナノ粒子を同一視野観察したSEM像を示している.Fig. 6(a)とFig. 6(b)を比較すると,0.05–1.0 Vの電位サイクル試験を1,000 cycle行う前後で,わずかにナノ粒子表面の平滑化が進んでいるように見えるが,いまだに1次粒子の構造が確認できる.Xuら41)は,走査型トンネル電子顕微鏡によるその場観察により,電位サイクル下における電気二重層領域で,Ptが表面拡散することを報告している.したがって,このわずかに進行する表面の平滑化は,Ptの表面拡散に起因すると考えられる.一方で,Eu = 1.4 Vの時は,わずか50 cycleでナノ粒子の構造に大きな変化が見られた(Fig. 6(d)).表面に存在する1次粒子は,近接する1次粒子と併合し凹凸が少なくなっている.1,000 cycle後には,表面の1次粒子の形状は完全に消滅し,ナノ粒子表面が完全に平滑化した(Fig. 6(f)).Eu = 1.4 Vの時,Eu = 1.0 Vとは異なり電位サイクルによりPtが多量に溶解するが(Fig. 5),Fig. 6(e)とFig. 6(f)を比べても,ナノ粒子の粒径減少はそこまで顕著に現れていない.すなわち,Ptの溶解以外にも,ナノ粒子の構造変化に影響を及ぼす要因が存在することが示唆される.そこで,Fig. 6(e)に存在する2つのナノ粒子に改めて着目すると,1,000 cycle後には1つに併合されていることがわかる.Ptの表面拡散によりナノ粒子どうしが併合する可能性も考えられるが,Fig. 6(b)における表面拡散の進行程度を見ると,表面拡散による併合としては表面形態が大きく変化しすぎである.したがって,この粒子どうしの併合を説明できる最も妥当な機構は,溶解したPtイオンのナノ粒子上への再析出である.Ptの標準電極電位は1.188 Vであり,0.05–1.4 Vの電位範囲ではPtの再析出は十分に起こる可能性があり,実際に既報11)でもPtの溶解/再析出の発生が報告されている.

Fig. 6

IL-FE-SEM images of Pt nanoparticles: (a), (c), (e) as deposited, (b) after 1,000 potential cycles (100 mV·s−1, 0.05-1.0 V), (d) after 50 potential cycles (100 mV·s−1, 0.05-1.4 V), and (f) after 1,000 potential cycles (100 mV·s−1, 0.05-1.4 V).

Fig. 7は,Eu = 1.0 Vの電位サイクル試験前後において,Pt-75Cuナノ粒子を同一視野観察したSEM像を示している.Fig. 7(a)とFig. 7(b)を比べてみると,ナノ粒子の表面形態にほとんど違いは見られなかった.興味深いことに,600 sの浸漬試験と50 cycleの電位サイクル試験で,Cuが約41%も溶解しているにもかかわらず(Fig. 5(b)),ナノ粒子の表面形態変化にほぼ影響を与えないことがわかった.したがって,電位サイクル試験中のナノ粒子の形状変化は,Ptの表面拡散と溶解/再析出が支配していると言える.Eu = 1.0 Vの時は,Ptの溶解は無視できるほど少ないため(Fig. 5(a)),1,000 cycle後に見られる表面平滑化の進行は(Fig. 7(d)),Ptの表面拡散の寄与によると考えられる.Pt-75Cuナノ粒子の表面は,Ptナノ粒子と比較して表面の平滑化の程度が1,000 cycleの時点でより進行しているように見える(Fig. 6(b)).これは,Cuの溶解により,低配位数のPt原子がナノ粒子表面に多数導入され,その結果Ptの表面拡散が促進されたためと推察される.同一のナノ粒子を観察していないため単純な比較はできないが,1,000 cycle後と5,000 cycle後でナノ粒子表面の平滑度にほとんど差はないように思われる.Eu = 1.0 Vの場合,サイクルの後期においてPt及びCuの溶解は抑制されているため,サイクル初期にある程度表面の再構成が進むと,その後の表面形態の変化は緩やかになる.

Fig. 7

IL-FE-SEM images of Pt nanoparticles: (a), (c), (e) as deposited, (b) after 50 potential cycles (100 mV·s−1, 0.05-1.0 V), (d) after 1,000 potential cycles (100 mV·s−1, 0.05-1.0 V), and (f) after 5,000 potential cycles (100 mV·s−1, 0.05-1.0 V).

Fig. 8は,Eu = 1.4 Vの電位サイクル試験前後において,Pt-75Cuナノ粒子を同一視野観察したSEM像を示している.Eu = 1.4 Vの時は,Ptナノ粒子と同様に,わずか50 cycleでナノ粒子の平滑化が進行していることがわかる.サイクルの増加とともに,平滑化は進行していき,1,000 cycle及び5,000 cycleでは,ナノ粒子に存在していた1次粒子の構造は,Ptの溶解/再析出により完全に消滅した.電位サイクルを5,000 cycle行うことで,PtとCuはそれぞれ約65%及び約54%溶解しており,これらの溶解が粒径の著しい減少につながったと考えられる(Fig. 8(f)).これらの観察されたナノ粒子の構造変化で最も特徴的な点は,ナノ粒子が多孔質構造を形成しなかったことである.通常,バルク材Pt-75CuからCuが選択溶解を続けて,表面に無数の孔(3 nm程度)を形成する28,29).一方で,Fig. 5を用いてナノ粒子から溶解するPtとCuの比率を計算するとFig. 9のようになり,初期はCuが極めて選択的に溶解しているが,その割合はやがて減少していく.最終的には,電位サイクルに伴うCuの溶解割合は20%であり,もはやCuは選択的に溶解していない.したがって,バルク材とは異なり,ナノ粒子では表面に多孔質構造を形成せずPtシェルを形成したため,Cuの選択溶解は抑制されたと推察される.

Fig. 8

IL-FE-SEM images of Pt-75Cu nanoparticles: (a), (c), (e) as deposited, (b) after 50 potential cycles (100 mV·s−1, 0.05-1.4 V), (d) after 1,000 potential cycles (100 mV·s−1, 0.05-1.4 V), and (f) after 5,000 potential cycles (100 mV·s−1, 0.05-1.4 V).

Fig. 9

Mole fraction of Cu dissolved from Pt-75Cu during potential cycling when Eu is 1.4 V.

ここで,単純化のためにFig. 10に示すような,電析直後に存在する1次粒子の構造を考慮しない,2次粒子の球体モデルを考える.なお,実際には2次粒子の形状も完全な球体ではないが,ここではほぼ球体と見なしている.浸漬試験や初期の電位サイクルで形成したPtシェル/Pt-Cuコア構造が,さらなる電位サイクルによるPtやCuの溶解によりその構造を維持しながら等方的に縮小することを考える.ナノ粒子の直径がd1からd2に減少したと仮定すると,ECSAやナノ粒子の体積(V)変化は次の式で表せる.   

\[\frac{S_{\rm Pt(Fin)}}{S_{\rm Pt(Ini)}} = {\left( \frac{d_2}{d_1} \right)}^2\](3)
  
\[\frac{V_{\rm (Fin)}}{V_{\rm (Ini)}} = {\left( \frac{d_2}{d_1} \right)}^3\](4)
(Init)及び(Fin)は,それぞれ初期及び最後を示す接尾語である.d1の値を30 nm,40 nm,50 nmとし,ECSAの変化(Fig. 4)及びPt及びCuの溶解量(Fig. 5)を用いて,5,000 cycle後のd2を算出した結果をTable 2に示す.異なる方法で算出されたd2の値はほぼ一致しており,初期と比較して直径の減少は,およそ18–24%程度であることが予想される.同一視野観察の結果(Fig. 8)から,長軸方向及び短軸方向の縮小率は平均で約25%であり,計算値ともおおよそ一致する.したがって,Pt及びCuの溶解量は,ECSAの変化やナノ粒子の粒の粒径減少と強く相関していることは明らかである.
Fig. 10

Schematic illustrations of the simplified dissolution model of Pt-Cu nanoparticles.

Table 2

Calculated diameter (d2) of Pt-75Cu nanoparticles after 5,000 potential cycles.

3.3.2 熱処理が表面形態変化に及ぼす影響

電析後のナノ粒子の複雑な構造を単純化するために,試料に熱処理を施した.熱処理条件は,試料の酸化を防ぐために,水素雰囲気下(99.99%,1.5 L min−1)において800℃で7 h保持とした.Fig. 11(a),Fig. 11(c),Fig. 11(e)は,熱処理後のPt-75Cuナノ粒子のSEM像であり,電析後に存在していた小さな1次粒子構造が消滅していることがわかる.また,熱処理に伴い,fcc構造の低指数面である{100},{110},及び{111}で構成される多面体形状に,ナノ粒子の表面再構成が進行したことがわかる.Fig. 11(b)は,600 sの浸漬試験後に観察されたPt-75Cuナノ粒子を示しており,熱処理前のナノ粒子には見られなかった無数の孔(~3 nm程度)がナノ粒子表面に形成していることがわかる.これらの孔は,Eu = 1.4 Vとする電位サイクル試験50 cycle後には依然として観察されるが(Fig. 11(d)),1,000 cycle後には粒径の減少とともに孔の数が減少する(Fig. 12(f)).これは,電位サイクルによりPtの溶解/再析出が発生し,表面エネルギーを減らすように多孔質構造が崩壊したものと考えられ,既報の結果とも一致する24).このように,熱処理の有無により,Cuの選択溶解に伴うナノ粒子の表面形態変化は,大きく異なることがわかった.

Fig. 11

IL-FE-SEM images of heat-treated Pt-75Cu nanoparticles: (a), (c), (e) as deposited, (b) after 600 s immersion, (d) after 50 potential cycles (100 mV·s−1, 0.05-1.4 V), and (f) after 1,000 potential cycles (100 mV·s−1, 0.05-1.4 V).

Fig. 12

Schematic illustrations of the dissolution mechanism and surface morphological change of Pt-Cu nanoparticles during potential cycling (Eu = 1.4 V).

Oezaslanら31)は,選択溶解により形成するPt-Cuナノ粒子構造に及ぼす粒径の影響を報告しており,約30 nmを閾値としてそれ以下の粒径では多孔質構造が形成しないことを明らかにした.粒径が小さい(< 30 nm)場合,たとえCuが選択溶解して孔を形成したとしても,Ptの表面拡散が極めて速く,ナノ粒子の表面エネルギーを減少させるように形成した孔を消滅させてしまう.同様の現象は,Pt-Co31)やAu-Ag42)ナノ粒子でも報告されている.

したがって,電析法で作製されたPt-75Cuナノ粒子の溶解挙動は,次のように考えることができる.電析直後のナノ粒子の形態は,1次粒子(< 3 nm)が凝集して2次粒子を形成している(Fig. 12(a)).これらの粒子は,600 sの浸漬試験及び電位サイクル試験の初期において,Pt-75Cuナノ粒子からCuが選択溶解する.電位サイクル試験を通して,ナノ粒子表面に孔が形成しなかったことを考慮すると,Fig. 12(b)に示すように初期の段階では,Cuの選択溶解によりそれぞれの1次粒子が独立してコア/シェル構造を形成していると考えられる.コア/シェル構造となった粒子は,さらなる電位サイクルに伴いPtの溶解/再析出が起こるため,粒子どうしが徐々に併合されていき,最終的には1次粒子構造が完全に消滅した1つのナノ粒子となる(Fig. 12(c)).一方で,熱処理後のPt-75Cuナノ粒子は,表面の再構成により微細な1次粒子の構造が消滅し,均質化した2次粒子となる(Fig. 12(d)).したがって,600 sの浸漬試験及び電位サイクル試験の初期において,Pt-75Cuナノ粒子からCuが選択溶解した時,粒径が大きなナノ粒子としてふるまい,Fig. 12(e)に示すような無数の孔をナノ粒子表面に形成する.これらの孔は,さらなる電位サイクルによるPtの溶解/再析出に伴い多孔質構造が崩壊して(Fig. 12(f)),最終的には熱処理前の粒子と似たような表面形態に変化していくと推察される.

4. 結言

SEMによる同一視野観察とICP-MSによる溶解量分析を併用して,Pt-75Cuナノ粒子の溶解挙動を検討し,以下の知見を得た.

(1) 600秒間の浸漬試験及び初期の電位サイクルによりCuが選択溶解するため,Pt-75Cuナノ粒子の表面にはPtシェルが形成する.Eu = 1.0 Vの電位サイクル試験では,このPtシェルによりCuのさらなる選択溶解はサイクル後期においても強く抑制される.一方,Eu = 1.4 Vの電位サイクル試験では,Ptシェルが溶解してしまうため,電位サイクルに伴うCuの溶解は抑制されない.

(2) 電位サイクルに伴うナノ粒子の表面形態変化は,Euの値により大きく異なる.Eu = 1.0 Vの場合,電位サイクルに伴うPtの溶解はほとんど起こらず,Ptの表面拡散によりナノ粒子表面はわずかに平滑化が進行する.一方,Eu = 1.4 Vの場合,Ptの溶解/再析出に伴い,ナノ粒子の粒径減少と表面の平滑が著しく進行する.また,観察された粒径の減少は,ECSAの変化やICP-MSで測定されたPt及びCu溶解量とよく対応する.

(3) 熱処理の有無により,電位サイクル試験中のナノ粒子の表形態変化に大きな違いが現れた.熱処理がない場合,1次粒子(< 3 nm)が個々にコア/シェル構造を形成し,それらが最終的に併合していくため表面に孔を形成しなかった.一方で熱処理を施した場合,均質化された2次粒子(30–50 nm)として溶解が進行し,ナノ粒子の表面に無数の孔を形成した.

本研究は,JSPS科研費JP17H06677の助成を受けたものです.また,SEMによるナノ粒子の同一視野観察は,東京工業大学 技術部大岡山分析部門のご協力のもと,実施されました.関係者各位に厚く御礼申し上げます.

文献
 
© 2020 The Japan Institute of Metals and Materials
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