日本救急医学会雑誌
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外傷患者の深部静脈血栓症予防策に関するアンケート調査
須山 豪通金子 高太郎安達 普至森川 真吾河野 安宣田中 祥子石原 晋
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2004 年 15 巻 11 号 p. 605-611

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抄録

肺血栓塞栓症(PTE)は従来本邦では頻度が少ないと思われていたが,生活様式の欧米化によってその頻度が増える傾向にある。2002年に示されたEAST (Eastern Association for the Surgery of Trauma)治療ガイドラインワークグループによる外傷患者における静脈血栓塞栓症(VTE)予防のための治療ガイドラインでは頭部外傷患者を除く出血のリスクが許容できるハイリスクのすべての外傷患者に低分子ヘパリン(LMWH)の使用を強く考慮すべきとしている。本邦における外傷患者に対するVTE予防法の現状を知るために,全国の救命救急センター及び救急指導施設に対してアンケート調査を行った。対象は全国の救命救急センターおよび日本救急医学会指導医指定施設(175施設)で,調査内容はVTEの経験の有無,基準を設けたVTE予防の有無,その基準と予防法とした。有効回答率は39%。回答施設の内,VTEの経験があったのは57.4%。基準を設けたVTE予防法を行っていたのは44.1%,行っていなかったのが55.9%であった。VTE予防を行っていたのは,VTEの未経験施設のうち37.5%, VTEの経験施設のうち47.1%であった。ハイリスクグループの基準として挙げられているのは床上安静例(体位交換禁止)が82.1%,筋弛緩剤使用下の人工呼吸例が64.3%,下肢牽引例が53.6%。 VTE予防法としてはfoot pumpが最も多く75%で,次にヘパリンの使用25%であった。LMWHの使用は極めて少なかった。近年,本邦でもVTEの予防指針案が作成されているが,救命救急センターや日本救急医学会指導医指定施設においてもDVT/PTE予防の認識が不十分であった。骨盤骨折や多発外傷の患者はVTEの高リスクであり,積極的に抗凝固療法に取り組むべきである。LMWHをはじめとした抗凝固薬の使用を含めたガイドライン策定によるVTE予防策の普及啓発が必要と思われた。

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