大曲,村上,鹿瀬,松代および秦野産イネカラバエの越冬幼虫を高田に移して飼育し,それらの幼虫およびさなぎの発育を高田産のイネカラバエと比較した結果,次のことがわかった。
1) 春季発育開始後における幼虫発育は高田産のものが最も早く,秦野産がこれにつぎ,大曲,村上,松代産ははるかにおそかった。
2) 第1化期成虫羽化時期も高田産が最も早く,秦野産がそれについだが,半数羽化日では高田産より約10日おそかった。他地点のものは更に遅れたが,松代,村上,鹿瀬産のものは羽化期間が長くかつ不斉であった。
3) 越冬幼虫を温室に置いて稲の幼苗で飼育した結果,高田産が最も早く羽化し,秦野産がこれにつぎ,村上,大曲産は最も遅れた。
4) 越冬世代虫のよう期間も高田産は約10日,秦野産は約11日,大曲産は約12日,村上,鹿瀬産は約12.5日であった。
5) 第1化期幼虫期間も高田産は30日以下で最も短く,秦野産がそれにつぎ,大曲産は最もおそくて,すべて51日以上を要した。松代,鹿瀬産は高田産に近いものから大曲産に近いものまで,変異が非常に大きかった。
6) 1956年秋大曲産越冬幼虫を高田に移し,以後同地で3世代を経過させた1958年春の第1化期成虫羽化時期は,1957年秋高田へ移した大曲産の成虫羽化時期と大差なかった。
7) 以上の諸実験から,イネカラバエの発育に関しては顕著な地方的差異がみられ,それらのうち高田や秦野産のものが属する3化地帯産のものと,大曲産で代表される2化地帯産のものはたがいに別の生態的系統に属すとみなしうる。しかし同じく3化性の系統に属するものでも地方によってかなりの変異が予想される。
8) 高田産第1化期雌成虫と大曲産第1化期雄成虫を交配した次世代幼虫の発育期間の変異は大きかったが,その変異は鹿瀬や松代産幼虫のそれに似ていた。このことからいわゆる2, 3化混発地帯においては,両系統の自然交雑に由来する集団が生息しているものと考えられる。