日本応用動物昆虫学会誌
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家蚕卵殼の構造と透過性
高橋 保雄
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1959 年 3 巻 2 号 p. 80-85

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抄録

1) 家蚕卵殼の構造は7層に分けられる。外卵殼は2層からなり,内卵殼は5層からなる。
2) 内卵殼の一部(第2図のc層)にきわめて明瞭な多数の垂直線状のものが認められ,これが孔管(pore canals)であると考えられる。
3) 色素液の蚕卵内に透入する程度は色素の種類,蚕品種および同一の蚕品種でも卵内胚子の活性化の程度によってかなり異なる。スーダン黒は比較的容易に卵内に透入するが,メチレン青は透入しにくい。また越冬前の不活性卵では色素が透入しにくいが,越冬後の活性卵や塩酸による人工孵化卵では比較的透入しやすい。
4) 卵殼における色素の透入は主として卵殼最内面に位置する蝋層と考えられる薄層により妨げられる。
5) 卵殼の透過性は外卵殼の厚さに密接な関連を示す。
6) 卵殼は不均斉透過性の現象を示し,外面から内面に向う透過がその反対方向の透過よりも困難である。
7) 卵殼の外面から内面に向う方向の透過性は卵殼の内面をクロロホルムでぬぐったものが無処理のそれよりも著しく大きいが,卵殼の外面をぬぐったものでは無処理のそれと大差ない。他方,卵殼の内面から外面への透過性は卵殼の内面および外面のいずれを処理したものでも無処理のそれに比較的近似している。これらの事実から蝋層は卵殼の内面から外面に向う透過には大した役割を演じていないようであるが,その反対の外面から内面に向う透過には重要な障壁となっているように考えられる。

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