Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
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Effect of Rolling Temperature on Room Temperature Formability and Texture Formation of Mg-3 mass%Al-1 mass%Sn Alloy Sheet
Hitoshi FukuokaXinsheng HuangKazutaka SuzukiYuhki TsukadaToshiyuki KoyamaYasumasa Chino
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2021 Volume 85 Issue 3 Pages 120-127

Details
Abstract

Effect of rolling temperature on room temperature formability and texture formation of Mg-3 mass%Al-1 mass%Sn (AT31) alloy sheet was investigated, and compared with the results of Mg-3 mass%Al-1 mass%Zn (AZ31) alloy sheet. When the rolling temperature was set to a high temperature (798 K), AT31 alloy showed almost the same basal texture intensity as AZ31 alloy rolled at the same condition. When the rolling temperature was set to a low temperature (723 K), AT31 alloy showed lower basal texture intensity than AZ31 alloy rolled at the same condition. As a result of Erichsen test, when the rolling temperature was set to 798 K, AT31 alloy exhibited excellent Erichsen value more than 8.8 mm, which corresponded to AZ31 alloy rolled at the same condition. On the other hand, when the rolling temperature was set to 723 K, AT31 alloy exhibited higher Erichsen value (6.7 mm) than that of AZ31 alloy (4.5 mm). The variations in Erichsen values with differences in alloy composition and rolling temperature were closely related to the variations in basal texture intensity. Recrystallization behavior of AT31 alloy during the initial stage of the final annealing was investigated. It is found that recrystallization mainly occurred at grain boundaries, and grains with more random orientation were recrystallized, when the rolling temperature was set to 798 K. Mechanisms of recrystallization and random texture formation were almost the same with those of AZ31 alloy. The reason why AT31 alloy rolled at 723 K exhibited more random texture than AZ31 rolled at the same condition is that grains with more random orientation were recrystallized at grain boundaries during the final annealing.

1. 緒言

マグネシウム合金は実用金属の中で最も低密度であり,優れた比強度・比剛性特性を示し,資源も豊富に存在することから,軽量部材を作製するための有効な構造材料として注目されている.特に,軽量大型部材をプレス成形により作製するために必要であるマグネシウム合金圧延材は,鋳造材と比較して優れた比強度を有するため,その本格的な実用化が期待されている.

一方,マグネシウム合金はアルミニウム合金などの実用金属材料と比較して室温成形性が低いことが問題となっている.マグネシウム合金板材の室温成形性が低い理由は,HCP構造に起因して底面<a>すべりとその他のすべり系の活動し易さに大きな差が存在することや1,圧延加工を行うと底面が圧延面に対して平行に配列する底面集合組織が形成されること2に起因する.

近年,底面集合組織の形成を抑制してマグネシウム合金圧延材の室温成形性を改善するための研究開発が,合金設計およびプロセス制御の観点から盛んに行われている.合金設計の観点からは,Mg-Zn系合金に特定の元素(希土類元素(Ce,Y,Gdなど)やカルシウム(Ca))を微量(0.1-0.3 mass%程度)に添加すると,底面が板幅(TD)方向に30°以上傾く集合組織が形成され,室温成形性が大きく改善されることが報告されている3-18.また,Mg-Al-Sn系合金19やMg-Ag-Ca系合金20など,他の合金系においても,優れた成形性が報告されている.プロセス制御に関しては,熱履歴や加工方法を制御する手法が検討されており,圧延後の試料に連続曲げ加工を付与する手法21-23や,固相線近傍の温度で圧延を実施する手法24-27などが提案されている.

本研究では,優れた成形性が報告されているMg-Al-Sn(AT)系合金に注目する.AT系合金は,汎用のプロセス(双ロール鋳造と温間圧延の組み合わせ)により作製したAT31(Mg-3 mass%Al-1 mass%Sn)合金圧延材が優れた室温成形性を示すことが報告されており19,プロセス手法を制御することにより,さらに優れた成形性が発現することが予見される.ここでは,AT31合金を対象として,汎用合金の集合組織を制御する手法の1つである,固相線近傍での圧延(高温圧延)24-27を適用し,その際の微細組織,機械的特性,室温成形性を調査するとともに,Mg-Al-Zn系合金(AZ31合金)の特性24-27との比較を行った結果を報告する.

2. 実験方法

本実験で用いたAT31合金の組成分析結果をTable 1に示す.予め均質化処理(693 K, 48 h)を行った押出材を出発材とした.圧延に際しては,直径160 mm,幅240 mmのロールを有する2段圧延機を利用した.長さ70 mm,幅50 mm,厚み5 mmに切断した押出材をマッフル炉に投入し,試料温度が723 Kに加熱された状態で圧下率約20%の圧延を6回行った.圧延時のロール温度は363 Kとした.押出材に対して最初の2回の圧延は押出方向に対して垂直に行い,以降の圧延は押出方向に対して平行に行った.最後に,試料の加熱温度を723 K,748 K,773 K,798 Kと変化させて圧下率約20%の圧延を行い,厚み1.0 mmの板材を作製した.最終圧延時のロール温度は363 Kとした.圧延後に623 K(1.5 h)の最終焼鈍を行った.

Table 1 Chemical composition of the AT31 alloy used in the experiment.

圧延材の室温成形性を評価するために室温エリクセン試験を行った.ブランク直径は60 mm,パンチ直径は20 mm,ストローク速度は5 mm/min,しわ押さえ力は10 kNとした.潤滑材としてグラファイトグリスを利用した.試験回数は1回である.板材の機械的特性を室温引張試験により評価した.初期歪み速度は2.8 × 10−3 s−1,平行部寸法は1.0 × 4.0 × 12.0 mm3,標点間距離は10 mmとした.圧延方向に対する引張方向の角度は0°,45°,90°とした.試験回数は1回である.また,同寸法の試験片に9%の塑性歪みを与えr値を算出した.n値は引張試験で得られた応力歪み曲線を用いて算出した.

圧延材(RD-ND面)の組織を光学顕微鏡により観察するとともに,電子線マイクロアナライザー(EPMA)およびX線回折装置(XRD)により第2相粒子の同定を行った.圧延材の結晶粒径の測定は,光学顕微鏡観察の結果を用いて切片法により実施した.また,圧延材(RD-TD面)の中央部の(0002)面(底面)集合組織をShultzの反射法によりXRDを用いて測定した.さらに,電子線後方散乱回折法(EBSD)により微視的集合組織を測定した.

上記試料の特性を評価するに当たっては,著者らが以前実施したAZ31合金高温圧延材の測定データ24-27との比較を行い,AT31合金とAZ31合金の集合組織形成,室温成形性,微細組織,機械的特性の差異を抽出することにより,AT31合金の特性を評価した.

3. 実験結果および考察

3.1 圧延材の組織および集合組織

723 Kで最終圧延を行い,焼鈍を行ったAT31合金(以後,723 K圧延材と呼ぶ)の組織をFig. 1(a)に示す.また,AT31合金とAZ31合金の最終圧延温度と,焼鈍後の平均結晶粒径の関係をFig. 1(b)に示す.測定面はRD-ND面である.AT31合金の723 K圧延材の結晶粒径は約10 µmであった.最終圧延温度の上昇に伴う結晶粒の粗大化は確認できず,798 K圧延材もほぼ同じ結晶粒径を示した.AT31合金とAZ31合金の平均結晶粒径は圧延温度に依存せず,ほぼ同じ結晶粒径を示した.

Fig. 1

(a) Optical micrograph of AT31 alloy finally rolled at 723 K and (b) relationship between grain size and final rolling temperature of rolled AT31 and AZ31 alloys24).

AT31合金中の第2相粒子の組成および分布をEPMAおよびXRDにより測定した結果をFig. 2に示す.Fig. 2(a)は723 K圧延材の組成マッピングの結果であり,Fig. 2(b)はそのXRDによる定性分析結果である.組成マッピングの結果に注目すると,母相中にはAlおよびMn系の第2相粒子が検出され,そのサイズは約2 µmであった.また,Al-Mn系化合物とほぼ同サイズのSn系の第2相粒子も検出された.X線回折パターンと照合すると,これらの第2相粒子の組成はそれぞれ,Al8Mn5とMg2Snと同定された.上述の組成は,Mg-Al-Sn系合金鋳造材で検出されている晶出物の種類と同じであった28,29.なお,晶出物の種類および分布は798 K圧延材においてもほぼ同じであった.

Fig. 2

(a) Results of EPMA element mapping and (b) X-ray diffraction pattern of AT31 alloy, where the final rolling temperature is set to 723 K.

次に,AT31合金の723 K圧延材および798 K圧延材の底面集合組織をFig. 3(a)に示す.また,AT31合金とAZ31合金の底面集合組織強度と最終圧延温度の関係をFig. 3(b)に示す.Fig. 3(a)に注目すると,AT31合金の798 K圧延材は723 K圧延材と比較して,弱い集合組織強度を示し,圧延温度の増加に伴い,底面集合組織の配向がランダム化することが確認された.723 K圧延材,798 K圧延材ともにRD方向にスプリットした極を示すが,圧延温度の増加とともに,極の傾斜が増加する傾向が確認され,AZ31合金と同様の傾向24が確認された.

Fig. 3

(a) (0002) pole figures of rolled AT31 alloys finally rolled at 723 K and 798 K and (b) relationship between basal texture intensity and final rolling temperature of rolled AT31 and AZ31 alloys24).

Fig. 3(b)の結果に注目すると,798 K圧延材においては,両合金はほぼ同じ底面集合組織強度(AT31合金:2.7,AZ31合金:2.8)を示した.一方,最終圧延温度が低下するにつれて,両合金の底面集合組織強度は上昇するものの,AZ31合金の底面集合組織強度の増加率に対して,AT31合金のその増加率は小さく,723 K圧延材の底面集合組織強度はそれぞれ,AT31合金は3.8,AZ31合金は5.4であった.このように,比較的低温で圧延を行った時に,AT31合金の方が相対的にランダムな底面集合組織を示すことが明らかとなった.

3.2 圧延材の室温成形性および機械的特性

AT31合金およびAZ31合金の室温エリクセン値と最終圧延温度の関係をFig. 4(a)に,AT31合金の代表的な室温エリクセン試験の結果をFig. 4(b)に示す.最終圧延温度が798 Kの時,両合金ともほぼ同値の高い室温エリクセン値(AT31合金:8.8 mm,AZ31合金:8.6 mm)を示した.一方,最終圧延温度が低下するとともに,両合金の室温エリクセン値は低下したが,AZ31合金の室温エリクセン値の減少率に対して,AT31合金のその減少率は少なく,最終圧延温度が723 Kの時の両合金の室温エリクセン値はそれぞれ,AT31合金は6.7 mm,AZ31合金は4.5 mmであった.以上の結果より,比較的低温で圧延を行ったAT31合金はAZ31合金よりも相対的に高い室温成形性を示すことが明らかとなった.

Fig. 4

(a) Relationship between Erichsen value and final rolling temperature of rolled AT31 and AZ31 alloys24) and (b) images of the results of Erichsen tests of AT31 alloys finally rolled at 723 K and 798 K.

Suhら19は573 Kで圧延加工を行ったAT31合金とAZ31合金の室温成形性を比較し,AT31合金が優れた室温成形性を示すことを紹介しているが,本研究における723 K圧延材の結果は,Suhら19の結果と定性的に同じ結果となった.一方,今回の実験では,高温(798 K)で圧延を実施した場合に関しては,AZ系合金と比較して,AT系合金の優位性は現れないことが新たに明らかとなった.

なお,両合金の室温エリクセン値の圧延温度依存性は,Fig. 3に示した底面集合組織強度の圧延温度依存性に対応している.ゆえに,最終圧延温度723 Kにおいて,AT31合金がAZ31合金と比較して優れた室温成形性を示した理由としては,底面集合組織の配向が相対的にランダムであったことを挙げることができる.

次に,AT31合金とAZ31合金の室温引張試験で得られる機械的特性と,Lankford値(r値)と加工硬化係数(n値)の測定結果をTable 2Table 3にそれぞれ示す.ここでは,最終圧延温度723 Kと798 Kの結果を示す.機械的特性の測定結果に注目すると,引張強度および降伏応力はAT31合金およびAZ31合金ともに最終圧延温度が723 Kから798 Kに増加するに伴い引張強度および降伏応力は低下した.また,いずれの圧延材の降伏応力も0°方向と比較して90°方向の方が高い値を示した.上記の引張強度および降伏応力の強弱は,いずれも底面集合組織の強弱および分布により説明することができる.

Table 2 Tensile properties of AT31 and AZ31 alloy sheets finally rolled at 723 K and 798 K, where the tensile directions are 0°, 45° and 90° to the rolling direction24).
Table 3 R-values and n-values of AT31 and AZ31 alloy sheets finally rolled at 723 K and 798 K, where the tensile directions are 0°, 45° and 90° to the rolling direction24).

一方,AT31合金とAZ31合金の降伏応力および強度の値を比較すると,底面集合組織強度がほぼ同じ値である798 Kにおいても,AZ31合金の方がAT31合金よりも高い強度を示した.Luoら30はAZ31合金とAM30(Mg-3 mass%Al-0.4 mass%Mn)合金押出材の強度を比較し,AZ31合金が高い強度を示す理由として,Zn添加に伴う固溶強化を挙げている.2元系の平衡状態図によると,室温におけるZnの固溶限は2 mass%程度であるに対し31,Snの固溶限はほぼ0%である32.ゆえに,今回の実験結果においても,Znの方が高い固溶強化能により,AZ31合金の方が高い強度を示したと考えることができる.

破断伸びに関しては,合金種および最終圧延温度に伴う大きな差異は確認されなかった.n値およびr値の結果に関しては,723 K圧延材において,AT31合金の方が相対的に高いn値と低いr値を示しており,底面集合組織の強度に連動して値が変化することが確認された.

3.3 圧延材の組織形成メカニズム

AT31合金の組織形成メカニズムを評価するために,最終圧延温度723 Kおよび798 KのAT31合金の圧延まま材(F材)および最終焼鈍初期段階の試料に対してEBSD測定を行った.その際,最終圧延温度723 KのAT31合金に対しては523 K(2 s)の焼鈍を行い,最終圧延温度798 KのAT31合金に対しては523 K(180 s)の焼鈍を行った.焼鈍に際しては,電気炉内に所定の温度に加熱した鉄プレートを設置し,それに所定時間設置した後に空冷を行った.焼鈍前後で同一の箇所に対してEBSD測定を行い,再結晶粒の形成挙動を調査した.798 K圧延材の方が焼鈍時間が長い理由としては,高温で圧延を行ったため,相対的に内部に蓄積された歪みが少ないことが挙げられる.

Fig. 5(a), Fig. 5(b)はAT31合金の最終焼鈍前の723 K圧延材(F材)および798 K圧延材(F材)に対してEBSD測定を行った結果である.双晶の生成割合33に注目すると,723 K圧延材(F材)関しては,双晶の割合は引張双晶が1.6%,圧縮双晶が1.5%,二重双晶が7.4%であり,798 K圧延材(F材)に関しては,双晶の割合は引張双晶が1.0%,圧縮双晶が0.9%,二重双晶が5.5%であった.両試料の双晶の生成頻度に大きな差はなく,いずれの温度においても二重双晶が最も多く観察された.平均結晶粒径は,723 K圧延材(F材)が26.8 µmであり,798 K圧延材(F材)が31.0 µmであった.いずれもFig. 1と比較して粗大な結晶粒径を示した.また,底面集合組織の強度は,723 K圧延材(F材)が9.4であり,798 K圧延材(F材)が10.4であり,最終焼鈍を経た試料よりも著しく高い強度を示した.

Fig. 5

(a) Inverse pole figure map and (0002) pole figure of AT31 alloy rolled at the 723 K without final annealing and (b) inverse pole figure map and (0002) pole figure of AT31 alloy rolled at the 798 K without final annealing, where the EBSD analysis was carried out at the central region of the RD-ND plane. Orientation rotation was carried out for corresponding to the distribution of (0002) pole figure.

Fig. 6(a)はAT31合金の723 K圧延材(F材)に対して,523 Kで2 s熱処理を実施した試料のEBSD測定結果であり,Fig. 6(b)は798 K圧延材(F材)に対して,523 Kで180 s熱処理を実施した試料のEBSD測定結果である.測定箇所はFig. 5(a), Fig. 5(b)と同じである.双晶の割合は,723 K圧延材に関しては,引張双晶が1.3%,圧縮双晶が0.8%,二重双晶が4.3%であり,798 K圧延材に関しては,引張双晶が0.7%,圧縮双晶が0.9%,二重双晶が5.0%であった.723 K圧延材と798 K圧延材の二重双晶の減少率はそれぞれ42%と9%であり,723 K圧延材の方が高い減少率を示した.

Fig. 6

(a) Inverse pole figure map and (0002) pole figure of AT31 alloy rolled at the 723 K and annealed at 523 K (2 s) and (b) inverse pole figure map and (0002) pole figure of AT31 alloy rolled at the 798 K and annealed at 523 K (180 s), where the EBSD analysis was carried out at the central region of the RD-ND plane. Orientation rotation was carried out for corresponding to the distribution of (0002) pole figure.

双晶を起点とした再結晶粒の生成が底面集合組織の形成を抑制する指摘は,Mg-Zn-Ca合金において多くの報告があり,著者ら34はMg-Zn-Ca合金の圧延まま材の粒界に微細な双晶が多く分布することを透過型電子顕微鏡観察により明らかにしている.また,Leeら10は二重双晶を起点とする再結晶粒がMg-Zn-Ca合金などに発現するTD-split textureの起源となることを指摘している.Fig. 6の結果に再度注目すると,集合組織がランダム化した798 K圧延材において,最終焼鈍に伴う二重双晶の減少は殆ど確認できない.ゆえに,AT31合金に関しては,双晶を起点とした再結晶粒の生成は集合組織強度の弱化に寄与しないと考えることができる.

次にFig. 6の結晶粒径と底面集合組織強度に注目すると,723 K圧延材に関しては,その結晶粒径は20.8 µmであり,底面集合組織強度は9.3であった.結晶粒径はFig. 5に示すF材と比較して明らかに減少しており,再結晶粒の生成が確認された.集合組織に関しては,わずかに底面集合組織強度は弱化するものの,依然として強い底面集合組織を示していた.798 K圧延材に関しては,その結晶粒径は25.6 µmであり,底面集合組織強度は9.6であった.結晶粒径は723 K圧延材と同様に,再結晶粒が生成していることが確認された.底面集合組織に関しては,最終焼鈍に伴い,集合組織強度は明らかに弱化しており,最終焼鈍に伴う再結晶粒の生成が,集合組織強度の弱化に寄与していることが示唆された.

ここで,最終焼鈍に伴う再結晶粒の生成が,798 K圧延材の集合組織強度の弱化に寄与しているかを確認するために,Fig. 6の結果を用いて再結晶粒の抽出を行った.その結果をFig. 7に示す.再結晶粒の抽出に際しては,結晶方位の確からしさを示すCI(Confidence Index)は0.1以上,結晶粒内の平均方位差を示すGOS(Grain Orientation Spread)は0.6°以下を条件とした.Fig. 7より,723 K圧延材の再結晶粒の割合は11.5%,798 K圧延材の再結晶粒の割合は16.3%であった.再結晶粒の結晶方位から算出される底面集合組織に注目すると,723 K圧延材の底面集合組織強度は7.8であり,798 K圧延材の底面集合組織強度は4.8であり,798 K圧延材の方が明らかにランダムな方位を有することが確認され,再結晶粒の生成が798 K圧延材の集合組織のランダム化に寄与していることが明らかとなった.

Fig. 7

(a) Inverse pole figure map and (0002) pole figure of recrystallized grains of AT31 alloy rolled at the 723 K and annealed at 523 K (2 s) and (b) inverse pole figure map and (0002) pole figure of recrystallized grains of AT31 alloy rolled at the 798 K and annealed at 523 K (180 s), where the EBSD analysis was carried out at the central region of the RD-ND plane. Orientation rotation was carried out for corresponding to the distribution of (0002) pole figure.

次に,上記の測定結果を踏まえて,同一場所での再結晶粒発生挙動を調査し,AT31合金の再結晶サイトを具体的に推定した.そこでは,考えられる再結晶サイトを以下の通り(サイト①-④)に分類した.

  • サイト①:双晶内部で生成した再結晶粒
  • サイト②:双晶と母相の粒界で生成した再結晶粒
  • サイト③:近傍に双晶が存在しない結晶粒界で生成した再結晶粒
  • サイト④:サイト①-③のいずれにも該当しない,もしくは判別が困難な再結晶粒

また,その分類例をFig. 8に示す.

Fig. 8

(a) Inverse pole figure map of AT31 alloy rolled at 723 K without final annealing, (b) inverse pole figure map of AT31 alloy rolled at 723 K and annealed at 523 K (2 s), (c) inverse pole figure map of AT31 alloy rolled at 798 K without final annealing and (d) inverse pole figure map of AT31 alloy rolled at 798 K and annealed at 523 K (180 s), where category of recrystallization sites are summarized; ① recrystallized grain generated in the twin, ② recrystallized grain generated in the grain boundary between twins and the parent phase and ③ recrystallized grain generated in the grain boundary around where twins are not observed.

Fig. 9は,723 K圧延材および798 K圧延材の再結晶サイトを分類した結果である.Fig. 9より,723 K圧延材および798 K圧延材ともに,サイト③が再結晶サイトとして支配的であることが確認され,Fig. 5およびFig. 6で検出された(二重)双晶は主要な再結晶サイトではないことが確認された.なお,798 K圧延材は723 K圧延材と比較して粒界からより多くの再結晶粒が生成していた.このことより,798 K付近で圧延を行った場合,粒界においてランダムな方位を有する再結晶粒が多く生成し,集合組織強度の弱化に寄与することが示唆された.

Fig. 9

Fraction for category of recrystallization sites of AT31 alloy rolled at (a) 723 K and (b) 798 K.

著者ら25は,先行研究において,高温圧延に供したAZ31合金の集合組織弱化メカニズムを調査するために,Fig. 5-Fig. 9と同様に最終焼鈍時の再結晶挙動を調査している.その結果,最終焼鈍時に生成する再結晶粒の多くは粒界より生成しており,723 K圧延材に関しては,母相とほぼ同じ方位の再結晶粒が生成するのに対し,798 K圧延材に関しては,母相とは方位の異なるランダムな方位を有する再結晶粒が生成することを報告している.以上のことから,AT31合金の集合組織形成メカニズムは,先行研究で明らかにしているAZ31合金の集合組織形成メカニズムと,ほぼ同じであることがわかった.

なお,Fig. 3の結果を振り返ると,AT31合金の底面集合組織強度は,低い圧延温度(723 K)において,AZ31合金と比較して低い底面集合組織強度を示した.ここで,最終焼鈍に伴う再結晶粒の生成が,AT31合金とAZ31合金の723 K圧延材の集合組織強度の弱化に寄与しているかを確認するために,AT31合金とAZ31合金723 K圧延材の焼鈍初期(523 K(2 s))に生成する再結晶粒を抽出した際の集合組織強度に注目する.AZ31合金に関しては,前報25において,上記と同じ条件で再結晶粒の集合組織強度を抽出しており,その強度は8.3であった.一方,AT31合金の再結晶粒を抽出した際の集合組織強度はFig. 7(a)に示す通り,7.8であった.上記の結果は,723 K圧延材において,AT31合金がAZ31合金よりもランダムな集合組織を示した理由が,最終焼鈍時に相対的にランダムな再結晶粒がAT31合金において生成したことに起因することを示唆している.

Suhら19はAT31合金圧延材の室温引張り試験中の転位の活動を粒内方位回転軸(IGMA)解析により評価し,AZ31合金と比較して柱面<a>すべりの活動が活発化することを指摘している.また,VPSC(ViscoPlastic Self-Consistent)シミュレーションによって推測されるAT31合金の柱面<a>すべりの臨界分解せん断応力(CRSS)が,AZ31合金のそれよりも約30%低いことを報告している.このことは,Mg-Al合金へのSnの添加は,柱面<a>すべりのCRSSを低下させる効果があることを示唆している.

特定元素の微量添加に伴う柱面<a>すべりの活発化は,マグネシウムに希土類元素を添加した際にも報告されており35,36,底面<a>すべりの活動が柱面<a>すべりに拡張することによるものであることが報告されている.近年,Chaudryら37は,AZ31にカルシウムを添加した合金のCRSSをVPSCシミュレーションにより計算を行い,柱面<a>すべりのCRSSがカルシウムを添加することにより,約15%低下することを報告している.上記の結果は,Mg-Al系合金へのSnやCaの添加は柱面<a>すべりの活動を活発化させることに有効であることを示唆している.

以上のことより,AT31合金723 K圧延材においてAZ31合金723 K圧延材よりもランダムな再結晶粒が生成した理由としては,圧延温度近傍(723 K)においても,Snの添加に伴い柱面<a>すべりの活動が活発化し,再結晶挙動に有意の影響を及ぼしたことを挙げることができる.上記事項を明らかにするためには,柱面<a>すべりの活動の温度依存性を実験もしくは数値シミュレーションにより,さらに詳細に明らかにする必要がある.

4. 結言

AT31合金圧延材の室温成形性および集合組織形成に及ぼす圧延温度の影響を調査し,AZ31合金圧延材の結果と比較することにより,以下の知見を得た.

(1) 圧延温度を高温(798 K)に設定した場合,AT31合金は同条件で圧延を行ったAZ31合金とほぼ同じ底面集合組織強度を示した.一方,圧延温度を比較的低温(723 K)に設定した場合,AT31合金の方が同条件で圧延を行ったAZ31合金よりも低い底面集合組織強度を示した.

(2) AT31合金の室温成形性をエリクセン試験により調査した結果,圧延温度を高温(798 K)に設定した場合,優れた室温成形性(エリクセン値8.8 mm)を示し,AZ31合金(エリクセン値8.6 mm)とほぼ同じ値を示した.一方,圧延温度を比較的低温(723 K)に設定した場合,AT31合金(エリクセン値6.7 mm)の方がAZ31合金(エリクセン値4.5 mm)よりも優れた室温成形性を示した.AT31合金とAZ31合金の室温成形性の圧延温度依存性は,主に集合組織の強度・分布に連動していた.

(3) AT31合金の最終焼鈍初期段階の再結晶挙動を調査した結果,ランダムな方位を持つ再結晶粒が粒界から多く生成することが確認された.また,圧延温度を高温(798 K)に設定した方がよりランダムな再結晶粒の生成が確認された.上記の再結晶メカニズムおよび集合組織形成メカニズムはAZ31合金とほぼ同じであった.

(4) 723 Kで圧延を行ったAT31合金が同条件で圧延を行ったAZ31合金よりもランダムな集合組織を示した理由としては,最終焼鈍時に粒界から生成する再結晶粒が相対的にランダムな結晶方位を有することが挙げられた.

文献
 
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