日本応用動物昆虫学会誌
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アブラムシの有し型胎生雌の出現について
VII. 有し型から有し型が出現しにくいことについての一知見
野田 一郎
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1959 年 3 巻 4 号 p. 272-280

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抄録

キビクビレアブラムシおよびトウモロコシアブラムシにおいては無し(翅)型からは有し(翅)型が出現しやすいが,有し型から有し型は出現しにくい。しかしムギヒゲナガアブラムシにおいては有し型からも有し型が容易に出現する。したがって前二者においては有し型からのし(仔)虫(O-W)と無し型からのし虫(O-UNW)とはそれぞれ異なった生理的性質をもっており,後者では両し虫の性質にほとんど差がないのではないかということが考えられる。そこでこのことを明らかにするために,まずいろいろな定温下で両し虫の各令における生育速度を調べてみた。その結果は次のとおりである。
1) 前二者ではO-WとO-UNWとの間に2∼4令における生育期間にほとんど差が見られなかった。
2) 前二者のO-Wにおける1令の生育期間はO-UNWのそれに比べ一般に著しく長かった。特に15∼30°Cの場合O-Wの中には温度の高低に左右されることなくほとんど同じ速度でゆっくりと成長するものもあれば,O-UNWと同じようにすみやかに成長するものもあった。すなわちO-Wの1令ではその生育期間に著しい個体差が見られた。
3) (2)で述べたような諸事実は,O-UNWの1令では決してみられなかった。
4) 以上の事実から前二者のO-Wではその1令期間中,あるいはおそくとも型決定の臨界期が過ぎ去るまで直接または間接にし(翅)芽の発達を抑制するホルモンまたはホルモン様物質が分泌されているものと思われる。かつ,この抑制物質が量的にある一定限度を越えるときにはし芽ばかりでなく体の残りの部分の成長をも抑制するようになるのではないかと考えられる。また上述のようにO-Wの1令の生育期間に著しい個体差を生ずるのは,このものの量的な差に基づくのではないかと考えられる。
5) しかし後者では1令から4令までO-WおよびO-UNW間に生育速度の差が見られなかった。すなわちムギヒゲナガアブラムシではO-Wの1令期間中でもし芽抑制物質の分泌はほとんど行なわれていないものと考えられる。

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