日本応用動物昆虫学会誌
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クマリンのヤサイゾウムシ成虫に対する誘引と摂食阻害作用-スィートクローバー葉の不可食性との関係
食葉性昆虫の寄主決定に関する研究 VI
松本 義明
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1962 年 6 巻 2 号 p. 141-149

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抄録

ヤサイゾウムシの種々の植物に対する摂食反応を調査中に,成虫はスィートクローバーの葉(以下スイート葉と略記)をほとんど食べないことを見出したので,この不可食性について調べた。成虫は生葉,葉汁液の香気に誘引され,試咬の段階までは到達できるが,それ以上摂食をほとんど続けられない。成虫がよく食べられるサントウハクサイ葉汁液にスィート葉汁液を混ぜると,摂食は著しく阻害される。したがって,スィート葉には成虫を誘引し,摂食を阻害する化学的因子があると考えられた。次いでスィート葉香気の主要成分であるクマリンに対する走化性を調べたところ,成虫はクマリンを添加した嗅源体のごく近くまで誘引されるが,それ以上,試咬の段階に進めないことがわかった。クマリンとサントウハクサイ葉汁液とを混ぜた食餌を与えると,クマリンの刺激性は,サントウハクサイ葉汁液香気の共存によって緩和されるらしく,成虫は誘引され,更に試咬の段階まで到達し,クマリンが低濃度の場合には,継続摂食に入るものもある。しかしこの試咬・継続摂食は,スィート葉・葉汁液に見られたのと同じように速かに中止される。以上の結果から,クマリンはスィート葉が成虫に対して示す誘引性および不可食性の化学的1因子と考えられる。
このようにクマリンがヤナイゾウムシ成虫に対して,誘引と摂食阻害という相反的二重の生理的効果を示したことは,青葉アルコール,カラシ油類,セリ科精油類が誘引と咬反応誘起とを示したことと対照的である。また同時に,この実験から,ヤサイゾウムシ成虫を誘引する物質が,常に咬反応を引き起こすとは限らないものであることが明らかにされたわけである。更に,この実験で明らかにされたスィート葉とヤサイゾウムシ成虫との関係は,植物の寄主不成立の一つの型を示すものとして注目されるべきであろう。

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