日本助産学会誌
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原著
産褥期の母乳育児をする母親の母親役割の体験
稲田 千晴北川 眞理子
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2010 年 24 巻 1 号 p. 40-52

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抄録

目 的
 産褥期の母乳育児をする母親の母子相互作用の体験を,母親役割の視点から明らかにする。
研究方法
 母親が母乳育児を希望しており,24時間母子同室を行い,健康な産褥経過をたどっている母子を対象とした。研究への参加同意は自由意思とし,看護水準の維持と個人情報の保護を保障した。データは参加観察法と半構造化面接によって収集し,観察された母子相互作用と半構造化面接によって明らかになった母親の認知を1つのエピソードとし,質的帰納的に分析した。
結 果
 初産婦5名,経産婦7名の計12組の健康な母子に研究協力が得られた。分娩直後から1ヶ月健診までの対象者への支援への参加観察によって得られた,母乳育児に関する85のエピソードを抽出し,母親の役割認識に基づいて質的に分析し,「子どものニーズの探求行動の抑制」,「効果的な吸啜の工夫」,「子どもへの積極的な接近」,「子どものニーズに応えることと自身の身体的ニーズとの葛藤」,「子どもの特徴を考慮したケアの試行錯誤」,「子どものニーズの確認」,「子どもとの絆の深まり」,「授乳の評価」,「母親役割の再構築」,「子どもへの制限的応答」の10のカテゴリと,25のサブカテゴリを導いた。
結 論
 本研究における母乳育児に関する母子相互作用において,母親役割を評価するカテゴリが明らかになった。カテゴリの構造,カテゴリ間の関係や,発達の過程については今後,さらなる解明が必要である。
 母乳育児のスキルを獲得する中で母親は役割の獲得,能力の開発を行っている。能力や役割獲得の段階の評価については今後の研究で明らかにする必要性がでてきたが,母乳育児は母親の母親役割獲得のために重要な養育行動であることが明らかになった。
 また,観察される母子相互作用が同じでも,母親役割の異なる行動があることが明らかになり,母子相互作用の量で,母親役割を評価することはできないことが明らかになった。逆に行動の意味づけを導くことによって,容易に母親役割を評価することができることが明らかになった。

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© 2010 日本助産学会
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