行動分析学研究
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シングルケースデザインと質的研究 : 質的研究と行動分析学との協働(記念シンポジウム)
田垣 正晋
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2015 年 29 巻 Suppl 号 p. 233-239

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抄録

本研究は、質的研究と行動分析学の協働の可能性を論じたものである。両者には、研究対象者が少ないこと、研究者と対象者の相互作用を重視していること、広義の行動のプロセスの記述の重視、知見の一般化よりもローカルな理論を目指していることといった共通点がある。行動分析学における質的研究の例として、介入者や対象者それぞれの問題行動や介入に対する意味づけを、インタビューによって長期的な観点から明らかにしたり、参与観察によって他の構成員との相互作用を、その属する組織の規範を意識しながら検討したりすることが可能である。ただし、質的研究と行動分析学おのおのが依拠する認識論は相異なり、質的研究では、真実ないし事実は文脈に依存していると想定される。例えば、質的研究においてしばしば分析の対象となる語りは、語り手の内的な状態の投影というよりも、聞き手との相互作用、両者を囲む社会文化的な文脈によって構成されている。認識論の違いに留意したうえで質的研究と行動分析学の協働を進めることが必要である。

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© 2015 一般社団法人 日本行動分析学会
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