日本応用動物昆虫学会誌
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ミカンハダニの天敵としてのケボソナガヒシダニの生態的特性
井上 晃一田中 学
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1983 年 27 巻 4 号 p. 280-288

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抄録

1) ケボソナガヒシダニの雌成虫はミカンハダニの各発育ステージのなかで,卵を最も好んで捕食した。
2) 本種のミカンハダニの卵に対する1日1雌当たり捕食数は餌密度が高くなるにつれて増加したが,その曲線の傾斜はゆるやかで飽和型を示した。また,卵の密度が1葉当たり2∼16個と餌密度が低い場合でも1日当たりの捕食率が30∼45%程度で,かなり食い残しがみられた。
3) 本種は15∼25°Cの範囲では温度がくなるほど,ミカンハダニの卵に対する1日1雌当たりの捕食数は1∼6.1個と多くなったが,30°Cでは3.4個と25°Cの場合より減少した。
4) 本種の生存力,産卵力および増殖率を20, 25, 30°Cの条件で比較した。その結果,いずれの温度条件下でも,とくに幼若虫の死亡率が高かった。また,1日1雌当たり産卵数は20°Cで1.5個,25°Cで3.8個,30°Cでは3.1個であった。本種の10日間の増殖率(e10rm)は20°Cで約2.3倍,25°Cで4.4倍,30°Cで5.5倍であり,25°Cと30°Cではミカンハダニの増殖率より低かった。
5) ケボソナガヒシダニの放飼実験の結果,ミカンハダニとケボソナガヒシダニの雌成虫の放飼時の比率が5:1以上に捕食性ダニのほうの比率が高い場合は,放飼後ミカンハダニの雌成虫の密度が1葉当たり3.4個体以下に抑制された。
本種はハダニの密度に依存して増減するが,その制御効果はニセラーゴカブリダニに比べるとかなり劣っていた。
6) ケボソナガヒシダニはカンキツ園では,雌成虫態で主として葉裏に生息して越冬するが,越冬期間中の死亡率はきわめて高かった。

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