日本応用動物昆虫学会誌
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ハリガネムシに関する研究
XII. マルクビクシコメツキ幼虫の体水分の喪失
吉田 正義由谷 信道
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1959 年 3 巻 2 号 p. 65-71

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抄録

1) ハリガネムシの体重ならびに体水分の減少率曲線はいずれも同じ傾向を示すことや,きわめて短時間に体重が減少するが脱糞胃液の吐出などの排泄現象がみられないことなどにより,体重の減少量そのものが体水分の喪失量に当ることが推察された。
2) 湿度を一定にして体水分の減少速度を比較すれば,14∼20°Cではおおむね近似した値を示したが,25°Cを過ぎれば急激に増大した。この傾向は酸素消粍量における温度の傾向とおおむね一致した。25°C以上の温度はマルクビクシコメツキ幼虫の生育にとって異常な温度であろう。
3) 温度を20°Cにして体水分の減少速度を比較すれば,湿度が減少するのに比例して減少速度は直線的に増大した。ハリガネムシの表皮には体水分の喪失を防止できない相当大きな場所があることが推察された。
4) マルクビクシコメツキ幼虫を硝酸銀アンモニア溶液に浸漬して染色すれば,胸脚の基部と腹面に沿って2条のきわめて短時間に反応する還元層(多価フェノール層であろう)が表皮に露出して存在するのを認めた。これらの還元層は体水分の喪失場所ではなかろうか。
5) 胸脚の運動停止の時期をもって仮死のときとした。この時期では幼虫体は固化して棒状を呈し完全に死亡したようにみえるが,これを水中に投入すれば生気を回復して潜土する能力を持っていた。
6) ハリガネムシは実験の初期においては,第1回帰直線の傾きで体水分は減少するが,仮死により体水分の減少速度を急激に増し,第2回帰直線の傾きで減少した。したがってハリガネムシはきわめて僅かではあるが,体水分の喪失を防止する機能をもつものと思考される。
7) 冬期(非摂食期)における体水分の減少速度は春期(摂食期)の約1/2であり,ハリガネムシの浸水ならびに乾燥に対する抵抗性の傾向と同様であった。
8) 土壤昆虫の体水分の減少速度と他の環境下にある昆虫のそれを比較した。クリシギゾウムシおよびキリウジガガンボの幼虫は200分以内では死亡しなかった。体水分の減少速度の最も早いものはサビキコリの幼虫で,マルクビクシコメツキ幼虫の2.42倍であった。マメコガネ幼虫の体水分の減少速度はマルクビクシコメツキ幼虫のそれとおおむね同様であった。

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