2013 年 24 巻 7 号 p. 420-424
頸部壊死性筋膜炎のため開放創内に気管切開孔を必要とした症例に対し,創全体を陰圧閉鎖することで良好な経過が得られた。症例は63歳の男性。受診4日前より嚥下痛を自覚し,増悪したため前医を受診した。右頸部膿瘍の治療のため当院へ転院搬送となった。来院時,努力様呼吸,ショックを呈しており,気管挿管の後,緊急手術を実施した。第6病日よりVacuum Assisted Closure®(V.A.C.®)ATS治療システム(KCI社,米国)を用いた局所陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy: NPWT)を開始した。NPWTを用いるにあたり,気管切開孔と気管切開チューブにわずかな間隙があり,良好な陰圧が形成されないかと危惧されたが,気管切開チューブ周囲を密閉する形でグラニューフォームを敷き詰め,気管切開チューブのネックフランジとともにフィルムで覆うことで陰圧形成が可能となった。本症例は創部と気管切開孔が交通しており,両者間の汚染も危惧されたが,NPWTを用いることで浸出液が創部に貯留することなく,感染の拡大を予防することができた。効果的に創部ドレナージがなされ,第56病日に右大胸筋皮弁を用いて頸部を再建し,皮膚欠損部に対しては分層網状植皮術を行った。本症例で用いたNPWTの工夫は,気管切開を必要とする頸部壊死性筋膜炎の開放創に対するNPWTの適応を拡大するにあたり有意義である。