日本救急医学会雑誌
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有機リン中毒症例における血漿コリンエステラーゼおよび赤血球アセチルコリンエステラーゼ回復過程の速度論的解析
白川 洋一塚本 郁子関 啓輔相引 眞幸飴野 清
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1991 年 2 巻 3 号 p. 621-629

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抄録

「低毒性」有機リン剤の急性中毒17例について,血漿コリンエステラーゼ(ChE)および赤血球アセチルコリンエステラーゼ(AChE,一部症例のみ)の活性の回復過程を速度論的に解析した。両酵素の活性回復は,初期に低値が続いたのち急速な立ち上がりから次第にプラトーへ移行する指数関数的経過をたどった。血漿酵素の低値期の長さは,fenitrothion中毒例でのみ臨床症状の重症度と相関し,他種の有機リン剤の中毒では重症度と無関係に3日以下となった。両酵素の回復期は,酵素の新生系のみを考慮したワンコンパートメントモデルで良好な回帰が得られ,そのT1/2の平均値は血漿ChEで11.3日,赤血球AChEでは26.7日であった。血漿ChE回復のT1/2は中毒の重症度と関連せず,製剤による違いもみられなかった。今回のデータからは,阻害された酵素の再生が酵素再上昇過程にどの程度関与しているかを分離できなかったが,比較的重症の有機リン中毒においては,(1)酵素または赤血球の新生が酵素活性回復の主役であり,(2)回復速度(T1/2)は中毒症状の指標となりにくく,(3)酵素阻害の動態に製剤による違いのあることが示唆された。

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