2008 年 35 巻 3 号 p. 171-180
タンパク質結晶の完全性に影響を与える要因は様々であるが,溶液中の不純物や温度・濃度の擾乱等,外的条件に原因を求める議論が多い.しかし結晶化条件が同一であっても,タンパク質分子の僅かな性質の違いにより育成結晶の完全性は劇的に変わる.ポイントミューテーションを導入したタンパク質が好例であり,wild-type分子からは結晶が生成しなくとも,mutantからは単結晶が容易に得られる場合がある.この現象は分子自身の物性,すなわち内的要因によって結晶の完全性が左右される事を意味する.本研究ではYnd1pタンパク質を例に取り,アミノ酸一残基の置換が育成結晶の完全性に如何なる影響を与えるか,また,その原因が分子固有の物性値の変化とどのように関連するかを分子間相互作用解析を基に考察する.