日本救急医学会雑誌
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症例報告
ウォータースポーツ外傷による食道穿孔の1例
細見 早苗山下 好人森本 純也林下 浩士池原 照幸
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2012 年 23 巻 2 号 p. 59-64

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抄録

鈍的外傷による食道穿孔は稀であり,受傷直後では特異的な症状・所見を認めることは少ない。今回,ウォータースポーツ中の転倒による受傷で食道穿孔を起こし,食道亜全摘にまで至った1例を経験したので報告する。症例は30代の女性。ウォータースポーツ中に前胸部を水面に強打した。近医に救急搬送されたが明らかな異常所見はなく全身打撲の診断で帰宅となった。受傷後2日目から3日目にかけて喉の違和感を認めたため自身の指で催吐を繰り返した。受傷5日目から頸部・背部痛の悪化を主訴に前医を受診した。受傷6日目に撮影した胸部CTにて上縦隔気腫と右膿胸を認め,当センターに紹介となった。来院時,頸部に全周性の発赤,圧痛および著しい腫脹を認めた。咽後膿瘍,上縦隔膿瘍による敗血症と診断し,胸腔鏡下縦隔ドレナージ術および気管切開術を施行した。術後,ドレーン排液の改善が認められないため,消化器外科にコンサルトし,受傷9日目に上部消化管内視鏡を施行した。胸部上部食道に数か所のpin holeの瘻孔を認めたため,食道穿孔の診断にて緊急手術を施行した。穿孔部周囲の食道は全層で壊死しており頸部食道にも感染が拡がっていたため,食道亜全摘術および食道瘻造設を行うことになった。術後は上行性の咽後膿瘍を来したもののドレナージ術にて軽快し,受傷20日目にリハビリ目的に転院となった。気切チューブを抜去したのち,受傷83日目に胃管による食道再建術を行った。鈍的外傷による食道穿孔は縦隔炎となるまで症状に乏しいが,治療が遅れると重篤な転帰をとるため,早期発見および早期診断が極めて重要となる。急激な食道内圧の上昇が起こるような胸部外傷の際には食道穿孔を鑑別診断におくべきと考えられた。

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