日本金属学会誌
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特集「チタンおよびチタン合金のプロセス,組織,特性の最近の研究と発展」
選択的レーザー溶融法により作製したTi-6Al-4Nb-4Zrの組織変化と高温力学特性
黒田 知暉増山 晴己戸田 佳明松永 哲也伊藤 勉渡邊 誠小笹 良輔石本 卓也中野 貴由下条 雅幸御手洗 容子
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2024 年 88 巻 12 号 p. 348-356

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Abstract

Ti-6Al-4Nb-4Zr (mass%) was prepared by selective laser melting (SLM) under various conditions, and the microstructure evolution resulting from SLM processing and subsequent heat treatments was investigated. The effects of the unique SLM-induced microstructure on the high-temperature compressive strength and creep properties of the samples were then elucidated. Under rapid cooling conditions, the martensitic structure formed in a scale-like pattern, with a 100 µm in size, consistent with the laser scanning pattern. By contrast, under slow cooling conditions, the α/β lamellar structure formed in β grains with a 300 µm grain size instead of in a scale-like pattern. The martensitic structure drastically changed to a Widmanstätten structure during heat treatment. The equiaxed α phase also formed at the interface of the scale-like patterns. By contrast, the α/β lamellar structure did not exhibit a change in response to heat treatment. The compressive strength of the SLM samples was governed by the martensite α size and the grain size, both of which depended on the cooling rate. The dominant creep deformation mechanism at 600℃ and under a loading stress of 137 MPa was grain boundary sliding. The creep life depended on the grain size. The HIP treatment improved the creep life because it eliminated pores introduced by the SLM process.

 

Mater. Trans. 64 (2023) 95-103に掲載.Table 4:鍛造材の熱処理条件および文献リストを修正.

1. 緒言

積層造形法(Additive Manufacturing: AM)は,層ごとの成膜によって3次元複雑構造体を製造し,急速加熱による溶融と急速冷却による凝固によって金属材料を製造する加工法である[1, 2].粉末床溶融結合法として,選択的レーザー溶融(Selective laser melting, SLM)と電子ビーム溶融(Electron beam melting, EBM)という2つの主要な積層造形法が注目されてきた[2].SLMとEBMの違いは熱源で,SLMにはレーザーが,EBMには電子ビームが使用される.積層造形方法は2つの方法で同じであるが,SLMの粉末温度に比べ,EBMの粉末温度ははるかに高く,約500-800℃である[3].EBMでは,チャンバーを予熱することによって粉末温度が高くなる.さらに,SLMで使用されるレーザーと比較して電子ビームの浸透が深くエネルギーが高いため,EBMの冷却速度はSLMの冷却速度よりも遅い[3].

耐熱Ti合金は,高温での比強度が高く,耐酸化性に優れているため,航空宇宙用途のコンプレッサー・ディスクやブレードに使用されている[4].しかし,Ti合金は熱伝導率が低いため,機械加工は困難で高価である[5].ニアネットシェイプで製造すれば,機械加工量は少量になるため,AMによるニアネットシェイプ成形がTi合金に適用されている[2, 6].最も広く使用されている商用Ti合金であるTi-6Al-4Vに対して,AM加工に関する数多くの研究が行われてきた.Ti-6Al-4Vはhcp-α相とbcc-β相から構成されている[4, 5].一般に,AM試料の組織は,急冷中のβ相からの相変態によって形成されるマルテンサイトα相である.マルテンサイト組織が形成されるかどうかは,冷却速度に依存する.冷却速度が410℃ s−1より大きければ,マルテンサイト組織が形成される.冷却速度が20℃ s−1より小さければ,板状のα相が形成される[7].

Ti合金の力学特性は組織に支配されるため,AM-Ti-6Al-4Vの室温における延性と強度を改善するための研究が多数行われてきた[1, 2].一方,室温での力学特性に比べ,高温での力学特性に関する研究はまだ限られている.

SLMで作製したマルテンサイト組織を有するTi-6Al-4Vのクリープ特性について,450-900℃の温度範囲で調べられた[8, 9].600℃を超える温度でのクリープ試験中に,マルテンサイト組織からウィドマンシュテッテン組織に組織変化が観察された[8].また,マルテンサイト組織を持つSLM材と,バイモーダル組織および等軸組織を持つ鍛造材のクリープ寿命は,同程度であることがわかった[9].クリープ変形機構は,低温では転位クリープであったが,高温では拡散クリープへと変化した[9].

Ti-6Al-4Vのクリープ特性に対する熱処理の影響も研究されている[10, 11].740℃[10]または1040℃[11]で熱処理すると,マルテンサイト相が粗大化し,ウィドマンシュテッテン組織に変化することが観察された.クリープ試験は,500℃[10, 11],600℃[10],および650℃[10]で実施され,クリープは組織形態(SLM材ではウィドマンシュテッテン構造,鍛造材では等軸α相とバイモーダル組織など)に関係なく,支配的な構成相(すなわちα相)によって制御されると結論づけられた[10].このように,最小クリープ速度と負荷応力の関係は,鍛造材とSLM材の間で類似していた.しかし,熱処理した試験片のクリープひずみは,積層造形ままの試験片よりも相対的に小さいこともわかった[11].積層造形まま材と熱処理材のクリープ変形機構は,それぞれ粒界すべりと転位すべりと決定された[11].

これまでの研究では,クリープ変形機構を調べるために様々なクリープ条件が用いられてきたが,試料作製時の加工条件や熱処理条件は1つしか選択されていなかった.また,加工条件,組織,力学特性の関係は明らかにされていない.そこで本研究では,Ti合金の積層条件,組織,高温力学特性の関係を明らかにするために,様々な積層・熱処理条件下での組織変化を調べた.SLMの冷却速度はEBMの冷却速度よりも速いため[1, 2],SLM加工では試料の試料が劇的に変化することが予想される.そのため,本研究では,SLMを用いて組織を大幅に変化させた.さらに,異なる組織を有する試料の高温強度とクリープ特性を調べ,SLM積層条件に関連する組織と力学特性について議論した.

本研究では,すでに広く研究されているTi-6Al-4Vの代わりに,Ti-6Al-4Nb-4Zr(mass%)を選択した.我々のグループは,600℃を超える温度での耐酸化性を向上させるために,Ti-6Al-4V[12-16]と同様のnear-α合金にNbとZrを添加し,Ti-6Al-4Nb-4Zrを開発した.Ti-6Al-4Nb-4Zrの鍛造材の組織変化と高温力学特性については,すでに調査されている[12-16].そこで,本研究では,Ti-6Al-4Nb-4ZrのSLM材と鍛造材の組織の違いを明らかにし,高温力学特性に及ぼす組織の影響を明らかにした.

2. 実験方法

SLMには,平均粒径30 µmのTi-6Al-4Nb-4Zr(mass%)合金粉末(タニオビス社製)を使用した.金属レーザー溶融システム(EOSINT M290,EOS社製)を用いて,14 × 14 × 50 mm3の試験片を作製した.Ybファイバーレーザー(発振波長:1030-1070 nm)を用いた.レーザーは,90°回転させて,各層に対してジグザグ方向に走査した.また,試料の酸化を防ぐため,チャンバー内はArガス雰囲気とした.Table 1に示す4つの異なるSLM条件(A-D)を使用した.

Table 1 SLM processing conditions.


層厚は60 µmに固定した.条件A,条件B,条件Cでは,レーザー出力とハッチ間隔をそれぞれ300 Wと0.1 mmに固定し,走査速度を1000-1400 mm·s−1の範囲で変化させた.

凝固速度Rは,熱勾配Gと冷却速度$\frac{\partial T}{\partial t}$に依存する[17]:

  
\begin{equation} R = \frac{1}{G}\frac{\partial T}{\partial t} \end{equation} (1)

レーザー出力が一定の場合,レーザーの走査速度を上げると凝固速度と熱勾配が増加し,冷却速度が増加する[17].凝固速度と熱勾配に関する情報が不足しているため,正確な冷却速度を計算することはできないが,式(1)から,冷却速度は条件Aから条件Cへと増加する.条件Dの走査速度は1200 mm-s−1であり,条件Bと同じである.しかし条件Dのレーザー出力は,条件Bよりも高い.一定の走査速度下でレーザー出力が増加すると,熱勾配が低下するため,式(1)から冷却速度は小さくなる.つまり,条件Dでの冷却速度は,条件Bでの冷却速度よりも小さくなる.

レーザーのエネルギー密度E(J-mm−3)は,式(2)を用いて計算した[18]:

  
\begin{equation} E = \frac{P}{vdt} \end{equation} (2)

ここでP(W)はレーザー出力,$v$(mm-s−1)は走査速度,d(mm)はハッチ間隔,t(mm)は層厚さである.各条件に対応するエネルギー密度の計算値をTable 2に示す.最もエネルギー密度が高かったのは条件Dであった.エネルギー密度が高いほど加熱が大きくなり,より大きな溶融池が形成されるため,条件Dでは熱の影響が大きくなり,条件A,条件B,条件Cに比べて冷却速度が遅くなると考えられる.

Table 2 Calculated energy density.


SLM材を650℃で3 h熱処理し,残留熱応力を除去した後,空冷した.応力除去処理条件は,文献[19]にならった.熱処理による組織変化を調べるため,試料をα + β相域で950℃,2 hの熱処理を行った後,水冷した.SLM材はしばしば気孔を含むため,気孔を除去するために熱間静水圧プレス(HIP)を適用した[20].SLM材のHIP処理は,Arガス雰囲気下,954℃,103 MPaで2 h行い,試料を炉内で冷却した.650℃で熱処理した試料を応力除去処理材,応力除去処理後950℃で熱処理した試料を熱処理材,HIP処理を施した試料をHIP処理材と呼ぶ.

SLMプロセスによって導入された気孔率を測定するため,放電加工機を用いて,SLMまま材,応力除去処理材,熱処理材,およびHIP処理材から⌀1 × 10 mm2の試料を切り出した.X線CT装置(SMX-160CT-SV3,㈱島津製作所)を用いて気孔率を測定した.3次元データは,解析ソフトウェア(VG Studio, Volume Graphics)を用いて再構成し,気孔率を測定した.

SLM材との比較のため,鍛造材も作製した.1.1 kgのTi-6Al-4Nb-4Zrインゴットを,低温るつぼ浮揚溶融法で溶解した.このインゴットを鍛造し,α + β二相域900℃で溝圧延を行い,14.3 mmの角棒を作製した.熱処理温度は,α + β二相域である950℃に3 h保持し,空冷した.

SLMまま材,応力除去処理材,熱処理材,HIP処理材,および鍛造材の組織を,電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM,日本電子㈱ JSM-7200F)と電子後方散乱回折(EBSD)およびエネルギー分散型X線分光分析(EDS)を併用し,加速電圧20 kVで観察した.組織観察用の試料は樹脂に埋め込み,研磨紙,粒径9 µm,6 µm,1 µmのダイヤモンドペースト,SiO2を用いて研磨した.

力学特性を調べるため,万能試験機(AG-X,㈱島津製作所)を用いて,SLMまま材,応力除去処理材,熱処理材,HIP材,および鍛造材の圧縮試験を行った.ひずみ速度は3.0 × 10−4 s−1で,温度は室温から600℃まで変化させた.圧縮試験には,2.5 × 2.5 × 5.5 mm3の試験片を用意した.引張クリープ試験は,熱処理材,HIP処理材,および鍛造材について,大気中,600℃,137 MPaの負荷応力で破断するまで実施した.伸びはリニアゲージを用いて測定し,試験温度は試験片に取り付けたR型熱電対を用いて測定した.クリープ試験片のゲージ径は3 mm,ゲージ長は13.5 mmであった.鍛造試料のゲージ径は6 mm,ゲージ長は30 mmであった.

3. 結果と考察

3.1 組織

3.1.1 SLMまま材の組織

作製した試料の造形方向に対する水平断面および垂直断面の後方散乱電子像をそれぞれFig. 1およびFig. 2に示す.条件A,条件B,条件Cで作製した試料の低倍率像では,旧β粒のうろこ状パターンが観察された(Fig. 1(A)-1,Fig. 1(B)-1,Fig. 1(C)-1).これらのうろこ状パターンの大きさは,ハッチ間隔と一致し,約100 µmであった.うろこ状パターンは,各層への連続的なレーザー照射下で形成される溶融池の形状に対応することがよく知られている[21].対応する高倍率組織(Fig. 1(A)-2,Fig. 1(B)-2,Fig. 1(C)-2)では,急冷時にしばしば形成されるマルテンサイト組織が観察された.しかし,条件Dで作製した試料では,うろこ状の模様は観察されず,旧β粒径は約300 µmであった(Fig. 1(D)-1).また,冷却速度が低いため,結晶粒内部に厚いα相(黒い相)と薄いβ相(白い相)からなる層状組織が観察された(Fig. 1(D)-2).

Fig. 1

Backscattered electron images of the side plane of the SLM samples fabricated under condition sets A to D; 1 and 2 indicate low- and high-magnification images, respectively.

Fig. 2

Backscattered electron images of the vertical cross-sections of the SLM samples fabricated under condition sets A to D; 1 and 2 indicate low- and high-magnification images, respectively.

造形方向に垂直な断面の組織では,Fig. 2(A)-1,Fig. 2(B)-1,Fig. 2(C)-1に示すように,うろこ状のパターンではなく,白点線で示した格子状の旧β結晶粒が観察された.この格子の幅は,レーザーハッチの間隔に相当する約100 µmであった.これらの観察結果は,マクロな組織も照射パターンに対応していることを示している.条件Dでは,格子状の組織は観察されなかった.ハッチ間隔が小さいため,溶融領域が重なり,冷却速度が低下したと考えられる.その後,溶融池形態は消失し,β粒は300 µmまで成長した.

条件Bと条件Dで作製した試料は,レーザー走査速度は等しいが,条件Dでは,条件Bよりもレーザー出力が高く,ハッチ間隔が小さい.条件Bと条件Dの試料を用いて,熱処理とHIP処理が組織に及ぼす影響を調べた.応力除去処理材,応力除去処理後950℃で熱処理した熱処理材,およびHIP処理材の組織をFig. 3に示す.SLMまま材の組織と比較して(Fig. 1(A)-2,Fig. 1(D)-2),条件Bと条件Dの応力除去材では,組織の変化は観察されなかった(Fig. 3(a),Fig. 3(d)).さらに950℃で2 hの熱処理し,水冷すると,条件Bで作製した試料の組織は大きく変化した(Fig. 3(b)).マルテンサイト組織は消失し,α相とβ相が粗大化して板状となり,最終的にウィドマンシュテッテン組織となった.うろこ状パターン近傍の組織をFig. 4に示す.うろこ状パターンの境界に沿って,約10 µmの大きさの等軸α相が形成されている.条件Dで作製した試料では,応力除去処理材および熱処理材の組織に大きな変化は見られなかったが,Fig. 3(e)に示すように,950℃の熱処理後にα相およびβ相の厚みがわずかに厚くなった.また,EDSを用いて相の組成を測定したが,SLMまま材の相組成と比較して,応力除去処理材および熱処理材に明確な差は認められなかった.条件Bで作製した試料のHIP処理後,Fig. 3(c)に示すように,ウィドマンシュテッテン組織内に10 µmかそれ以上の大きさの等軸α相が形成された.しかし,条件Dで作製した試料のHIP処理後には,等軸α相は形成されず,α相の粗大化も観察されなかった(Fig. 3(f)).

Fig. 3

Backscattered electron images of SLM samples fabricated under (a)-(c) condition set B and (d)-(f) condition set D. The specimens shown in (a) and (d) were heat treated at 650℃ for 3 h followed by air cooling (strain-removal heat treatment). The specimens shown in (b) and (e) were heat treated at 950℃ for 2 h followed by water quenching after the strain-removal heat treatment. The specimens shown in (c) and (f) were HIPed at 950℃ under 103 MPa for 2 h after they were prepared by SLM.

Fig. 4

Backscattered electron images of samples prepared by SLM under condition set B, subjected to the strain-removal heat treatment at 650℃ for 3 h followed by air cooling, and then heat treated at 950℃ for 2 h: (a) low magnification and (b) high magnification.

α相は界面エネルギーが高い15°以上の高角度,粒界で優先的に核生成する傾向があるために,等軸α相が形成すると説明されている[21, 22].うろこ状パターンの境界は,高角度の旧β粒界に対応し,等軸α相は,うろこ状パターンの境界で優先的に形成される[21].等軸α相が高角度の境界で優先的に形成されるのであれば,凝固したβ粒の結晶方位はランダムであり,β粒は高角度の粒界を形成するため,条件Dで作製された試料においても等軸α相が形成されるはずである.

等軸α相の形成は,SLM中に導入された応力が試料内部にひずみを生じさせ,等軸α相の核生成につながることでも説明できる.鍛造材にα相とβ相の等軸相を形成するには激しい変形が必要であることはよく知られているが,これは導入されたひずみがα相とβ相の再結晶を誘発するためである[5].SLMまま材,応力除去処理材,および熱処理材の残留ひずみをEBSDを用いて調査した.Fig. 5は,残留ひずみを表すカーネル平均方位差(Kernel Average Misorientation, KAM)の分布を示す.条件Bで作製した試料では,SLMまま材と応力除去処理材のKAMの分布は重なっていた.一方,熱処理材のKAMの分布は,積層造形材と応力除去処理材のKAMの分布と比較して,より低い方位角へシフトしていた.これらの結果は,SLMによって導入された残留ひずみが応力除去処理後も残存し,950℃の熱処理後に除去されたことを示している.したがって,条件Bで作製した試料における等軸α相の形成は,SLM中に導入された残留ひずみによるものであり,残留ひずみは950℃の熱処理中に除去された.

Fig. 5

Residual strain of samples fabricated under SLM condition sets (a) B and (b) D.

条件Bで作製した試料にHIP処理を施すと,等軸α相が形成された(Fig. 3(c)).SLMまま材を熱処理温度(950℃)に近い954℃で直接HIP処理したため,SLM中に導入された歪みによって等軸α相が核生成した.

3.1.2 鍛造材の組織

SLM材の組織と比較するため,鍛造材の組織も観察した.950℃で3 hの熱処理後,空冷すると,等軸α相と等軸粒内のα/β層状構造からなる典型的なバイモーダル組織が観察された(Fig. 6(a)).粒径は約10 µm,等軸α相の面積率(Sα)は45%であった.鍛造材では,SLM材よりも粒径が小さかった.等軸α相の体積分率は,熱処理温度における平衡分率に支配されていた.しかし,SLM材の粒径は,SLM条件によって制御された溶融池からの凝固プロセスに支配される.熱処理温度を980℃まで上昇させると,結晶粒は約800 µmまで急激に成長し(Fig. 6(b)),結晶粒内に微細なα/β層状構造が形成された.この組織変化は,β-transus温度が950-980℃であることを示している.

Fig. 6

Backscattered electron images of the samples forged and rolled at 900℃ and then heat treated at (a) 950℃ for 3 h and (b) 980℃ for 3 h, followed by air cooling.

3.2 積層造形中に導入される気孔

気孔は,レーザー照射によるエネルギー密度が低い場合に溶融が不十分になったり,エネルギー密度が過大になり溶融池の流れが活発になると周囲ガスが巻き込まれたりするために,SLM中に生じることが知られている[18, 23].気孔は試料の力学特性に影響するため,X線CTを用いて条件Bおよび条件Dで作製した試料の気孔率を調べた(Table 3).積層造形材の多孔率は0.1-0.2%であった.条件Dで作製した試料の場合,気孔率は応力除去処理と熱処理によって減少した.しかし,条件Bで作製した試料に対する950℃の熱処理の効果は不明であった.測定場所によって気孔の体積率が変化したものと推測される.条件Dで作製した試料の結果から,熱処理は気孔率を低下させる傾向があることが示唆された.また,条件Bと条件Dで作製した試料に対して,HIP処理は明らかに気孔除去に有効であった.

Table 3 Volume fraction of pores induced during SLM.


3.3 圧縮強度

SLMまま材の0.2%耐力をFig. 7に示す.最も冷却速度が速い条件Cで作製した試料は,他の条件で作製した試料よりも高い強度を示した.0.2%耐力は,条件Cから条件Aへと冷却速度が低下するにつれて低下し,条件Dで作製した試料の強度は,SLM材の中で最も低かった.強度の違いの要因は2つあると考えられる.1つ目は,条件A,条件B,条件Cで作製した試料の粒径が100 µmであり,条件Dで作製した試料の粒径の300 µmよりも小さいことから,強度が高いことがわかる.2つ目は,条件A,条件B,条件Cで作製した試料の組織は,条件Dで作製した試料の組織よりも微細である.条件A,条件B,条件Cで作製した試料では,マルテンサイト組織の界面が転位の動きを妨げている.一般に,微細組織は転位運動を妨げる傾向がある.しかし,条件Dで作製した試料では,層状組織が形成され,組織が粗くなることにより,転位運動阻害の影響が減少した.

Fig. 7

The 0.2% proof stress of as-prepared samples prepared by SLM under condition sets A to D.

Fig. 7に,バイモーダル組織と層状組織を持つ鍛造材の強度を示す.鍛造材の強度は,積層造形材よりも低かった.鍛造材の層状組織と,条件DのSLM材の層状組織を比較すると,強度に及ぼす結晶粒径の影響が明らかである.条件Dで作製した試料の粒径は約300 µm,鍛造材の粒径は約500 µmである.粒径が小さいほど強度が高い.バイモーダル組織は,粒径が10 µmと小さいにもかかわらず,試験した試料の中で最も低い強度を示した.α相の固溶強化元素であるAlは,α + β二相領域[5]での熱処理中に,等軸α相中に分配する.その結果,冷却中にβ相から形成される層状組織内のα相は,固溶強化元素(すなわちAl)が十分でなく,その層状組織の強度は他の試料よりも低かった.耐熱α + β Ti合金を設計するためには,等軸α相の体積分率を可能な限り低減する必要がある[5, 24].バイモーダル組織では,等軸α相の面積率が45%であり,固溶強化元素であるAlは層状組織中のα相に分配されないと考えられ,その結果,バイモーダル組織の試料は試験した試料の中で最も低い強度を示した.

次に,条件Bおよび条件Dで作製した試料の0.2%耐力に及ぼす熱処理の影響を調べた.その結果を,層状組織を有する鍛造材の強度とともにFig. 8に示す.条件Bで作製した試料(Fig. 8(a))では,SLMまま材と応力除去処理材の強度が最も高く,試験温度範囲ではほぼ同じであった.しかし,0.2%耐力は,950℃で2 hの熱処理後,組織がマルテンサイト組織からウィドマンシュテッテン組織に変化し,転位の運動を妨げる障害物の数が減少したため低下した.この組織変化に加えて,熱処理中に粒径10 µmの等軸α相が形成した.バイモーダル組織で観察されたように,等軸α相の形成は,層状組織へのAlの分配が不十分であるため,強度を低下させる.0.2%耐力はHIP処理材で大幅に低下した.HIP処理材では,粒径が10 µmを超える大きな等軸α相が形成された.この大きな等軸α相は,Alの層状構造への分配を阻害し,その結果,他のSLM材に比べて強度が低下した.一方,条件Dで作製した試料では,熱処理やHIP処理によって等軸α相が形成されず,α相の粗大化がわずかに観察されたものの,組織変化が十分に小さかったため,強度に対する熱処理の影響は小さかった(Fig. 8(b)).

Fig. 8

The 0.2% proof stress of samples prepared by SLM under condition sets (a) B and (b) D and then heat treated or HIP treated.

鍛造材の層状組織の強度は,熱処理やHIP処理したSLM材よりも低かった.Fig. 7に示すように,この影響は鍛造材の粒径が大きいことに起因する.

3.4 クリープ特性

室温での力学特性と異なり,高温での力学特性は拡散を伴い,降伏応力以下の応力でも時間依存性の変形(クリープ変形)を引き起こす.クリープ試験は,137 MPaの負荷応力下,試験温度600℃で実施した.クリープ試験は,条件Bおよび条件Dで作製した試料の応力除去処理後950℃で2 h熱処理した試験片,およびHIP処理した試験片で実施した.比較のため,バイモーダル組織を有する鍛造材でクリープ試験を実施した.クリープ試験から得られた時間-ひずみおよび時間-ひずみ速度曲線をFig. 9に示す.Fig. 9から得られたクリープ破断時間と最小クリープ速度をTable 4にまとめる.

Fig. 9

(a) Creep curves and (b) strain rate-time curves of the SLM samples prepared under condition sets B and D and then heat treated or HIP-treated; the curves for the forged sample with a bimodal structure are also shown.

Table 4 Rupture time and minimum strain rate of SLM and forged samples.


Fig. 9Table 4の結果から,SLM熱処理材の破断寿命は120-1500 h以上であり,バイモーダル構造の鍛造材よりも長かった.破断寿命は,粒径が大きくなるにつれて増加し,バイモーダル組織では10 µmであったが,条件Bおよび条件Dで作製したSLM熱処理材では,それぞれ100 µmおよび300 µmであった.最小クリープ速度は,条件Bで作製した試料で10−7 s−1,条件Dで作製した試料で10−8 s−1のオーダーであった.参考までに,1010℃で3 h熱処理後,炉冷した粒径800 µmの鍛造材の層状組織のクリープ曲線もFig. 9(a)[25]に示す.クリープ破断寿命は4000 h以上,クリープひずみ速度は10−9 s−1であった(Table 4).この結果から,600℃,137 MPaの負荷応力で試験した試料のクリープ寿命は,結晶粒径に依存することがわかる.

材料のクリープ変形機構は,試験温度,負荷応力,粒径[26, 27]に依存することが知られている.先行研究では,粒径が100-500 µmのTi合金試料について,600℃におけるクリープ変形機構が,負荷応力が200 MPa未満では転位すべりを伴う粒界すべり,負荷応力が200 MPaを超えると転位すべりに変化することを見出した[28].先行研究によると,600℃,137 MPaのクリープ条件では,粒界すべりが支配的な変形機構であり,転位すべりも発生する[29, 30].クリープひずみ速度はd−2に比例する.ここで,dは粒径である.したがって,粒径が小さいとクリープひずみ速度は急激に増加する.本研究では,バイモーダル組織を有する鍛造材の粒径は10 µmであり,他の試料よりも小さいため,鍛造材の破壊寿命は短くなった.しかし,条件Bと条件Dで作製した,粒径がそれぞれ100 µmと300 µmである試料では,粒界すべりの影響が減少した.条件Dで作製した試料のクリープ寿命が,バイモーダル組織の試料や条件Bで作製した積層造形材のクリープ寿命よりも長いことは妥当である.条件Bで作製した試料では,等軸α相の形成が,層状組織のα相におけるAlの分配を妨げている.Table 3にまとめたX線CTの結果は,HIP処理によって気孔が消失したことを示している.試験片の内部気孔が除去されたことにより,破断寿命が大幅に向上し,最小クリープ速度が大きく低下した.

鍛造および熱処理中に形成される結晶粒の大きさは,熱処理温度によって決まる.α + βの二相領域で熱処理した場合,結晶粒の大きさは10-100 µm程度であるが,β相領域で熱処理した場合,結晶粒は500 µm以上に急激に大きくなる.鍛造で100-500 µmの範囲の結晶粒を生成するのは難しい.しかし,積層造形では,結晶粒径は溶融池の大きさに関係し,積層条件によって制御することができる.その結果,適度な大きさの結晶粒を得ることができる.ジェットエンジン用途の耐熱Ti合金には,疲労特性とクリープ特性の両方が要求される.一般に,結晶粒径の小さい合金は良好な疲労特性を示す.したがって,積層造形は,中程度の粒径を持つ適切な微細組織を生成することが可能であり,その結果,良好なクリープ特性と疲労特性のバランスが得られると考えられる.

4. 結論

Ti-6Al-4Vと同様にα安定化合金であるTi-6Al-4Nb-4Zr(mass%)を様々なSLM条件で作製し,様々な熱処理を施した試料の組織変化と機械的性質を調べた.

(1) 急冷により溶融池に関連したうろこ状組織とその中にマルテンサイト組織が形成した.一方,SLM後に徐冷すると,うろこ状組織は得られず,α/β層状組織が形成された.

(2) 応力除去処理後,組織はマクロレベルでは変化しなかった.

(3) 950℃,2 hの熱処理後,水冷するとマルテンサイト組織がウィドマンシュテッテン組織に変化した.また,うろこ状界面に等軸α相が形成した.徐冷中に形成された層状組織は,熱処理後も変化しなかった.

(4) SLM後の冷却速度を上げると,より高い圧縮強度が得られた.SLMまま材および熱処理材の強度は,調査した試験温度において,バイモーダル組織または層状組織を有する鍛造材の強度よりも高かった.圧縮強度は微細組織に支配され,SLM材の組織は鍛造材の組織よりも微細であった.

(5) 粒界すべりが起こる600℃,137 MPaにおけるクリープ寿命は,粒径(すなわち積層造形における溶融池径)に依存した.SLMでは少量の気孔が導入されたが,HIPにより解消された.HIP処理した試料のクリープ寿命は,HIP処理しなかった試料よりも長く,適切なクリープ特性を得るためには,微小気孔を除去することが重要であることが示された.

本研究の一部は科研費基盤研究A領域21H05198および軽金属奨学会の助成を受けた.Ti-6Al-4Nb-4Zrのインゴットおよび鍛造試料の作製にご協力いただいた(国研)物質・材料研究機構の岩崎智氏,飯田一彦氏,小林正樹氏に感謝する.また,CT-X線分析測定にご協力いただいた(国研)物質・材料研究機構の竹之内暁子氏に感謝する.

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