日本金属学会誌
Online ISSN : 1880-6880
Print ISSN : 0021-4876
ISSN-L : 0021-4876
特集「貴金属のリサイクル関連技術の最前線II」
JX金属㈱における貴金属・レアメタルのリサイクル
佐々木 康勝大塚 教正
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2021 年 85 巻 8 号 p. 274-278

詳細
Abstract

JX Nippon Mining & Metals Corporation conducts global business operations in the area of nonferrous metals, focusing primarily on copper and rare metals. These operations cover the entire range from resource development, smelting and refining, to the development and manufacture of advanced materials that are essential for the use of AI and IoT technologies in the society. The Group’s operations also include the recycling of end-of-life electronic equipment and other devices.

The recycling business recovers copper, precious metals and other valuable metals from end-of-life home appliances and electronic equipment, as well as from recycled materials such as metal scrap generated by factories. The environmental services business cooperates with our group companies to detoxify industrial waste and to recover valuable metals. The fundamental principle of both businesses is zero emissions, that is, the principle of not generating any secondary wastes. These businesses are contributing to the creation of a global resource-recycling society so that the environmental burden will not be left to future generations.

1. はじめに

交通や移動を変革させるスマートモビリティ社会の実現,デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital transformation)の推進には,AI・IoT(AI:Artificial Intelligence「人工知能」,IoT:Internet of Things「モノのインターネット」)の活用が不可欠であり,増大するデータを処理するために電子デバイスに使われる銅やレアメタル製品の高品質化,高機能化が強く求められている.また,資源や素材を有効利用するため,生産効率の向上やリサイクルを促進する資源循環型社会の構築,および脱炭素社会に向けた地球環境保全への取り組みを一段と進める必要がある.JX金属㈱は,高付加価値な製品・技術を提供する「技術立脚型企業」として,国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)の実現に貢献することを基本方針としている.

JX金属㈱では,非鉄金属の製錬事業で長年培ってきた製錬・精製技術を活かし,リサイクル原料からの貴金属・レアメタルの回収・精製を行っている.本稿では,銅製錬・鉛製錬工程活用によるリサイクル原料からの貴金属・レアメタルの回収プロセスについて紹介する.

JX金属㈱は資源の開発・製錬から,先端素材の製造・開発,さらには使用済み電気・電子機器からのリサイクルまで,Fig. 1に示すように銅やレアメタルを中心とした非鉄金属に関する上流-中流-下流までの事業分野による強固なサプライチェーンを構築し,一貫した事業展開をグローバルに行っている.

Fig. 1

Business Areas of the JX Nippon Mining & Metals. This figure is reconstructed with permission from JX Nippon Mining & Metals Corporation.

上記のうち広義の「リサイクル」にあたる事業として,JX金属グループでは環境リサイクル事業を展開している.そのうちリサイクル事業では,使用済み電気・電子機器,また工場などから排出されるリサイクル原料から銅・貴金属・レアメタルなどの有価金属を回収している.環境事業では,JX金属グループ内の各社において産業廃棄物を無害化処理して有価金属を回収している.ともに2次廃棄物を出さない「ゼロエミッション」を事業の基本として,将来世代に環境負荷を残すことのないよう,グローバルな資源循環型社会の構築に貢献している.

2. 環境リサイクル事業ネットワーク

JX金属グループでは,世界トップクラスの銅製錬所であるJX金属製錬㈱佐賀関製錬所とJX金属㈱日立事業所HMC製造部(Hitachi Metal recycling Complex)およびグループ会社5社が連携して,使用済み電気・電子機器などのリサイクル原料を年間約20万トン処理し,銅・貴金属・レアメタルを効率的に回収している.

Fig. 21にJX金属グループの環境リサイクル事業ネットワークを示す.国内外から集荷されたリサイクル原料は,原料の形状や性状に応じて各処理拠点で焼却・破砕・溶融などの前処理を行った後,佐賀関製錬所に送られ,銅製錬工程で銅の製品化と貴金属およびレアメタルの濃縮・回収を行っている.濃縮された貴金属やレアメタルは,佐賀関製錬所やHMC製造部で精製され,素材として再循環されている.

Fig. 2

Operation sites of Recycling and Environmental services business. (Green letters: Group companies) This figure is reproduced in part from Ref. 1) with permission from JX Nippon Mining & Metals Corporation.

また海外では,台湾にリサイクル原料の集荷基地を設けるとともに,米国・欧州にも営業拠点を設置した.このように世界規模のリサイクル原料集荷体制を整えることにより,グロ―バルネットワークの拡充を目指している2-5

3. E-scrapの増処理の課題と対応

さまざまな使用済み電気・電子機器を総称して,E-waste(Electronic waste)あるいはWEEE(Waste Electrical and Electronic Equipment)と呼ぶ.特に,テレビやパソコン,携帯電話などの廃家電・廃電子機器には,希少性が高い有用な金属が天然の鉱山に比べて多く含まれており,環境負荷が小さく高効率に金属を回収することが可能である.一次鉱物資源が乏しい日本において,このような二次資源からのリサイクルは,資源循環型社会の構築という観点からも重要である.E-wasteを解体,破砕,選別して得られる基板類を主としたE-scrap(Electronic scrap)を原料として,貴金属やレアメタルの回収が行われている.リサイクルを目的に収集されるE-scrapは,廃OA・IT機器などの電子機器を由来とする高品位品,家電製品由来の低品位品,銅線屑を主体とする廃ICW(Insulated Copper Wire)などに分類され,E-wasteの由来,回収事業者の解体・選別・破砕方法などの違いによってさまざまな形態,物性のものがある.

佐賀関製錬所では,天然の銅鉱山から採掘される銅精鉱とE-scrapを含むリサイクル原料を処理しており,近年,特にリサイクル原料の比率が高まっている.Fig. 3に示すように,JX金属グループにおける銅・貴金属生産量に占めるリサイクル原料の比率は,銅および金は約2割,白金およびパラジウムはほぼ全量である.リサイクル原料は,銅精鉱と比較して貴金属やレアメタル含有率が高い一方で,アルミニウム・ニッケル・鉛・プラスチック中の難燃剤成分であるアンチモンなど銅製錬操業に悪影響を与える成分(製錬阻害物質)が多く含まれることから,プロセスに大きな負荷を与えないために最適化する取り組みが必要となっている.

Fig. 3

Percentage of Copper and Precious metals production from Mined ore and Recycled materials. (fiscal 2018 actual figure in JX-NMM Group) This figure is reconstructed with permission from JX Nippon Mining & Metals Corporation.

Fig. 4にリサイクル原料処理の流れを示す.リサイクル原料は受け入れ後,サンプリングを行い,分析後,顧客にその結果を報告する.サンプリング後の原料は,焼却前処理を行い,銅製錬所に搬送して銅製錬工程で処理をする.

Fig. 4

Pretreatment process of Recycled materials for copper smelting. This figure is reconstructed with permission from JX Nippon Mining & Metals Corporation.

リサイクル原料の処理において,原料を精度よく分析評価する技術は欠かすことはできない.従来は,製錬所の銅精鉱などの分析設備と設備・工程を共用していたが,受け入れ拠点である日立(2015年稼働)と,佐賀関(2018年稼働)に原料受け入れ能力増強と分析期間の短縮を目的に,リサイクル原料専用分析棟を設置した.棟内に視察者用通路を設け,リサイクル原料の各分析工程を可視化することで国内外のリサイクル原料回収業者からの信頼を確保している.

リサイクル原料には,基板樹脂や筐体プラスチックなどの可燃物が多く含まれている.これらをそのまま銅製錬工程にて処理すると,可燃物の急激な燃焼によって排ガス量が増大し,操業が不安定となる.また,局所過熱による設備劣化の加速,燃焼排ガス中の塩化水素などハロゲンガスによる設備の腐食や硫酸触媒の劣化,さらに未分解炭化水素による製品硫酸の着色異常などの問題が生じる.このため,前処理としてロータリーキルン炉などを用いてリサイクル原料を焼却して可燃物を除去し,銅製錬工程での悪影響を防止している.

近年リサイクル原料中の貴金属品位は低下傾向にあり,受け入れ量の増加で回収金属量を補う反面,焼却前処理の負荷が増大している.また,製錬阻害成分の増加によるリサイクル原料の処理量を制限せざるを得ない状況が頻発することとなった.既存の焼却前処理能力や銅製錬処理能力を有効に活用するために,リサイクル原料中の製錬阻害物質を除去することが極めて重要な課題であり,AI・IoT技術を活用したピッキングロボットなどを組み合わせた物理選別工程をHMC製造部に導入し,2019年に操業を開始した.

4. 銅製錬を活用した銅・貴金属・レアメタルの回収

Fig. 5に銅製錬プロセスを活用したリサイクル原料の処理フローを示す.前処理したリサイクル原料を銅製錬工程において自溶炉もしくはPS転炉に投入して,銅・貴金属・レアメタルを回収する.銅製錬原料である銅精鉱は,銅鉱石を選鉱して銅品位を25%程度に濃縮したものである.銅精鉱は銅と鉄の硫化物であり,銅製錬工程で鉄と硫黄を酸化して銅と分離する.このときに発生する大量の反応熱を利用してリサイクル原料を溶解する.また,銅をコレクター(吸収金属)として利用することで貴金属を効率よく回収することができる.

Fig. 5

Smelting and Refining process in JX-NMM. This figure is reconstructed with permission from JX Nippon Mining & Metals Corporation.

貴金属を吸収した粗銅はアノードに鋳造し,銅電解精製工程で電気分解し,電気銅として製品化する.その過程で得られる貴金属類の濃縮した銅電解殿物を貴金属回収プロセスにおいて精製し,金・銀・白金・パラジウムなどの貴金属とセレン・テルルを回収する.

リサイクル原料中の鉛・錫などの揮発しやすい金属は,転炉で揮発しダストに濃縮される.このダストを湿式で処理し,鉛・錫などの原料の中間生産物(鉛滓)とする.また,アノード中に分配したニッケル・アンチモン・ビスマスは銅電解液中に溶出し,電解精製においてアノード不動態化を引き起こす要因となる.ニッケルは硫酸ニッケルの形で分離回収され,アンチモン・ビスマスはキレート樹脂を用いて選択的に吸着され,中間生産物(Sb/Bi滓)として回収する.鉛滓やSb/Bi滓をHMC製造部にて分離・精製処理し,鉛・錫・アンチモン・ビスマスを製品化している.

佐賀関製錬所では,2017年から2019年にかけて操業負荷増大および原料多様化に対応すべく,より強靭かつフレキシブルな炉体を建設する方針のもと,自溶炉のリニューアルおよび付帯設備の増強を実施した.これにより原料処理量を1 h当たり215トンから235トンに約10%高めるほか,多様なリサイクル原料の受け入れ体制を整え処理能力を増強した6

Fig. 6に銅電解殿物からの貴金属精製フローを示す.銅電解殿物に含有する貴金属とセレン・テルルを分離し,溶媒抽出によって貴金属を相互分離する湿式処理プロセス操業を1997年から開始した7

Fig. 6

Refining process for Precious metals from copper anode slime. This figure is reconstructed with permission from JX Nippon Mining & Metals Corporation.

脱銅浸出で銅を除去して得られる脱銅残渣から,塩酸と過酸化水素を用いた塩化浸出により,金・白金・パラジウム・セレン・テルルを溶解する.銀は未溶解物の塩化銀として分離後,鉄粉で還元され粗還元銀とする.その後,HMC製造部の分銀酸化炉で高温溶融・精製して銀アノードを鋳造し,電解精製を行って電気銀を回収する.

塩化浸出で溶解した金は,溶媒抽出と還元を経て,製品金として回収する.セレン還元工程では金抽出後液に亜硫酸ガスを吹込み,3段階の還元処理を行う.1段目で白金・パラジウムを,2段目でセレンを,3段目でテルルをそれぞれ還元して滓を分離・回収する.1段目で回収したPGM滓(PGM:Platinum Group Metal)からは,精製工程を経て,白金とパラジウムをそれぞれ分離・回収する.2段目のセレン滓は蒸留してセレンを回収する.3段目のテルル滓はテルル化銅とともに,浸出・中和処理して二酸化テルルを得て,これを精製して高純度テルルを回収する.

5. 銅製錬工程と鉛製錬工程の融合によるレアメタルの回収

HMC製造部では,鉛製錬などで培ったレアメタルの分離・精製技術と新規技術,乾式処理と湿式処理を組み合わせたプロセスを導入し,2008年に操業を開始した.Fig. 7に鉛滓とSb/Bi滓からのレアメタル回収フローを示す.

Fig. 7

Refining process for Rare metals in the HMC Department, Hitachi Works. This figure is reconstructed with permission from JX Nippon Mining & Metals Corporation.

HMC製造部では,まず銅製錬工程のダスト処理で発生した鉛滓を炭酸化処理して,分銀酸化炉スラグとともに電気炉にて還元溶融し,鉛をコレクターとして利用することで鉛メタル中に有価金属を吸収させる.続いてハリス炉で鉛メタルをソーダ処理して錫をスカムとして回収し,これを浸出によって錫を水溶液に溶解後,電解によって製品錫を得る.鉛メタルは,電解精製して製品鉛とする.貴金属を含む鉛電解殿物を,銅電解精製の電解液から回収したSb/Bi滓とともに還元炉で溶融し,ソーダ処理で不純物を除去して各種金属を回収する.アンチモンは酸化アンチモンとして製品化する.ビスマスは電解精製で製品化する.鉛滓中に含まれる貴金属は,ビスマス電解殿物に濃縮され,これらは貴金属精製工程で精製し製品とする.アンチモンとビスマスは前述の製錬阻害物質でもあり,製品化回収して系外カットすることで銅製錬の負荷軽減に寄与している.

6. おわりに

本稿では,JX金属グループにおけるリサイクル原料からの貴金属・レアメタル回収について紹介した.銅製錬のスケールメリットや反応熱を活用することで,効率的な処理が可能なリサイクルプロセスを確立している.また,鉛製錬などの乾式・湿式技術を組み合わせることで,貴金属とレアメタルを回収し,かつ銅製錬の負荷を軽減するプロセスを開発して事業化してきた.

今後は資源循環の更なる促進を図るため,銅精鉱とリサイクル原料の処理を効率的に組み合わせた「ハイブリッド製錬」技術の確立に取り組む.

そのためにリサイクル原料処理に適した銅製錬プロセスの再構築,物理選別を含むリサイクル原料前処理技術の深化,プロセスの自動化など,製錬技術とAI・IoT技術を融合させたイノベーションを進めていく.

社会の変化が加速度的に進むことが予想される中で,銅を中心とした上流-中流-下流のサプライチェーンを有するJX金属グループは,その事業領域全体において新規技術の開発・活用と既存技術の最適化・融合を推進することによって,社会の持続的成長と地球規模での問題解決に寄与していく.

文献
 
© 2021 (公社)日本金属学会
feedback
Top