日本救急医学会雑誌
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症例報告
アクリルアミドによる急性中毒の1例
朱 祐珍渥美 生弘瀬尾 龍太郎林 卓郎水 大介有吉 孝一佐藤 愼一
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2012 年 23 巻 7 号 p. 304-308

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抄録

アクリルアミドは様々な用途で使用されるが,長期の曝露によって末梢神経障害を主症状とする慢性中毒を起こすことが知られている。今回我々は,アクリルアミドによる急性中毒を来した症例を経験したので報告する。症例は23歳の男性。自室にて自殺目的にアクリルアミドを水に溶かした溶液を内服し,嘔吐を認めたため救急外来を受診した。来院時意識清明,血圧117/53mmHg,脈拍数101/分,SpO2 99%(室内空気下),呼吸数24/分,体温36.7℃であった。身体所見や血液検査では異常を認めず,輸液にて経過観察をしていたところ,内服8時間後より徐々に不穏状態となった。その後も幻視や幻聴などの中枢神経症状が持続するため緊急入院となった。内服9時間後より全身の硬直,著明な発汗が出現し,内服11時間後より乳酸値の上昇,血圧低下を認めた。輸液負荷を行ったが反応せず,カテコラミンを投与し気管挿管を行った。その後も循環動態は安定せず,肝機能障害,腎機能障害が出現し,血液透析を施行したが,血圧が保てず約1時間で中止した。乳酸値の上昇から腸管虚血を疑い造影CTを施行したところ,著明な腸管壁の浮腫と少量の腹水を認めた。腸管壊死の可能性はあるが,全身状態から外科的処置は困難と判断した。その後も乳酸値の上昇,血圧低下,全身痙攣が続き,アクリルアミド内服40時間後に永眠された。アクリルアミドによる慢性中毒や亜急性中毒の報告はあるが,今回の症例のように急性中毒による劇的な経過で死に至った例は少ない。内服後数時間は症状が出現せず重症化を予測しにくいが,その後劇的な経過で死に至る場合があるため,慎重な経過観察が必要と考えられた。

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