日本救急医学会雑誌
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心原性ショックおよび敗血症性ショックの血中甲状腺ホルモン動態の検討
松村 憲太郎中瀬 恵美子川合 一良小河 一夫
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1995 年 6 巻 3 号 p. 211-222

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抄録

心原性および敗血症性ショックで血中甲状腺ホルモンを測定し,視床下部-下垂体-甲状腺系の変化について検討した。また,ショックや慢性心不全を除いた一般心疾患群,急性心筋梗塞群,死戦期を含む慢性消耗性疾患末期群で甲状腺ホルモンを測定し,ショック群と比較することにより,ショック時の甲状腺ホルモン動態の特徴を明らかにした。急性心筋梗塞では低triiodothyronine(以下T3と略す)状態がしばしばみられ,血中thyroxine(以下T4と略す)およびthyroid-stimulating hormone(以下TSHと略す)低下の出現頻度は一般心疾患群に比し有意に高かった。心原性ショックでは血中T3 45±25ng/dl, T4 6.3±2.0μg/dlと著明に低下していた。敗血症性ショックや死戦期を含む慢性消耗性疾患末期も心原性ショック同様に甲状腺ホルモンの異常を示したが,血中T3は敗血症性ショックで25±15ng/dl,慢性消耗性疾患末期で33±25ng/dlと,心原性ショックよりさらに低下し,敗血症性ショックで最も低下していた。T4も敗血症性ショックで3.8±1.8μg/dlと最も低下していた。低T3状態はショックや慢性消耗性疾患末期のほとんどにみられた。敗血症性ショックでは低T4状態の出現頻度が76.7%と心原性ショックの33.3%に比し有意に高く,またTSHの低下も40%にみられ,多臓器不全(multiple organ failure,以下MOFと略す)を伴う敗血症性ショックでの下垂体-甲状腺フィードバック機構の破綻が示唆された。急性心筋梗塞における血中T3およびT4は予後と関係しており,死亡率はT3 50ng/dl未満で76.5%,低T4で70.6%,さらにT4 4.0μg/dl未満では全例死亡し,予後指標としてとくに血中T4値の有用性が示唆された。血中T3やT4は敗血症性ショックで最も低下し,低TSHの頻度も死戦期を含む慢性消耗性疾患の末期より有意に多く,一方,敗血症性ショックの死亡率が80%と高いことより,とくにT4やTSHの低下が死亡率と深く関係していることが推測された。

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