日本救急医学会雑誌
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症例報告
炭酸リチウムおよびバルプロ酸ナトリウム徐放剤を大量服用し,持続的血液濾過透析により救命した1例
三谷 知之間藤 卓松枝 秀世大井 秀則山口 充中田 一之輿水 健治
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2013 年 24 巻 7 号 p. 425-430

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抄録

患者は22歳の女性。既往に躁うつ病があり,自殺目的に近医からの処方薬を過量服用した(炭酸リチウム,バルプロ酸など)。入院時,意識レベルがJCS II-30と低下している以外は異常なく胃洗浄と活性炭の投与を行った。その後血圧低下と多尿,高アンモニア血症を認めた。多尿は炭酸リチウムによる尿崩症と考えた。バルプロ酸血中濃度は190.2μg/dl,リチウムの血中濃度が1.11mEq/lであることから,持続的血液濾過透析を開始した。さらにlactulose,levocarnitine chloride懸濁液も併用した。24時間で持続的血液濾過透析は中止し,その後の悪化は認められず,第6病日に軽快退院となった。炭酸リチウムの過量服用では致死的な不整脈を起こして死に至ることがある。本症例は,炭酸リチウムの長期服用に加えて過量服用した。さらにバルプロ酸の過量服用は脳浮腫などを来し,加えて高アンモニア血症を併発して致命的になることがある。本症例の血中濃度は高値であった。炭酸リチウムは蛋白結合率が低く,バルプロ酸も過量服用においては蛋白結合率が低下する。そのため持続的血液濾過透析を施行し良好な経過を得た。本症例のバルプロ酸は徐放製剤であり,体内への吸収や血中濃度,蛋白結合率がどのように推移するのかを予想するのは困難であった。結局,経時的に血中濃度を測定し,治療方針を決定した。血中濃度の推移は,通常のバルプロ酸製剤と大きな違いはなかった。重症の経過を辿る可能性が高い複数の薬剤による中毒は,中毒症状の複雑化に加え,治療法の優先度や選択に苦慮する。複雑な薬物中毒に対応するためには経時的かつ迅速な毒物・薬物分析と血中濃度測定の体制が不可欠であると思われる。

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