2018 年 27 巻 1 号 p. 1-6
近年,遺伝性乳がん卵巣がん症候群(Hereditary Breast and Ovarian Cancer Syndrome:以下HBOC)に対する診療体制の構築は進んでいる。特定の薬剤に対する効果予測因子として生殖細胞系列の遺伝子変異が用いられるようになれば,今後さらに遺伝性腫瘍診療の重要性が増すと予測される。遺伝性腫瘍診療の特徴として,発症した本人と発症疾患に限らず,症候群として他の疾患を発症したり,血縁者にも影響を与える点が挙げられる。現在,遺伝学的検査の多くが自費診療で高額であることから,希望者が全て遺伝学的検査を受けている状況ではない。このような状況のなかでも家族歴などの様々な情報から乳がんの発症リスクが高いと思われるハイリスクグループを拾い上げ,適切なサーベイランスを勧める必要があるが,その明確な判断基準はないのが現状である。今回,これまでの知見に加え,当院における遺伝性乳がん(HBOC・Li―Fraumeni 症候群含む)に対する診療体制を報告するとともに,現在ハイリスクグループとしてサーベイランスを行っている症例を提示しながら,ハイリスクの判断基準を検討したので報告する。より正確なリスク評価ができるように,将来的には希望者全てがBRCA1/2 遺伝学的検査を受けることができる環境を整える必要がある。