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日本応用動物昆虫学会誌
Vol. 9 (1965) No. 3 P 225-237

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http://doi.org/10.1303/jjaez.9.225


ツマグロヨコバイNephotettix cincticeps UHLERにおける,稲萎縮病ウイルスの経卵伝染について,電子顕微鏡的研究を行ない,雌成虫体内の稲萎縮病ウイルス粒子が,経卵的に伝染する状態を明らかにした。
保毒成虫の卵巣小管の超薄切片を電子顕微鏡で調べた結果,その栄養細胞,菌細胞(mycetocyte),柄部の細胞等の細胞質内に,直径25∼30mμのウイルス様小粒子があり,直径約70mμの稲萎縮病ウイルス粒子は,菌細胞の細胞質から検出された。この菌細胞の細胞質には,電子密度を異にするL-symbioteとH-symbioteが認められるが,これは菌細胞の側突起が,体液中の両symbioteを捕捉し食作用(cytosis)によって取り込んだものらしく,ウイルス粒子もこの時に同時に菌細胞へ侵入するようである。この菌細胞の細胞質中に両symbioteが充満すると,稲萎縮病ウイルス粒子は,電子密度の低いL-symbioteの表面の膜に吸着,あるいは隣り合つたL-symbioteの表面の,膜と膜との間に挾まった状態で存在する。このように稲萎縮病ウイルス粒子をもった菌細胞は,卵黄形成期に達した卵母細胞の陥入部(卵巣小管の柄部に近い極に生ずる)に移行するので,卵母細胞は初めてウイルス粒子をもつた細胞(菌細胞)に接触する。この後,卵殻が形成されると,菌細胞は卵内に封じ込められるので,ここで卵はいわゆる保毒卵となる。
稲萎縮病ウイルスの経卵伝染の一つの経路として,上述のように菌細胞が保毒し,それが卵母細胞へ入り込むことによって,卵が保毒するいわゆる経卵伝染が生起することを明らかにした。この場合,菌細胞中のL-symbioteがウイルス粒子の直接的な担体の役目を果していることは,注意すべき事実である。
胚子発育期間における稲萎縮病ウイルスは,まず菌細胞が発達した菌器(mycetome)で増殖するらしく,菌器の各細胞層でウイルス粒子が検出される。その後,胚子発育と共に各胚葉の細胞質でもウイルス粒子が認められるようになる。後胚子発育期間における稲萎縮病ウイルスは,菌器,脂肪体,消食管,マルピギー氏管および唾腺で増殖している状態が観察される。これらの各器官の内,菌器と唾腺でも稲萎縮病ウイルスが増殖している事実は,新しい知見である。
ツマグロヨコバイ体内の各器官における稲萎縮病ウイルス粒子は,細胞質の電子密度の高い域(clectron-dense area)から検出され,ウイルスはここで増殖するようである。このelectron-dense areaは,主にbacteroid symbioteとそれを取り囲む多重の膜構造によって構成されているが,稲萎縮病ウイルス粒子はこの膜構造の部分に存在する。またここには常にウイルス様小粒子が検出されるが,この粒子と稲萎縮病ウイルス粒子との関係は明らかでない。Electron-dense area以外の細胞質中の稲萎縮病ウイルス粒子は,個々に散在している場合や数個が小胞に包まれている場合などあるが,往々にして粒子が1列に並び,外側に鞘状の構造を持っている場合がある。この鞘状構造の由来とその意味については,前述のウイルス様小粒子の問題と共に,今後の研究にまたねばならない。

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