日本助産学会誌
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出生直後の健康な新生児に対する鼻腔口腔咽頭吸引群と非吸引群の比較
―経皮的酸素飽和度および心拍数に与える影響―
高橋 由紀
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2009 年 23 巻 2 号 p. 261-270

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抄録

目 的
 我が国の多くの分娩施設では,出生直後の新生児ケアとして鼻腔口腔咽頭吸引が日常的に行われている。しかしながら,健康な正期産児を対象に,その有用性を検証した研究はほとんど無い。そこで,本研究は,鼻腔口腔咽頭吸引が酸素飽和度と心拍数に与える影響を明らかにすることを目的とした。
対象と方法
 対象は,定期的に妊婦健診を受け合併症のない妊婦から正期産で自然分娩にて出生した健康な新生児26名とした。吸引処置の有無については,隔週毎に実施週,非実施週と設定し,新生児を非吸引群,吸引群の2群に割り付けた。新生児の呼吸・循環状態の評価指標には,酸素飽和度(以下SpO2と記す),心拍数(以下HRと記す)を用い,出生2時間後まで30秒ごとに測定した。SpO2が96%以上を記録した時点と心拍数が160回/分以下を記録した時点を各状態の安定化と定義し,それらに達する時間を算出した。SpO2とHRの変化について,非吸引群,吸引群を比較することにより,出生直後の鼻腔口腔咽頭吸引の必要性を評価した。
結 果
 非吸引群13名,吸引群13名の児において,SpO2が96%に達するまでの時間は各々623±266(平均±標準偏差)秒,687±205秒であった。HRが160回/分以下に安定化する時間は,同順に593±332秒,755±442秒であった。SpO2とHRともに両群間に統計学的な有意差は認めなかった。しかしながら,出生後10分までの観察においては,統計学的な有意差はみられなかったものの,非吸引群の方が吸引群に比して,SpO2,HRともにやや早く安定化する傾向が認められた。
結 論
 本研究結果より,健康に出生した新生児に対して呼吸確立を目的として慣例的に実施されている吸引処置の効果を実証する生理学的根拠は得られなかった。助産師を含む臨床実施者は,慣例的に行われている鼻腔口腔咽頭吸引を再考すべきである。

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© 2009 日本助産学会
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