日本救急医学会雑誌
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救命救急センターにおける20世紀末のクモ膜下出血治療の変遷と治療成績
畝本 恭子直江 康孝横田 裕行黒川 顕山本 保博
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2003 年 14 巻 4 号 p. 187-198

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抄録

救命救急センターにおける20世紀末のくも膜下出血急性期治療の記録として,1996年1月より2000年12月までの5年間の115症例(後期群)について検討し,さらに5年前の1991年1月から1995年12月まで(前期群)の治療成績と比較することにより,治療の変遷とその影響について考察した。重症度評価としてWorld Federation of Neurological Surgeons (WFNS) gradeを用いた。重症度は,前期,後期群ともgrade IV, Vが77.4%, 73.0%と多く,母集団としては一般の脳神経外科施設にくらべ重症例に偏っていた。根治手術の対象となったのは,前期群では40.3%であったのに対し,後期群では69.5%であった。これは主として前期群では失われていたgrade V症例に対する手術の増加によるものであり,また,前期では軽症例の27例中9例が術前の再破裂で失われたが,後期では30例中2例に留まったことも関与した。われわれはこの5年間に重症例の治療成績を改善する対策として,可及的早期の動脈瘤クリッピング術のほかに血管内治療(動脈瘤塞栓術,血管攣縮に対する血管形成術),および周術期の持続脳低温療法を導入した。全症例に関しての転帰には有意な改善がみられたが,手術成績については改善傾向はあるものの統計学的有意差は得られず,これらの治療の影響は明らかにならなかった。転帰改善に寄与した事項として,来院直後からの再出血予防と脳保護を目的とした術前鎮静と呼吸循環管理の徹底により,再出血による軽症例の喪失を減じたこと,重症例にも積極的に根治術を行うことにより,手術適応を拡大したことがあげられた。来院早期での重症度評価と直後からの鎮静は,見掛け上重症だが自然歴で改善する症例の過剰評価や,最重症で治療無効例の混在など,治療成績評価に影響することも考えられるが,救いうる貴重な症例を再破裂で失わないためには今後も必要な処置と考えられた。

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