日本助産学会誌
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20周年記念論文
生後1ヶ月から1年までの乳児の泣きに対する母親の情動反応に関する縦断的研究
田淵 紀子島田 啓子
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2006 年 20 巻 1 号 p. 1_26-1_36

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抄録

目 的
出生後1ヶ月より1年までの乳児の泣きに対して,母親が示す情動反応を明らかにすることである。
対象と方法
調査1:1ヶ月健診受診の母親763名を対象に,生後1ヶ月時の児の泣きに対する情動(児の泣き声を聞いたときの受容的・非受容的情動20項目)について,自己記入式質問紙調査を実施した。
調査2:調査1で継続研究に同意の見られた母親429名に対し,同様の自己記入式質問紙調査を児が4~5ヶ月になった頃に実施した。
調査3:調査2で継続研究に同意の見られた母親305名に対し,同様の自己記入式質問紙調査を児が1歳になった頃に実施した。
結 果
生後1年までの調査すべてに回答の得られた母親251名を分析の対象とした。
対象は,初産婦124名(49.0%),経産婦127名(51.0%)であった。
1ヶ月時の受容的情動得点(range 10-40)の平均は30.6±5.3点,非受容的情動得点(range 10-40)は18.0±6.3点であった。4~5ヶ月時の受容的情動得点は29.8±5.9点,非受容的情動得点は17.6±5.8点,1年時の受容的情動得点は28.2±5.8点,非受容的情動得点は18.9±6.1点であった。児の泣きに対する母親の受容的情動傾向は生後1ヶ月から1年を通してみられたが,最も受容的情動が高かったのは1ヶ月時であり,時間の経過とともに有意に低下していた(p<0.05-0.0001)。一方,非受容的情動は1年を通して低かったが,1年時は,1ヶ月時,4~5ヶ月時に比べて有意に高くなった(p<0.05-0.0001)。受容的情動は1ヶ月時点で経産婦の方が初産婦より有意に高かった(p<0.05)が,反対に非受容的情動は経産婦より初産婦の方が有意に高かった(p<0.01)。出産経験によるこれらの差は1ヶ月時に顕著に認めたが,4~5ヶ月時や1年時ではみられなかった。
結 論
児の泣き声を聞いたときの母親の情動について,生後1ヶ月,4~5ヶ月,1年の3時期を母親251名から縦断的に調査した結果,1ヶ月時では受容的な情動が高いのに対し,時間の経過とともに低くなり,1年時では非受容的な情動が高まるという逆転がみられた。

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© 2006 日本助産学会
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