抄録
症例は61歳の女性。糖尿病に対して経口血糖降下薬で治療中であった。食思不振が3週間続いた後に昏睡状態で発見され,当救命救急センターに救急搬送された。来院時,血糖値24mg/dLであった。50%ブドウ糖液40mLの投与により意識レベルは速やかに改善したが,心電図にてII,III,aVF誘導にST上昇を認め,心エコー検査で心尖部の広範囲な壁運動低下がみられた。また血液検査上,クレアチンキナーゼMBと心筋トロポニンIは上昇していたが軽度であった。初回心電図のII,III,aVF誘導で認められたST上昇は1時間後には軽減し,3時間後には,II,aVF,V6誘導で陰性T波が出現した。急性冠症候群を否定するために緊急心臓カテーテル検査を行った。 左室造影で心尖部と下壁の運動低下を認めたが,冠動脈に有意狭窄は認めず,たこつぼ型心筋障害と診断した。その後は経過良好で,心電図上II・III・aVF,V5-6誘導に陰性T波は残存するものの,第7病日には心エコー検査で壁運動の正常化を認め転院となった。低血糖性昏睡を契機とした,たこつぼ型心筋障害の報告は少ない。食思不振後の低血糖性昏睡後に心電図異常がみられる場合は,たこつぼ型心筋障害も鑑別する必要がある。