日本救急医学会雑誌
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症例報告
小腸壊死に至った塩化カルシウム中毒の1例
島田 忠長平山 陽中西 加寿也奥 怜子
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2009 年 20 巻 9 号 p. 781-786

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抄録

症例は79歳の女性。家族の留守中に除湿剤約100mlを誤飲した。家族が帰宅し,除湿剤を服用した痕跡を発見したため,服用から約2時間30分後に救急外来を受診した。既往歴は4年前に胃癌にて胃全摘術を施行しており,また認知症のため意思の疎通は普段から困難であった。来院時の意識レベルは認知症のため正確には評価困難であったが,Glasgow Coma ScaleでE1V3M5,血圧127/77mmHg,脈拍120/min,呼吸数12/min,体温35.4°C,自覚症状はとくに訴えていなかった。来院時の血液検査上,白血球数の上昇,代謝性アシドーシス,高カルシウム血症,CPK,Clの軽度上昇の他は,大きな異常を認めなかった。急性塩化カルシウム中毒の診断で入院とし,輸液及び炭酸水素ナトリウムによるアシドーシスの補正を開始した。しかしながら,翌日夕方に腹痛・血便が出現,血圧低下を来し,腹部全体に圧痛・筋性防御を認めた。腹部超音波・CT上大量の腹水を認めた。腹部の試験穿刺を施行したところ,混濁した異臭のある腹水であったことから,消化管穿孔を疑い緊急開腹術となった。術中所見では小腸の広範囲な壊死を認めるも,明らかな穿孔はなく,小腸部分切除及び腹腔洗浄ドレナージ術を施行し,集中治療室に入室となった。術後,播種性血管内凝固症候群,腎機能障害を合併したものの徐々に改善し,第8病日一般病棟へ転棟,第33病日退院となった。塩化カルシウムは比較的安全性が高いとの認識から除湿剤等に多用されており,通常苦味が強く,たとえ誤飲しても少量で済むとされているため,中毒として重篤な症状を呈するものは稀である。しかし,状況によっては重篤な消化管傷害を来し,致死的となる可能性もあるため注意を要すると考えられた。

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© 2009 日本救急医学会
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