日本救急医学会雑誌
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特発性食道破裂に関する臨床的検討
瀧島 常雅松崎 博行三重野 寛喜平田 光博前川 和彦柿田 章大和田 隆
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1994 年 5 巻 7 号 p. 663-672

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抄録

特発性食道破裂5例を検討した。全例が男性で,年齢は平均44.8歳であった。いずれも飲酒あるいは過食後の嘔吐に続発し,5例中4例が腹膜刺激症状を伴わない心窩部痛を主訴とした。前医において特発性食道破裂を診断あるいは疑診した症例は5例中3例であり,この3例は発症から平均9.0時間で当院へ転送された。前医にて肺炎やMallory-Weiss症候群と診断されていた症例は,発症から転送までに3日から6日を経過していた。胸部単純X線写真上,縦隔気腫を5例中4例で,胸水貯留を5例全例で,気胸を5例中3例で認めた。水溶性造影剤による食道造影(4例)と内視鏡検査(5例)で全例を診断し得た。全例を手術的に治療した。4例に破裂部の一次的縫合閉鎖術を施行し,このうちの1例に頸部食道瘻を造設した。術前の内視鏡検査で食道壁の広範な壊死性変化が確認されていた1例には,食道亜全摘術を施行した。発症から診断・治療までが長時間であった症例で胸水中細菌種が多かった(平均時間:単独菌種10.3時間vs複数菌種83.3時間)。頸部食道瘻造設例を除外した一次的縫合閉鎖術後の3例中2例に同部の縫合不全を合併した。死亡例は経験しなかった。嘔吐に続発して出現する腹膜刺激症状を伴わない心窩部痛に対しては,特発性食道破裂を考慮しての迅速な検索が望まれる。さらに,食道破裂に対する診断や治療の遅れは,検出される細菌種の増加や合併症率の増加に関係する可能性があり,早期の診断と治療が望まれる疾患である。

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