日本救急医学会雑誌
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腹部外傷におけるabdominal compartment syndrome (ACS)の治療戦略
新井 正徳増野 智彦登坂 直規原田 尚重久志本 成樹小井土 雄一山本 保博
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2002 年 13 巻 6 号 p. 289-294

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抄録

背景:abdominal compartment syndrome(以下ACSと略す)は急激な腹腔内圧上昇に伴い,呼吸,循環障害や乏尿となり,放置した場合multiple organ failure(以下MOFと略す)から死に至る病態である。診断は,膀胱内圧(以下IBPと略す)の測定によって得られ,治療は積極的輸液負荷と腹壁の減圧である。本邦でもdamage control(以下DCと略す)の概念が受け入れられるようになり,近年ACSの報告例がみられるようになってきたが,その数はまだ少ない。今回,当施設でのACSの頻度,背景因子,IBPと臓器障害との関係をretrospectiveに検討し,その対策について考察した。対象と方法:1996年4月~1999年3月までに当救命センター入院となった外傷症例のうち,緊急開腹術が施行され,ICU帰室後,ACSを来した症例について検討した。ACSの定義はIBP>15mmHgで以下のうち少なくともひとつを満たすものとした。(1) 尿量<0.5ml/kg/hr, (2) peak airway pressure>40cmH2O, (3) central venous pressure(以下CVPと略す)>12mmHgかつ収縮期血圧<80mmHg。結果:3年間に経験した外傷症例は1150例であり,緊急開腹術を111例に施行した。DCを要した症例は20例であり,このうちACSを来した症例は4例であった。全例鈍的外傷で,平均ISSは31.8であった。初回手術から腹壁減圧までの時間は平均16.8時間で,3例で24時間以内に減圧せざるを得なかった。ACSの予後は,全例死亡であり,減圧時心停止と腸管壊死を2例に認め,48時間以内の早期死亡例は3例であった。結語:ACSの頻度は,DCを施行した症例では20%であり,ハイリスクの認識が必要と考えられた。ACSの予後はきわめて不良であり,初回手術直後からIBPを経時的に測定し,減圧の時期を逸しないことが重要と考えられた。

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