日本救急医学会雑誌
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大腸損傷に対する術式選択
全層性損傷に対するrisk factorよりの検討
大友 康裕益子 邦洋加藤 一良横田 裕行辺見 弘山本 保博大塚 敏文
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1995 年 6 巻 6 号 p. 631-640

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抄録

目的および方法:外傷性大腸穿孔に対して,一期的に修復するか人工肛門を造設するか,その選択に関してはなお議論の多いところである。今回過去18年間に当救命救急センターで大腸全層の修復を施行した49例を前期(1975~1984年)22例および後期(1985~1993年)27例に分け,retrospectiveに分析し,一期的修復の適応拡大の可能性および各risk factorの転帰に与える影響について検討した。結果:1) 前期,後期の平均ISSは,それぞれ23.1±11.7, 23.4±10.1であり,ほぼ同等の重症度であった。また受傷機転も鈍的損傷・刺創が,それぞれ前期11・10(銃創1),後期13・14であり,この点においてもほぼ同様の傾向にあった。2) 人工肛門造設症例は,前期12/22(55%),後期4/27(15%)と有意な(p<0.005)減少を示した。一方,一期的修復症例も,前期10/22(45%)から後期22/27(81%)に著増(p<0.01)した。3) 死亡率,合併症発生率は,前期から後期でそれぞれ3/22 (14%)→2/27(7.4%), 14/22(64%)→10/27(37%)と改善を示した。4) 前期,後期を通して死亡症例はすべて人工肛門造設症例であり,とくに後期の2死亡例はいずれも開放性骨盤骨折合併直腸損傷であった。5) 後期一期的修復22症例のうちショック合併6例・膵損傷合併2例・左半結腸損傷7例・開腹遅延(24時間以上)3例・大量輸血(10単位以上)5例が含まれていたが死亡症例はなく,また縫合不全などの重篤な合併症も認めなかった。これらの各risk factorのうち,合併症併発群・非併発群に有意な差を認めたのは大量輸血(p<0.01)のみであった。結語:以上の結果から,従来人工肛門造設の適応と考えられていた上記risk factor合併症例においても,安全に一期的修復が施行されており,術式選択に際してこれらを考慮する必要はないと考える。今後の人工肛門造設の適応としては,低位直腸損傷や開放性骨盤骨折合併例に限られるが,大量輸血症例では感染性合併症の発生頻度が高い傾向にあるので術後注意を要すると思われた。

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