胃粘膜防御機構におけるプロスタサイクリン(PGI2)の役割を,ラットの水浸拘束ストレス胃粘膜病変モデルを用いて検討した。胃粘膜の6-keto-PGF1α濃度はストレス30分で一過性に上昇し,ストレス6, 8時間目には前値より有意に低下した。胃粘膜血流はストレス後時間とともに減少し,ストレス8時間目には前値の約40%にまで低下した。また,白血球集積の指標である胃のmyeloperoxidase (MPO)活性はストレス8時間目に有意に上昇した。インドメタシン(IM)で前処置した動物では,ストレスによる胃粘膜の6-keto-PGF1α濃度の上昇は抑制され,胃粘膜血流の減少も著明であった。さらに,IM前処置により胃への白血球集積は増加し,胃粘膜病変も増悪した。PGI2の安定化誘導体であるiloprostの投与によりIM前処置による胃粘膜血流の減少,胃粘膜病変の増悪,白血球集積の増加は有意に抑制された。nitrogen mustard投与で白血球を減少させた動物では,IM前処置による胃粘膜病変の増悪,白血球集積の増加は有意に抑制されたが,IM前処置による胃粘膜血流の減少は抑制されなかった。以上の結果から,胃粘膜のPGI2はストレスによる胃粘膜病変を抑制するために重要な役割を担っており,その作用機序として胃粘膜血流を円滑に保つのみでなく,胃への白血球集積を抑制する可能性が示された。