日本金属学会誌
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特集「貴金属のリサイクル関連技術の最前線II」
白金族金属リサイクル技術の開発動向:易溶化プロセスと物理濃縮プロセス
谷ノ内 勇樹岡部 徹
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2021 年 85 巻 8 号 p. 294-304

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Abstract

Spent automobile catalysts are the most important secondary resource for platinum group metals (PGMs), and their recycling is essential not only to ensure a steady supply of PGMs but also to preserve the natural environment. However, several factors limit the efficiency of PGM recovery in current recycling processes. Specifically, PGMs represent a small proportion of the entire catalyst and are difficult to dissolve in aqueous solutions for subsequent separation. In recent decades, multiple technologies have been developed to make the recycling of PGMs more efficient and environment-friendly. Herein, we introduce the typical industrial processes for recovering PGMs from spent catalysts as well as established and emerging trends in the technological development of PGM recycling. Furthermore, we review novel recycling techniques for converting PGMs in spent catalysts into more soluble states and/or physically concentrating PGMs from spent catalysts.

1. はじめに

白金族金属(Platinum group metals: PGMs)は,白金(Pt),パラジウム(Pd),ロジウム(Rh),イリジウム(Ir),ルテニウム(Ru),オスミウム(Os)の総称である.高い耐熱性,優れた耐蝕性,そして特異な触媒特性を有することから,様々な産業分野で用いられている.Fig. 1に示すように,白金族金属の中でも白金,パラジウム,ロジウムの3元素については,その需要の大部分を自動車の排気ガスを浄化するための触媒(排ガス浄化触媒)が占めている1

Fig. 1

Global demand for (a) Pt, (b) Pd, and (c) Rh in 20191).

世界的な環境規制の強化や開発途上国における自動車需要の増加にともない,Fig. 2に示すように,白金族金属の排ガス浄化触媒向け需要は過去30年で大幅に増加している2.将来的には,先進国を中心に電気自動車への移行が進み,排ガス浄化触媒向けの需要は減少する可能性がある.しかし,世界全体でみると,今後10年以上は,白金族金属の排ガス浄化触媒向け需要は増加するであろう.現在,リサイクル対象となっている自動車用排ガス浄化触媒はおおよそ15年前に製造された自動車に搭載されていたものである.したがって,これから数十年の間に,使用済み排ガス浄化触媒(以降,廃触媒と略称)からリサイクルされる白金族金属の量は,大幅に増大すると予想される.

Fig. 2

Growth in demand of Pt, Pd, and Rh for use in automobile catalysts2).

白金族金属の天然資源は,可採年数から判断すると当面枯渇の心配はない.しかし,その鉱床は南アフリカとロシアに偏在しており3-5,資源の安定供給には常に不安要素を抱えている.また,鉱石中に含まれる白金族金属の濃度は,高品位の鉱石においても5 ppm程度にすぎない.そのため,白金の生産量が例え1トンでも,その背後では何百万トンもの資材が動いており,鉱石を出発原料とする製錬には莫大なエネルギーが必要となる.また,採掘された鉱石や脈石のほとんどは廃棄されるため,資源供給国の鉱山や製錬所の周囲の自然環境に大きな負荷を及ぼしている.したがって,廃触媒から白金族金属を回収する取り組みは,資源セキュリティの観点からだけでなく,地球環境の保全の観点においても重要である.

白金族金属は,金属価格が高いこともあり,廃触媒からのリサイクルが産業としてすでに活発に行われている.しかしながら,現在のリサイクルプロセスには,エネルギーや薬剤の消費量,有害な廃液や廃棄物の発生量,白金族金属を回収するまでのリードタイム(プロセスの所要時間)などについて課題があり,より高度かつ高効率な回収技術の開発が求められている.

日本には,高い技術力と競争力を有する非鉄製錬産業が存在する.国内の非鉄製錬所では,輸入した精鉱を原料として多様な非鉄金属を生産しているだけでなく,貴金属(金,銀,白金族金属)を含む使用済み製品や廃棄物を世界中から集め,それらのリサイクル処理も行っている.また,国内には,貴金属のリサイクルや精製を専門とする企業も多数存在する.このような国内産業を背景として,日本の産学では,貴金属の分離回収に関する研究開発がこれまで活発に行われており,この分野において世界をリードしている.本稿では,廃触媒からの白金族金属の分離回収について,現在の商業プロセスの概略と,その高度化に向けた技術開発のトレンドを解説する.また,国内の研究者らが先導的に開発してきた新技術として,白金族金属の易溶化技術と物理濃縮技術を紹介する.

2. 自動車触媒からの白金族金属の回収プロセス

リサイクル処理では,回収元素の含有率や存在形態,共存する物質,処理量によって適切なプロセスが選択される.白金族金属を含む貴金属のリサイクルでは,処理プラントの規模が比較的小さく,さらに,製品の価格に比してプロセスコストが低いため,多様な手法が産業的に利用されている.本章では,廃触媒からの白金族金属の回収に関する典型的なプロセスについて紹介する.貴金属の製錬・リサイクルのプロセス全般については,優れた文献があるのでそちらを参照されたい4-14

自動車触媒の多くは,Fig. 3に示すように,ハニカム形状のセラミクス製基板の上に,ウォッシュコートとよばれる多孔質な触媒層が塗布された構造を有する.ハニカム基板の素材は,一般的には耐熱衝撃性に優れるコージェライト(Mg2Al4Si5O18)である.触媒層は高比表面積のγ-アルミナで主に構成されており,白金族金属やその化合物がナノメートルオーダーの微粒子として分散担持されている.また,触媒層中には,セリアやセリア・ジルコニア固溶体も助触媒として含まれていることが多い.自動車触媒に含まれる白金族金属の組成や量は,エンジンの種類や触媒の製造年代などにより異なるが,目安となる白金族金属の合計濃度は500-5000 ppmである6.廃触媒中の白金族金属濃度は,天然鉱石中の100-1000倍である.しかしながら,廃触媒は,種々のリサイクル原料の中では白金族金属の含有濃度が低い.さらに白金族金属自体の化学的安定性が高いため,廃触媒からの白金族金属の分離回収は容易ではない.

Fig. 3

(a) Photograph of automobile catalysts. SEM images of (b) the cross section and (c) the surface of catalyst.

廃触媒は,使用済み自動車からの収集網の整備が進んでおり,継続的にまとまった量の処理が可能である.鉱石を処理する既存の非鉄製錬プロセス(白金族金属製錬や銅製錬,鉛製錬)を利用すれば,高い収率で廃触媒から白金族金属を回収できるが,製錬所の立地が限られるとともに,白金族金属を単離するまでのプロセスタイムが長い.白金族金属は価格の変動リスクが大きいため,できる限り短いリードタイムで回収することが求められる.そのため,廃触媒からの白金族金属の回収は,専用のプロセスと設備を利用して行われることが多い.

Fig. 4に,廃触媒からの白金族金属の回収プロセスの概略を示す.白金族金属の分離に先立って,収集された廃触媒は粉砕される.貴金属のリサイクル事業において,原料中の貴金属含有量の正確な評価(サンプリングと成分分析による品位の確定)は重要である.廃触媒の粉砕・混合による均質化は,処理原料の品位の確定にとって必要不可欠な前処理である.

Fig. 4

Typical commercial procedures for recovering PGMs from spent automobile catalysts.

粉砕した廃触媒からの白金族金属の分離回収は,基本的には,乾式精錬と湿式精錬の組み合わせで行われる.白金族金属の最終的な分離精製には湿式法が用いられるが,その前処理として,高温乾式処理(溶錬)による白金族金属の濃縮を行うことが多い.溶錬では,銅や鉄,鉛などの金属融体をコレクター(吸収金属)として利用することにより,白金族金属を金属相中に抽出して分離する.溶錬により,廃触媒の主成分であるコージェライトやアルミナは,スラグとして除去される.溶錬は大型の高温処理設備を必要とするが,高い収率と速い処理速度で白金族金属を合金中に抽出できる.また,合金化により白金族金属の酸溶解性が向上するため,溶錬を経ることにより,その後の水溶液中への溶解処理を効率的に行うことができる.

乾式精錬(溶錬)については,例えば米国などでは,鉄をコレクターとする処理が行われている15,16.粉砕した廃触媒は,鉄と,酸化カルシウムなどの溶剤,コークスなどの還元剤とともにプラズマアーク炉に投入される.鉄を溶融するため,炉の操業温度は1500-1600 ℃と高い.また,国内では,(株)日本ピージーエムが,ローズ法とよばれる銅をコレクターとする手法で処理を行っている17-19Fig. 5に示すように,ローズ法では,粉砕された廃触媒は,銅または酸化銅と,酸化カルシウムや二酸化ケイ素などの溶剤,コークスなどの還元剤とともに電気炉へ投入される.操業温度は,鉄を用いる場合より低く,1300-1400 ℃である.スラグを除去した後,白金族金属を含む液体銅合金はそのまま酸化炉にて処理される.溶体中に空気または酸素を吹き込むことで銅を徐々に酸化し,白金族金属が濃化された銅合金を分離回収する.

Fig. 5

Extraction of PGMs from spent automobile catalysts via the Rose process17-19).

溶錬後の湿式精錬では,まず始めに白金族金属を含む合金を酸溶解する.貴な金属である白金族金属を水溶液中に抽出するため,本処理には,塩素ガス/塩酸溶液や王水など,強い酸化力を有する強酸が用いられる.白金族金属を塩化物錯体のアニオンとして抽出した後,沈澱法やイオン交換法,溶媒抽出法などを組み合わせた多段の湿式処理によって,白金族金属以外の金属成分の分離や白金族金属間の相互分離を行い,単体金属あるいはその化合物として白金族金属が回収される.この分離精製工程の詳細については企業秘密となっていることが多いが,先端的なプラントでは,より短時間かつ単純な工程で精製が可能なことから溶媒抽出法を中心に据えたプロセスが用いられている20.なお,湿式精錬のプロセス技術全般については,芝田らの総説が詳しい21.また,水溶液中における貴金属の溶存状態については,本特集号の鈴木らの解説22を参照いただきたい.

溶錬による濃縮と合金化を経ずに,粉砕した廃触媒から白金族金属を直接浸出することも可能である.しかしながら,その場合には,白金族金属(特に,白金族金属の中でも水溶液に難溶なロジウム)の回収率の低さが大きな課題となる.また,直接浸出では,アルミニウムイオンを大量に含む処理困難な廃液や有害な排ガスが多量に発生する.そのため,日本をはじめ環境規制の厳しい国では,直接浸出による廃触媒の処理は,産業として大規模には行われていない.

3. 技術開発のトレンド

廃触媒中の白金族金属濃度(数千ppm以下)と白金族金属自体の化学的性質(難溶性,相互分離の難しさ)のため,現行の回収プロセスでは白金族金属の抽出・分離に時間と手間がかかり,環境負荷も大きい.より効率的で低環境負荷,省エネルギーな白金族金属リサイクルの実現を目指し,多様な視点・アプローチでの技術開発が進められている23-25

白金族金属に対する効果的な湿式溶解法(浸出法)の開発は,最も重要な課題の1つである.廃触媒中の白金族金属を効率的に酸溶解するために,産業的には,溶錬による濃縮・合金化が事前に行われている.しかし,このような高温乾式処理には,大型かつ高コストな設備を用いる必要があり,エネルギーや溶剤・還元剤の消費量も大きい.また,溶錬を経たとしても,白金族金属の溶解には,高い酸化力を有する強酸を用いる必要があり,有害な廃液や排ガスの発生など,本質的に環境負荷が大きい工程である.そのため,廃触媒からの直接浸出や低環境負荷な溶解法の確立を目指した研究開発が,これまで活発に行われてきた.特に近年では,液組成(酸化剤,錯化剤,酸濃度など)や温度といった抽出媒体側の最適化だけでなく,白金族金属の溶解性を変える前処理技術(易溶化技術)の開発が活発化している.東京大学生産技術研究所の岡部・前田らのグループは,2000年代前半より,この易溶化技術について先駆的な研究開発を行ってきた26-30.その内容や,他のグループによる技術開発については,次章にて紹介する.

溶媒抽出法を用いた白金族金属の分離精製(相互分離)に関する研究開発も非常に活発である.1970年代頃から白金族金属の分離精製に溶媒抽出法が導入され,古典的な沈澱分離に代わる高効率な手法として発展してきた.しかしながら,溶媒抽出を中心に据えたプロセスにおいても,白金族金属の精製・相互分離には依然として労力と時間がかかる.白金やパラジウムの単離については溶媒抽出法の適応が進んでいるが,現在産業利用されている抽出剤には,抽出速度や酸溶液中での安定性など改善すべき点がある.また,ロジウム(およびルテニウムとイリジウム)については,広く産業利用できる抽出剤が確立されていない.そのため,世界各国の研究者が,抽出条件の最適化や,より効率的な新規抽出剤の開発に取り組んでいる.国内でも本分野の研究開発は活発であり,例えば,(国研)産業技術総合研究所の成田らは,N,N-二置換アミド含有第3級アミン化合物がロジウムにも有効な画期的な抽出剤であることを報告している31.溶媒抽出に関する最近の研究動向については,成田ら32,33,上田ら34,柴山ら35の解説を参照されたい.

その他にも様々な視点で分離回収技術の改良や開発が行われているが,著者らは,物理選別を利用して白金族金属を濃縮する前処理技術(物理濃縮技術)が特に有益な技術の1つであると考えている.物理選別は,選鉱分野で発展してきた固体粒子同士を粗分離する技術であり,代表的な技術としては粒度選別や比重選別,浮遊選別,磁力選別が挙げられる.溶錬や湿式処理と比べると,簡便な設備を利用して低コストで実施できる.現在一般的には,粉砕された廃触媒は,その全量が精錬工程に投入されて処理されている.前処理として物理選別を組み込み,白金族金属を濃化(非回収対象であるセラミクスを粗除去)できれば,その後の精錬処理を効率的に行えるため,リサイクル全体のエネルギー消費や環境負荷を低減できると期待される.

効果的な物理濃縮技術が開発されれば,使用済み触媒の収集拠点や自動車の解体現場において白金族金属を粗分離することができるため,廃触媒の新しい流通経路やビジネスモデルが出現する可能性もある.白金族金属は高価であるとともに価格変動が大きい.そのため,廃触媒の収集から白金族金属の単離までのリードタイムの短縮は,リサイクル事業者にとって重要な課題である.廃触媒の回収・集約は,都市部を含む世界各地で行われている.一方で,廃触媒からの白金族金属の分離抽出を行う製錬所やリサイクル工場は,特殊な設備が必要であるため立地が限られる.そのため,自動車から回収された廃触媒は,海上輸送や陸上輸送によって分離精製プラントへと運ばれることが多い.廃触媒を回収・集約する業者が,物理選別を用いてその場で白金族金属を粗分離できれば,単位重量当たりの経済的価値が高いリサイクル原料が得られる.原料の経済的価値が十分に高ければ,航空輸送を介した分離精製プラントへの輸送が可能となり,リサイクル全体のリードタイムを大幅に短縮できると考えられる.

廃触媒中の白金族金属を物理選別する技術については,早稲田大学の大和田らのグループが,1990年代より研究開発を行っている36-41.また,近年,東京大学生産技術研究所では,岡部らのグループが,化学処理を組み合わせた新しい技術群を提案し42,その一部については有用性の実証が進んでいる.これらの詳細については,4.2節にて紹介する.

4. 研究開発段階の新規リサイクル技術

4.1 触媒中の白金族金属の易溶化

東京大学生産技術研究所の岡部・前田らのグループは,廃触媒中の白金族金属など,複雑な構造体上に微量担持されている貴金属を易溶化する新技術として,Fig. 6に模式的に示すように,金属蒸気による白金族金属の合金化処理を含むプロセスを提案し,2000年代前半よりその開発に取り組んでいる10,14,26-30,43-50.マグネシウムやカルシウム,亜鉛などの活性金属は揮発性が高い.これら活性金属の蒸気は多孔質な触媒層表面への供給が容易であり,白金族金属の合金化のための反応物として適している.一般的なリサイクル処理の乾式精錬(溶錬)でも,白金族金属をコレクター(鉄や銅など)との合金として抽出・分離している.しかし,従来の技術では,1200 ℃を超える高温が必要であるとともに,プロセス内に投入されるコレクターの量が多い.一方,活性金属の蒸気による処理は,溶錬と比べて大幅に低い温度(<1000 ℃)で実施できるとともに,活性金属の必要量や消費量を最低限に抑えることができる.

Fig. 6

Schematic illustration of the novel process for treating PGMs in scraps (e.g., spent automobile catalysts) to produce more soluble species43-50). The solubilization process is based on alloying treatment with the vapor of active metals.

Fig. 7に,活性金属蒸気による合金化の効果の例を示す10,43-45,47.白金族金属の中でも特に酸への溶解が困難である白金およびロジウムについて,700-800 ℃の還元雰囲気でマグネシウムやカルシウム,亜鉛,リチウムの蒸気を接触させて化合物を形成し,その後,王水による溶解処理を行った.その結果,白金やロジウムが王水に10%未満しか溶解しない条件下でも,活性金属蒸気による処理後では白金族金属を効果的に溶出できることが示されている.これは,白金族金属を含む合金中の活性金属が優先的に溶解することで,残った白金族金属が多孔質化・微粒子化したためと考えられている.多孔質化・微粒子化により,溶液と接する反応面積が増大する.また,塩酸中における亜鉛-白金族金属合金のアノード溶解挙動の調査を通じ51-54,微粒子化による白金族金属の化学的状態の変化(表面エネルギーの寄与の増大による固体状態の熱力学的な不安定化)も,溶解を促進する因子となることが示されている.

Fig. 7

Results of dissolution experiments using aqua regia for initial samples of (a) Pt powder and (b) Rh powder, which were performed after alloying the PGMs with reactive metals through a gas-phase reaction10,43-45,47).

また,活性金属との合金化の後に酸化処理を施すことで,酸化剤を含まない塩酸での溶解も可能となり得ることが,2000年代前半に示されている.Fig. 8は,カルシウム蒸気との反応で得られたカルシウム-白金合金,および同合金を900 ℃の大気中で24 h保持した試料について溶解試験を行った結果である44.大気酸化後の試料については,酸化剤を加えていない濃塩酸でも白金が水溶液中に抽出されている.これは,カルシウム-白金合金が酸化されて複合酸化物へと変換されたためと考えられる.しかし,易溶化処理後の白金の化学状態(価数など)や塩酸中での溶解反応の詳細については明確となっていない.

Fig. 8

Extraction of Pt from pure Pt metal, Ca-Pt alloy, and oxidized Ca-Pt alloy using aqua regia or concentrated HCl solution at room temperature44). The Ca-Pt compound, which was obtained via alloying treatment with Ca vapor and subsequent heat treatment at 900 ℃ in air, was dissolved in HCl solution.

塩素ガス/塩酸溶液や王水といった強酸化性の酸ではなく,酸化剤を含まない塩酸で白金族金属の浸出が可能となれば,湿式溶解工程の環境負荷を劇的に下げることができる.岡部らのグループは,活性金属との合金化後の化学処理についてさらに検討を進め,塩化処理が有用であることを2012年に報告している48Fig. 9に示すように,マグネシウム-白金合金に塩化剤としてCuCl2を混合して500 ℃で3 h反応させた場合,処理後のマグネシウム-白金化合物は80 ℃の濃塩酸中に0.25 hで完全に溶解した48,49.なお,合金化処理を施していない白金に対して,同条件で塩化処理と溶解処理を行った場合には,白金の溶解率は21%であった.塩化処理後のマグネシウム-白金化合物の化学状態について,複合塩化物を形成しているのか,あるいはマグネシウム塩化物と白金族金属塩化物の混合物であるのかなど,不明な点が残されているものの,合金化と塩化を順に施すプロセスは難溶性金属に対する易溶化技術として高い可能性を有する.

Fig. 9

Extraction of Pt from pure Pt metal, chlorinated Pt, and chlorinated Mg-Pt alloy using concentrated HCl solution at 80 ℃. The Mg-Pt compound, which was obtained via alloying treatment with Mg vapor and subsequent chlorination treatment using CuCl2 at 500 ℃, was dissolved in HCl solution. This figure is reconstructed from Ref. 48) with permission from Springer Nature.

Fig. 9に示した実験では,塩化剤であるCuCl2を物理的に混合しているが,原理的には,気相を介した塩化も可能である.例えば,塩化剤としてCuCl2を用いる場合にも,その熱分解反応(CuCl2 → CuCl + 1/2 Cl2)により生じる塩素ガスによって塩化が進行する.つまり,適切なプロセス条件(温度や塩化剤,反応容器)を選択すれば,気相を介して廃触媒中の活性金属-白金族金属合金を直接的かつ効率的に塩化できると考えられる.現時点では,本技術は,白金族金属粉末の処理によって,その基礎的な有用性が示された段階である.しかし,今後,プロセス条件と白金族金属の酸溶解性の関係や,触媒の主成分であるアルミナやコージェライトの反応挙動に関する調査が進めば,湿式溶解の前処理として商業利用できる可能性がある.

近年,白金族金属の易溶化処理に関する研究開発が活発化している.東京大学生産技術研究所で開発が進められている活性金属蒸気による合金化を主軸とする新技術(Fig. 6)以外にも,多様なプロセスが提案されており,その一部については有用性の実証が進んでいる.

例えば,(国研)産業技術総合研究所の野村らは,高温酸化雰囲気における白金族金属の酸化揮発とランタンスカンデート(LaScO3)系ペロブスカイト型酸化物への白金族金属酸化物の固溶(吸蔵)を利用したプロセスを提案している55.1500 ℃以上という高温での処理が必要となるものの,複合酸化物への変換による易溶化とともに,複雑・多孔質な構造体上から気相を介して物理的に分離できる可能性がある点は興味深い.また,千葉工業大学の永井らは,本手法の発展型として,白金,パラジウム,ロジウムを別々の酸化物で吸蔵することによって,白金族金属間の相互分離も同時に可能とするプロセスを提案し,適切な酸化剤の探索を行っている56,57

(国研)産業技術総合研究所の粕谷らが提案した白金族金属の複合酸化物化処理は,研究開発が大きく進展している易溶化技術の1つである58-65.粕谷らの手法では,粉砕した廃触媒に,アルカリ金属炭酸塩(Li2CO3やNa2CO3)を混合し,600-800 ℃で大気焼成を行う.これにより,白金族金属はアルカリ金属との複合酸化物へと変換され(例: Pt + Li2CO3 + O2 → Li2PtO3 + CO2),酸化剤を含まない濃塩酸での溶解が可能となる.白金族金属粉末の処理実験を通じて,プロセス条件と生成物の関係や,複合酸化物の塩酸中での溶解挙動を明らかとしている58,59,61,63,65.また,白金族金属を担持したアルミナ粉末や粉砕済みの廃触媒に対する処理実験も行っており,濃塩酸によって白金族金属を抽出できることが示されている64.粕谷らの開発した新技術は,簡便かつ穏やかなプロセス条件で廃触媒中の白金族金属を塩酸に易溶化できる優れた手法である.アルカリ金属炭酸塩の中では,リチウム塩を用いた処理で良好な結果が得られている.また,触媒中のアルミナもアルカリ金属塩と反応し,場合によっては易溶化する.そのため,プロセスに必要なリチウム塩の量の低減や,触媒中のアルミナの易溶化の抑制が,今後の課題であると考えられる.また,白金族金属の複合酸化物化の進行にはアルカリ金属塩との物理的接触が必要であるため,実用化の際には,炭酸塩の粒度や廃触媒との混合状態もプロセス効率を左右する重要な因子となると予想される.

その他,溶融塩中での反応により白金族金属を複合塩化物に変換する手法の開発も行われており,例えば,千葉大学の吉村らは,350 ℃程度のFeCl3-KCl溶融塩中に浸漬することで白金をK2PtCl6に変換できることを報告している66

4.2 触媒中の白金族金属の物理濃縮

廃触媒の構成成分のうち,抽出回収対象となる白金族金属の濃度は1%にも満たない.リサイクル全体の効率化を考えると,精錬処理による元素の分離抽出に先立ち,物理選別技術を用いて廃触媒から非回収対象であるセラミクスを粗除去し,白金族金属を濃化しておくことが望ましい.

廃触媒中の白金族金属の物理濃縮技術については,早稲田大学の大和田らが,先駆的な研究開発を行った.自動車触媒は,コージェライト製の基板と,アルミナを主体として白金族金属が担持された触媒層で構成される.1990年代前半に大和田らは,湿式高磁力磁選機を使用して粉砕済み廃触媒の処理を行い,助触媒としてニッケルが含まれている場合には,磁着物中へと白金族金属を濃縮分離できることを報告している36,37.ただし,十分な量のニッケルが含まれているのは古い型の自動車触媒であり,その後,本手法の開発は進展していない.また,大和田らは,浮遊選別による白金族金属の濃縮についても検討している37,38.浮遊選別は,固体粒子表面の親水性・疎水性の差を利用した相互分離法である.固体粒子が懸濁した液中に気泡を吹き込み,表面を疎水化した粒子を気泡に付着させて浮上分離する.ドデシルアミン塩酸塩やドデシル硫酸ナトリウムを捕収剤とする浮遊選別処理について一定の有用性が認められたが,白金族金属の分離効率の低さが課題であった.

2000年代以降では,粒度選別を用いた物理濃縮についていくつか報告がある.コージェライト基板より触媒層の方が脆弱であるため,廃触媒の粉砕を行うと,白金族金属は粗大粒子群より微粒子群の方に優先的に分配される.韓国地質資源研究院のKimらは,廃触媒に対して,粗粉砕処理の後に湿式アトライタによる微粉砕処理を行えば,粒度選別によって効率的に白金族金属を濃縮分離できることを報告している67.適切な処理条件では,白金族金属の回収率は約80%,濃縮率は約2.5倍であった.同様の研究は,大和田らのグループも行っており,ジョークラッシャーとロールクラッシャーによる粗粉砕,乾式アトライタによる微粉砕,ふるい分けを組み合わせた処理によって,白金族金属の微粒子群への分配を促進できることを報告している40.また,大和田らのグループは,粉砕と粒度選別のための前処理として,廃触媒の加熱急冷処理が有用であると報告している39,41.廃触媒を600-800 ℃で加熱した後,水冷すると,熱膨張率の差によって,触媒層内や触媒層/基板界面にはクラックが導入される.その後,適切な粉砕を行えば,より効率的に粒度選別によって白金族金属を濃縮できるとされる.

このようにいくつかの物理濃縮技術が報告されているものの,現在のところ広く産業利用できる手法は確立されていない.そこで,近年,東京大学生産技術研究所の岡部らのグループでは,Fig. 10に示すように,化学処理と物理選別を組み合わせた新技術を提案し42,その有用性の実証に取り組んでいる.

Fig. 10

Novel physical concentration techniques in which chemical pretreatments are used to improve the efficiency of PGM separation from scraps (e.g., spent automobile catalysts)42).

具体的な例を紹介すると,無電解めっきと磁力選別を組み合わせた技術の有用性が,著者らの一連の研究で示されている68-70Fig. 11に模式的に示すように,本プロセスでは,複雑・多孔質な廃触媒の表面に,無電解めっき法によって強磁性体であるニッケルや鉄を析出させる.めっき膜と触媒層の密着性の向上や析出金属と白金族金属との合金化の促進のため,必要に応じて熱処理を行う.その後,粉砕と磁力選別を行うことで,白金族金属を磁着物中に濃縮して分離する.

Fig. 11

Schematic illustration of the novel technique for physically separating PGMs from spent catalysts68-70). In this technique, PGMs are concentrated magnetically by depositing a ferromagnetic metal such as Fe or Ni on the catalyst layer using electroless plating.

セラミクスの表面に無電解めっきを施す際には,一般的には,活性化や触媒化など複雑かつ手間のかかる前処理を行う必要がある.しかし,触媒の表面については,浴組成や温度など適切なめっき条件を選択すれば,担持されている白金族金属が無電解めっきの触媒核として作用し,特別な前処理を行うことなく鉄やニッケルを析出できる(Fig. 12).無電解めっき処理を施した模擬触媒に対して,粉砕と磁力選別を行ったところ,白金とパラジウム,ロジウムのいずれもが濃縮分離できた.ただし,未使用の自動車触媒から作製した模擬触媒を処理した場合には,現時点では,白金族金属の濃縮率は2倍程度,回収率は70%程度であり,本技術の実用化に向けては白金族金属の濃縮分離効率の向上が不可欠である.著者らの基礎研究では,粉砕と磁力選別を最も初歩的な手法(乳鉢での手粉砕と小型磁石での手選別)で行った68,69.今後,このような物理的操作を最適化すれば,白金族金属の濃縮分離効率を改善できると予想される.

Fig. 12

Photograph of a honeycomb-type catalyst sample after electroless Fe plating70). The attraction of the catalyst sample to the magnet indicates that ferromagnetic Fe was successfully deposited on the surface of the catalyst layer.

また,気相を介した鉄合金化処理と磁力選別を組み合わせた物理濃縮技術についても,有用性が実証されている70-73.白金族金属と鉄の合金は,鉄の濃度が十分に高ければ,常温で強磁性を示す.そのため,白金族金属の鉄合金化は,磁力選別のための前処理として適している.ただし,マグネシウムや亜鉛と異なり,鉄は揮発性が低い金属であるため,鉄合金化処理に金属蒸気との接触を利用するのは現実的でない.そこで,著者らは,高揮発性の塩化鉄(FeClxx = 2, 3))の蒸気を利用した鉄合金化処理について熱力学的解析と実証実験を行った.一連の研究の結果,金属鉄の共存する反応系内でFeCl2蒸気と接触させれば,白金族金属を効率的に強磁性合金へと変換できることが示されている.

例えば,白金粉末と金属鉄/FeCl2混合物を物理的に接触していない状態で石英アンプル内に真空封入した後(Fig. 13(a)),927 ℃で1 h保持してアンプル内をFeCl2の蒸気で満たすと,白金は強磁性体である鉄-白金合金(主に,L10型FePt合金)に変換された(Fig. 13(b))72.白金の鉄合金化反応としては,FeCl2蒸気の不均化反応(3 FeCl2 → Fe + 2 FeCl3)と分解反応(FeCl2 → Fe + Cl2)が考えられるが,熱力学的解析によって前者が支配的であることが示されている.金をはじめとする他の貴金属についても,FeCl2蒸気による処理で鉄合金化が可能であり,パラジウムやロジウムについては強磁性合金へと変換できる70,71,73.一方,廃触媒の主成分であるコージェライトやアルミナについては,同じ処理条件において,FeCl2蒸気と反応せず,安定であることが示されている73

Fig. 13

(a) Vacuum-sealed quartz ampoule used for the reaction between Pt and FeCl2 vapor. Pure Pt samples were placed in the L-shaped unit and did not come into direct contact with the Fe and FeCl2 powder mixture. (b) Pt powder after alloying treatment with FeCl2 vapor at 927 ℃ for 1 h. The Pt was converted into ferromagnetic alloy. This figure is reproduced from Ref. 72) with permission from the Mining and Materials Processing Institute of Japan (MMIJ).

Fig. 14は,実プロセスを想定した鉄合金化処理(反応容器と鉄合金化機構)の模式図である.FeCl2蒸気で満たされた鉄鋼製容器内で廃触媒を加熱保持する.廃触媒中の白金族金属の表面ではFeCl2の不均化反応が進行し,白金族金属はFeCl2から生成した鉄と合金化する.不均化反応の副生成物であるFeCl3蒸気は,鉄鋼製容器の内壁などで金属鉄と反応し,FeCl2へと再生される.総括反応としては,塩化鉄蒸気は,鉄を白金族金属中へと輸送する反応媒体として働く(FeCl2は循環利用できる).廃触媒は複雑かつ多孔質な表面構造を有しているため,その表面には鉄合金化処理後においてFeCl2が多量に付着する可能性がある.しかし,FeCl2は蒸気圧が高いため,真空蒸留などの揮発操作によって触媒スクラップ中から容易に分離回収できる.つまり,プロセス内での塩化物の消費や,処理コストのかかる廃液の発生は最低限に抑えられる.

Fig. 14

Schematic illustration of (a) FeCl2 vapor-based alloying treatment70) and (b) the reaction mechanism underlying the alloying of PGMs with Fe through disproportionation of FeCl2 vapor (Fig. (b) is reused from Ref. 73) with permission from Springer Nature).

単純な形状の模擬触媒を用いた実験ではあるが,FeCl2蒸気による鉄合金化処理後に粉砕と磁力選別を行えば,白金族金属を磁着物として濃縮分離できることが確かめられた73.今後,本技術については,プロセス条件の最適化とともに,実際の廃触媒を用いた有用性の実証が期待される.

無電解めっき法や塩化鉄蒸気を利用した化学処理は,物理選別のための前処理として有用なだけでなく,白金族金属の酸溶解性の向上にも資する.例えば,ロジウムを担持したアルミナ粉末を,40 ℃の王水中で1 h保持しても,ロジウムは難溶性であるため全く浸出されなかったが,無電解鉄めっきと熱処理を施した後では,合金化の効果によりロジウムのほぼ全量がわずか0.5 hで抽出できた74.また,FeCl2蒸気による鉄合金化処理を施した白金粉末は,希釈した王水でも簡単に溶解した70.合金状態の白金族金属の酸溶解には酸化剤が必要である.しかし,物理選別による濃縮分離後に,前節で紹介したような塩化処理(あるいは酸化処理)を施せば48,49,酸化剤を含まない塩酸を用いて白金族金属を効率的に抽出できる可能性がある.

5. おわりに

使用済み製品や廃棄物からの白金族金属の回収技術の研究開発については,日本の産学が世界をリードしてきた点も多い.本稿で紹介した,使用済み自動車触媒(廃触媒)中の白金族金属に対する易溶化技術や物理濃縮技術は,その好例である.本稿で紹介した新技術は,現時点では,大学や研究機関における基礎研究の段階である.しかし,白金族金属リサイクルの抜本的な低環境負荷化や迅速化,および小規模・簡便な設備による廃触媒収集拠点でのオンサイト型リサイクル処理の実現に資する要素技術であり,今後,研究開発が進み社会実装されれば,白金族金属の資源循環を変革すると考えられる.

Fig. 15は,東京大学生産技術研究所にて研究開発が行われてきた易溶化技術と物理濃縮技術を纏めたものである.究極的な目標は,塩水で迅速かつ選択的に白金族金属が抽出でき,有害な廃液が発生しない環境調和型プロセスの実現であり,そのための前処理技術の開発に取り組んでいる.また,このような前処理技術の開発とは別に,貴金属の溶融塩中へのアニオンとしての溶解とアノード電析を利用した新規リサイクル手法の開発も行われているが,その内容については本特集号の大内らの解説を参照いただきたい75

Fig. 15

Novel pretreatment processes involving solubilization and/or physical concentration treatment for precious metals in scraps with complex structures (e.g., PGMs in spent automobile catalysts). The pretreatment processes allow precious metals to be leached rapidly and selectively, thereby reducing the environmental burden.

著者らによる白金族金属の物理濃縮技術の開発は,JSPS科研費(26220910),マツダ財団研究助成(16KK-453)によって行われた研究の一部である.ここに感謝の意を表する.

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