日本救急医学会雑誌
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外傷性腸管破裂症例の術後水分移動における抗利尿ホルモンならびにサイトカインの関与
澤野 誠
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1999 年 10 巻 12 号 p. 707-716

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抄録

目的:著者は以前,外傷性小腸破裂症例のうち受傷から手術まで6時間を超える群(Late群)では,6時間以下の群(Early群)と比較して利尿期への移行が遅れることを報告した(日救急医会誌1997; 8: 145-60)。その機序を抗利尿ホルモン(ADH)およびIL-1β, IL,-6の関与の観点から明らかにすることを目的とした。対象:都立墨東病院救命救急センターに入院した外傷性小腸破裂症例15例について1時間ごとの水分バランスおよびADHの術後変動を,9例についてIL-1βおよびIL-6の術後変動を測定した。結果:(1) ADHは術直後より指数関数曲線に沿って低下し,半減期にはLate群とEarly群との間の有意差はなかった。(2)手術から利尿期までの時間(Td)と手術からADHが基準範囲に低下するまでの時間(TADH)との間の回帰式は,Td=0.982TADH+0.094(r=0.972)と,TADHとTdとはほぼ一致した。(3)術直後のADHは,Early群30.0±19.8, Late群96.3±30.8pg/mlとLate群において有意に高値であった。(4)術直後のIL-1βは,Early群18.2±5.81, Late群16.3±7.77pg/mlと,有意差はなかった。(5)術直後のIL-6は,Early群では198±127, Late群2,710±1,200pg/mlと,Late群において有意に高値であった。考察:外傷性小腸破裂症例において利尿期へ移行する時期は,ADHが基準範囲まで低下する時期に一致すると考えられた。Late群では長時間持続する腹膜炎刺激により手術時のIL-6の血中濃度が上昇する。その結果,術直後のADHの血中濃度が高値となり,それが基準範囲に低下するまで長時間を要するため,利尿期への移行が遅れると説明される。

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