カイコ幼虫に濃核病ウイルス(DNV)を接種したのち,常温(28°C)で飼育した場合のウイルス増殖量をsingle radial immunodiffusion法で経時的に定量したところ,増殖曲線はS字曲線を示した。これに対し,ウイルス増殖中の感染蚕を適時高温飼育(37°C)に移すと,以後のウイルス増殖は極度に抑制され,やがてウイルス量が減少する傾向が認められた。
3Hチミジンおよび3Hチロシンを用いたオートラジオグラフから,高温飼育下では感染蚕の中腸におけるウイルスDNAならびに蛋白合成が著しく抑制されることが示唆された。またウイルス蛋白の合成が高温飼育下で抑制されることは螢光抗体法による観察でも裏付けられた。これらの結果から,DNV増殖の高温阻止現象は,ウイルスDNAならびに蛋白合成に関与する酵素活性が高温(37°C)下で著しく抑制されることに基づくものと推察された。