日本乳癌検診学会誌
Online ISSN : 1882-6873
Print ISSN : 0918-0729
ISSN-L : 0918-0729
第31回学術総会/ワークショップ2 次世代の乳がん検診
ナッジによる検診勧奨とその倫理的議論
―公衆衛生倫理×乳がん検診―
恋水 諄源
著者情報
ジャーナル 認証あり

2022 年 31 巻 2 号 p. 137-141

詳細
抄録

人間は何らかの選択を行う際,自分では情報に基づいた合理的な判断しているつもりであっても,様々なバイアスや考え方の特性によって非合理的な選択をしてしまうことがある。こうした人間の行動経済学的特性を理解し,本人にとって最適な選択を自発的に行えるよう促すためのデザインや仕組みを「ナッジ」と呼ぶ。近年,公衆衛生分野でナッジの利用が進んでいる。ナッジを利用したがん検診受診勧奨資材も作成され,乳がん検診でもこれを活用することで検診受診率の上昇が見られたという効果検証が行われている。 ナッジの基礎にある倫理的・政治哲学的理論はリバタリアン・パターナリズムと呼ばれ,目的に対する手段を適切にガイドすることで,完全な自由放任よりも高いレベルで本人の価値観を尊重できると考えられている。しかし,そうした原理的な妥当性を考慮しても,ナッジが倫理的に疑問視される例はあり得る。非教育的ナッジが用いられる場合,ナッジが促す方向性がそもそも本人に適さない場合などである。ナッジを設計する場合にはこうした倫理的問題も考慮に入れた上で,制度設計に市民を巻き込み,検診制度に一般市民の価値観を反映させつつ,情報を周知する仕組みを構築していくことが望ましい。

著者関連情報
前の記事 次の記事
feedback
Top