2012 年 23 巻 3 号 p. 109-115
症例は10歳代の男性。階段で足を滑らせ転落してショーケースに突っ込んで受傷した。ガラス片が胸骨付近に刺さり当救命救急センターに搬送された。病着時,意識レベルJCS-10,血圧80mmHg/,心拍数130回/分,右肺呼吸音が減弱。静脈ラインを確保し急速輸液を施行した。心エコーでは心嚢液の貯留は認めず,ポータブルXpで右大量血胸を認め胸腔ドレナージを施行。同時に気管挿管を施行した。胸腔ドレーンからは挿入時に1,700mlの血液が排液された。輸液,輸血にresponseを認めたため胸腹部造影CTを撮影した。初療室に戻ると再度ショックに陥り開胸止血術を決断した。刺入部から右前側方開胸を施行して胸腔内を覗くと心膜より血液の噴出を確認でき,右房損傷と判断し,引き続き胸骨横断clamshell開胸とした。右房損傷部に示指を挿入すると止血され,サティンスキー鉗子で創周囲をクランプした。損傷部を縫合し,更に心膜を縫合して閉胸した。経過は良好で第15病日に独歩退院した。本症例は2cmの心膜損傷を伴い,IIIb型の右房損傷(日本外傷学会臓器損傷分類2008)と診断した。心タンポナーデには陥らない経過を辿りつつ,胸腔への漏れ出しも緩徐な血胸型であったという条件が重なり合って非CPAで病着し得た。鋭的損傷では引き続いての外傷診療チームによる迅速な初療・止血術の遂行が救命の鍵である。