日本救急医学会雑誌
Online ISSN : 1883-3772
Print ISSN : 0915-924X
ISSN-L : 0915-924X
交通事故の実態調査とシートベルト着用の安全性に関する研究
加来 信雄恒吉 俊美最所 純平光岡 正純
著者情報
ジャーナル フリー

1994 年 5 巻 2 号 p. 137-147

詳細
抄録

交通事故の実態調査とシートベルト着用の安全性について,1992年の1年間に入院した交通事故による負傷者141例を対象に臨床医学的に分析した。救命例は108例(76.6%),死亡例は33例(23.4%)であった。事故類型別の死亡率は,自動車対自動車が18.6%,自動二輪車対自動車が29.6%,自転車対自動車が31.6%,歩行者対自動車が34.8%であった。車両衝突事故別では,正面衝突の死亡率19.5%に比べ側面衝突は27.3%であった。また,車内乗員別では,運転席乗員の死亡率10.9%に比べ助手席乗員の死亡率は54.5%で有意(p<0.01)に高かった。シートベルト着用,非着用が明らかなものは自動車対自動車の負傷者数59例中53例(89.8%)であった。そのなかで着用は11例(20.8%),非着用は42例(79.2%)で非着用が多かった。この両群間におけるAISおよびISSを検討した。その結果,シートベルト着用群の頭頸部のAISは1.8±1.1,胸部は2.0±0.9,非着用群はおのおの3.7±1.3, 3.2±1.2で,非着用群は着用群に比べて,頭頸部および胸部のAISが有意(p<0.005, p<0.05)に高かった。加えて,ISSは着用群13.9±10.7,非着用群25.8±13.4で非着用群の方が有意(p<0.01)に高かった。つぎに,シートベルト着用・救命群,着用・死亡群,非着用・死亡群について,頭頸部の着用・救命群のAISは2.0±1.2,着用・死亡群3.4±1.1,非着用・死亡群4.4±1.4であった。また,胸部の着用・死亡群のAISは2.8±1.1に対し,非着用・死亡群は4.3±0.8で,非着用・死亡群のAISは有意(p<0.01)に高かった。なお,3群間のISSにおいても有意差を認めた。すなわち,シートベルトを着用しなかった場合,頭頸部および胸部の損傷が高度で致死的になることが示され,シートベルト着用の安全性が認められた。

著者関連情報
© 日本救急医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top