日本救急医学会雑誌
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O2-と好中球elastaseによる肺組織傷害発生機序に関する研究
急性肺障害モデルでの両因子の関連を中心に
木下 学望月 英隆小野 聡青笹 季文玉熊 正悦
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1996 年 7 巻 7 号 p. 325-334

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抄録

好中球が産生するO2-と好中球エラスターゼ(polymorphonuclear neutrophil elastase; PMN-E)についてin vivoでの急性肺障害(acute lung injury; ALI)発生機序における両者の関連について検討した。ラットにendotoxin (Et) [0.5mg/kg bolus], platelet activating factor (PAF) [5μg/kg/hr 4hr DIV]を投与し実験的ALIを作成,これにsuperoxide dismutase (SOD) [25,000Unit/kg/hr 4hr DIV], catalase (3.3mg/kg/hr 4hr DIV)投与をO2-阻害群(n=11), PMN-Eの特異的阻害剤ONO5046 (5mg/kg/hr 4hr DIV)投与をPMN-E阻害群(n=7),生食投与をALI対照群(n=10)とした。肺でのO2-産生をMCLA依存性化学発光の相対発光強度(relative lumi-nous intensity; RI)で表すと,O2-阻害群ではRIの上昇がALI対照群に比し抑制されたが(p<0.05), PMN-E阻害群では実験開始3時間後まではALI対照群と同様の上昇を示し,その後横ばいとなった。4時間後のRIはALI対照群(1.47±0.43)に比しO2-阻害群(1.06±0.08)は有意に低く(p<0.05), PMN-E阻害群(1.28±0.22)は両群の中間に位置した。肺胞洗浄液(bronchoalveolar lavage fluid; BALF)中elastase活性ではALI対照群(97.5±138.0U/ml)に比しO2-阻害群(検出域以下),PMN-E阻害群(5.1±13.5U/ml)共に有意に抑制された(共にp<0.05)。またBALF中蛋白濃度や肺での組織学的な含気率,うっ血水腫などのALI所見ではO2-阻害群,PMN-E阻害群共に明らかな改善を認めた。肺での好中球集積については肺組織中myeloperoxidase活性,組織学的な好中球集積共にO2-阻害群でALI対照群のみならずPMN-E阻害群に比しても明らかに抑制されていたが,PMN-E阻害群ではALI対照群と明らかな差はなかった。以上,EtとPAFの投与により作成したラットALIモデルにおいて,O2-を阻害することにより肺でのO2-産生とBALF中elastase活性を抑制し得た。一方,PMN-Eを阻害することでBALF中elastase活性は抑制し得たが,肺でのO2-産生は抑制し得なかった。これより好中球の肺組織傷害に関してPMN-Eは直接的に,O2-はPMN-Eを介して間接的に働く機序が示唆された。またPMN-E阻害剤の肺障害抑制作用は好中球の肺への集積抑制を介さないことが示唆された。

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