1999 年 10 巻 2 号 p. 81-90
病院到着前に心停止となった急性心筋梗塞(AMI)症例の臨床的特徴を,蘇生に成功した症例をもとに検討した。対象と方法:1985年11月から1996年8月までの10年9ヵ月に搬入され,蘇生に成功した内因性院外心肺停止(OHCPA)症例257例のうち,AMIと確診した47例(18.3%-CPA群)を対象とし,同期間に発症24時間以内の生存入院したAMI651例(nonCPA群)と比較した。結果:CPA群のAMI発症はnonCPA群と同様の日内変動を示し,時刻は午前10時から12時と午後8時から12時に多かった。CPA群の72%の症例が,自宅で心停止を起こしていた。71%の症例はAMI発症から1時間以内に,残る29%は1時間以上経過し搬入された。搬入時自己心拍の再開はなく,心室細動が19例(40%),電導収縮解離が10例(21%),心静止が18例(38%)にみられた。CPA群はnonCPA群に比べ急性前壁中隔梗塞の発症が多く(72% vs 53%, p=0.016),心筋梗塞の既往をもち(32% vs 12%, p=0.0002),梗塞前狭心症を有していた(57% vs 29%, p=0.0003)。64%が虚血性心疾患により医師の管理下にあった。喫煙者は40%でnonCPA群の59%より少なかった(p=0.01)。来院時胸部X線写真で,CPA群に肺うっ血像を示す症例が多かった(17% vs 6.5%, p=0.015)。13例の冠動脈造影では全例に責任冠動脈の近位部に閉塞が認められ,剖検の2例と他院での冠動脈検査5例の計20例から,50%が多枝病変,25%が左主幹部病変であった。bystander CPR施行6例中4例(66%)が,bystander CPR非施行41例中3例(7%)が社会復帰した(p=0.006)。心室細動が質の問わない生存と相関があった(60% vs 26%, p=0.049)。結論:AMI後に急性心停止する危険性が高いのは,心筋梗塞症の既往と梗塞前狭心症があり,冠動脈に多枝病変あるいは左主幹部病変が認められ,急性の前壁中隔梗塞を発症した症例と考えられた。急性心停止の病態として,17%の症例にポンプ失調の関与が示唆された。bystander CPRの施行と心室細動は良好な転帰につながる可能性が高いと考えられた。